分かつ種族
第221話「オノレ」
「ところで、私はどうやって帰ればいい?」
「そんなつもりなかったから、考えてなかったなァ。──どうしようねェ?」
初めて見るシロウサギのうろたえた様子に思わず口の端が緩んでしまったが、そんな場合ではなかった。
「入れたのに出られないのはおかしいだろ」
「そもそもォ、ここに来られる方が普通は変だからなァ。キミの方が狂ってるんだよォ」
「失礼な奴だ」
「だってそうじゃないかァ? キミは自分が何者か全く分かってないんだからねェ」
シロウサギが時計を取り出し、ボタンを押し込む。途端に辺りは半壊した部屋から白い薔薇の咲く庭に変わる。城を見上げたハルに、彼はさらに畳みかける。
「キミは人間? それとも妖怪? もしくはそのどちらでもないのかもしれないねェ。よォく考えてェ、ここへは自我のない者しか通り抜けられないんだからさァ」
「私は妖怪だ」
そう言いきってから、ふと旧都のことを思い出した。翠とともに物資を取ってきた帰りのことだ、アマテラス達は不安げな表情をしていた。そして問う。
──あなたは本当に妖怪ですか?
「私は、妖怪……だよな」
夜の顔立ちはまさに獣のようになる。人間の娘は腕をもいだら二度と生えてこないし、人の肉も喰わない。しかし、何か記憶の海が波立っている気がした。
「もう分かってるはずなんだよォ。記憶を封じる術が解けたのに引きずられてェ、自分がこうなった日のことを思い出したはずなんだァ」
「何故そんなことがアンタに分かる」
「誠だねェ。彼はもはやキミの一部であり、記憶も共有されてるのさァ。そう、確か路地裏の小さな隙間──」
「黙れッ!」
叫んで、ハッとした。今のは誰だ。
「ほぅらねェ」
「どうして……私は一体?」
「キミがその正体に気づいた時、浮世はどうなってしまうかなァ? 全てがめちゃくちゃになるかもねェ」
シロウサギがクククと喉を鳴らす。彼にはハルをここから出すつもりがないらしい。脳細胞のどこかがぷつ、と切れた。
「さっさと答えを言えよ、ウサギ肉になる前にな」
「こわーいこわい、上等だよォ! 決着やいかに、ってやつだねェ!?」
シロウサギの調子がいきなり変わった。絶叫に近い笑い声をあげながら襲いかかってくる。鎖を弾き拳を振るうが避けられた。
「ずぅーっと待ってたよォ、キミが本能へ帰るのを! ボクは戦うために自我を得た。キミはどうかなああぁッ?」
「捻り潰してやる……!」
ハルとシロウサギの視線が交差した。
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