第207話「縛」

「……はぁ」

 ため息をついてうなだれる。途端にお札を突きつけられ、顔を上げさせられた。

「僕を脅かした罰です。女性だからといって手加減したのが間違いでしたよ、まったく」

「アンタらはこの縛り方が好みなようだな?」

 手足の拘束に加え、首まで押さえられてしまった。首輪が二つでは流石に息苦しい。お札まみれの部屋では力も入りきらない。両腕を吊り上げられたせいで痺れてきた。

「放してくれないか」

「いいですよ。逃げられたら、ですが」

 遼が鼻高々に告げる。

「これは死屍子封じの際にも用いられる、神道でも最高位の束縛術だそうですよ。僕は陰陽道なので術式はあまり使いませんが、これも修行ですしね」

「ふん」

「なぁッ!?」

「最高位、ね。まあ慣れてないなら仕方ないよな」

 思いきり力を込めるとお札に亀裂が走り、一気に束縛が解けた。くつくつと笑うハルに遼の目つきが変わる。ムッとした表情になり、ずいと顔を近づけた。

「今回は負けを認めましょう。しかし! いつか天明や社地をも超えて、陰陽道が覇権を握ってみせます」

「ひかりに害をなすつもりか」

「そ、そんなつもりは……。顔が怖いです」

「仲良しやなぁ。ええことや」

 晴明が入口でカラカラと笑っている。遼は苦い顔をしていた。

「父上、僕にはまだ妖力が足りないようです。こんな様子であの仕事が務まるかどうか」

「気合いでどうにかせえ。わしらにはもうできんのやから」

「何の話をしてるんだ?」

 二人の間で視線が交わされる。すぐに逸らされた目はハルに向き、疑念の感情が垣間見えた。何か別のものを見ているようなそれに眉をひそめる。

「ハルちゃん」

「何だ」

「あの子のために死んでくれって言われたら、死ぬか?」

 ハルは首を傾げた。

「むしろそれ以外にどうしたらいいんだ」

「ほんま、おもろい子やで。あかりが妙に気に入っとんのも分かるような気ィするわ。根は素直でかわええ子なんやなぁ」

 ちょいちょいと呼び寄せられてハルと遼は晴明の後に続く。ハルはひかりの中にほんの少しでも、自分がいたらいいなとぼんやり思った。きっとまだ旧都にいるだろう。

「早くこんなところ出ていって、ひかりに会いたいんだけどな」

「こりゃあかん、そろそろ本気で灸を据えてやらんとほんまに逃げてまうで。かわいがって甘やかすんも限界あるわ」

 晴明は大層な身振りとともに、あからさまに肩を落とした。

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