第135話「徹底的に」
「中央の通りにいるのは大体やったはずだけど……これで何割減ったかな」
「一割にも満たないでショウ。瓦礫に埋もれてやり過ごした妖怪も多いはずデス、ほらネ」
血を吐きながらもあちこちから妖怪が顔を出してくる。中央部は跡形もなく消し飛んで、円状のくぼみができていた。その中にツタが蠢いている。
「ああよかった、ちゃんと生きてた!」
「
「ふーんだ」
「のんきに話してる場合じゃないからな、ちゃんと前を向け」
ジャスと翠を窘めて、腰を落とし敵に構えた。奇襲によってだいぶ体力も削られた様子の妖怪達ににやりとし、拳を握る。
「ジャスとアマテラス様の作戦には本当に感謝するよ。治るのが遅くなってるなら、私達の方が強い」
「早く片付けてティータイムにしたいものデス」
「ぼくだってやればできるとこ、見せてやる!」
風が止み、揺れていたハルの髪が動きを止めた。三人の視線がまばらに宙へ舞う。
「そらッ」
大百足を蹴り上げる。さらけ出された腹部へもう一撃加えると、細長い胴体がムチのようにしなって他の妖怪を巻き込んだ。すかさずジャスがナイフを突き立て、結界で動きを封じる。
「小癪なマネしやがって! お前らも妖怪なら堂々と戦え、この恥知らずめ」
「こないだから洞窟の周りをうろちょろして、餓死させようとした卑怯者はどこのどいつだよ? お互い様って奴だろッ!」
地面へ引き倒してはツタや結界で押さえ込み、数を減らす。やがて再び曇り空を割って光が差し始めたのを確認し、三人がその場から距離を取った。
「一旦アマテラスのもとまで引きまショウ。これは大きいものが来そうデス」
「分かった」
「い……嫌だああああッ、死にたくねえ!」
背中にぶつかる絶叫にフッとハルが振り向き、走りながら鮮やかな赤眼を見せる。
「洞窟の人間もそう思ってるのさ」
ドッと光の剣が天を切り裂き、旧都へ突き刺さる。それをジャスの結界でやり過ごし、道すがら襲いかかる妖怪をいなして穴まで後退した。入口に正座したアマテラスがこちらに気づき、空に掲げた両手を下ろす。
「生きていましたか。わたしにはあなた達の姿は見えませんから、適当に打って当たったらどうしようかと」
「結構正確だったよ、おかげで一方的な戦闘に持ち込めた」
アマテラスは胸を撫で下ろしたようだった。マチネも姿を見せて、風を操り塵を寄せつけない配慮をしてくれる。服の埃を落としながら、ジャスがくせっ毛をいじっていた。
「ここまで徹底的にやれば、生き残りも士気を下げるはずデス。我ながら恐ろしいものを考えつきマシタ」
「ほんっと悪魔」
ひと息つく五人の頭上から不意に、ぱらりと小石が落ちてくる。それを見上げたハルが青ざめた。
「岩が……降ってくるぞ!」
それぞれがバラバラに飛びのけ、アマテラスと翠は穴の奥へ転がり落ちていった。ジャスがマチネを抱えて横に避け、ハルもその隣へ逃げる。
「出入口が……」
雲の隙間から覗いていた太陽が徐々に薄くなり、辺りが暗くなっていった。
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