第130話「偶然の幸」

 ハルの正体は何なのかという結論は後回しということになったが、マチネは不服そうだった。先ほどからぶつぶつと何やら唱えている。流石、この国の妖怪研究の最先端へ立つ者の一人だとハルは感心していた。

「どこまでの遺伝子レベルなら妖怪と見なされるんだろう……。ジャス様は二分の一でここに入れたわけだし、クォーター辺りまでならいけるのかなー……」

「ねえ、そろそろ頭休めたら? 聞いてるこっちが頭パンクしそうなんだけど」

「何を基準に妖怪を選別してるんだろう。骨肉に刻まれているDNAの情報でないとするなら……エネルギー量?」

「ねえってば」

「つまりエネルギーの少ない化け狸や妖狐なら入れる可能性も……。ハルの運動量から察するに、この基準なら弾かれるはずなんだけど……」

「聞いてんのー!? ねーマチネったら、ぼく頭痛い!」

「安静時のエネルギーの数値はまだ計測してなかったっけ、それを一度測ってみてから……。──よし!」

「うわッ」

 ぐんと近づいてきたマチネは勢いのあまり、ハルとひたいを激しくぶつけた。翠がほっと息を吐いて後ろに倒れ、ジャスの膝に寝転ぶ。

「ワタシは椅子じゃありマセンよ」

「だってちょうどいいんだもん」

「大丈夫かマチネ。あと、いつ私が戦ってる時に計測なんてしたんだ。危ないからやめた方が」

「そこに横になって、ゆっくりと深呼吸してねー」

「話を聞いてくれ、ったく」

 大人しく指示に従う。しばらく計測器と繋いだパソコンに顔を寄せていたマチネだが、機器を首元へ近づけた途端にぽそりと呟いた。

「ここだけエネルギー量が不安定だねー、増えたり減ったり……なんで?」

「首輪、ではないでしょうか」

 アマテラスが口を挟んだ。

「それはわたしの力を練り固めたものですから、当然光の効果を持ちます。わたしの采配によっては力に強弱をつけることも可能ですから」

「なるほど! これでエネルギーを相殺してるわけだね。内部の量はともかく、表面上は力が弱く見えるわけだ」

「気は済んだのか」

「うん、すっきりしたー」

 清々しい表情を浮かべるマチネにペットボトルの水を渡し、ハルが身体を起こす。仮にさっき首輪を外していたなら、ここから出ることはできなかったのかもしれない。

「正しい選択だったようですね」

「我ながら見事だな」

 二人は目配せをし、こっそりと笑い合った。

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