第129話「証」

「なるほどな、わたしに人間の血が混じってるとそんなことになるのか」

「ええ。ですから念のために、あのような無茶な戦い方はやめてほしいのですが」

 帰ってきた翠とともにジャス達が物資を手渡す隣で、空になったダンボールを敷いた地面に座る。正面のハルはちんまりと正座をして、うーんと唸った。

「まあアマテラス様がそう言うなら、頑張ってはみるけどさぁ。どうだろう、急にやられたら手足くらいは犠牲にするかもしれない」

「予想通りの答えでいっそ呆れますね」

「はは、見捨てないでくれ」

 アマテラスが抱き締めて撫で回したせいで、ハルの黒髪はボサボサになってしまった。本人はそれを気にする素振りもなく、丹念に両手を見つめている。

「人間かもなんて考えたことないけど、夜だけ牙とか爪が獣じみたものになるわけだし。人間と獣の妖怪が親なんだと考えてみたら、結構納得できるかな」

「しかし、混血種は大抵そこまで強くは育ちませんが」

「四年もあかりに叩き上げられたから。……ん、そういえばなんでだろう」

 ハルが首を傾げる。説明を求めたところ、あかりに育てられた時代は毎日のように戦いを挑んでは負けていたのだという。そして悔しがるハルにかけられる言葉はいつも、やめろではなく煽るようなものだったらしい。

「確かに、妖怪の本能を抑えて人間になれという彼女の思いには反しますね」

「というか最近、記憶そのものが濁ってるんだ。……私の記憶がどこまで本物か、分からない」

「あなたもわたしと同じだと?」

「さあ、そこまでは」

 ハルは首をすくめる。その仕草に目を向けた時、アマテラスは随分前にそこへかけたものに目を留めた。

「首輪……。もう抗うつもりもないようですし、外しましょうか」

「うーん。それはいいや、しばらくこのままがいい」

「あら、それは何故?」

 銀の首輪に指先をかける。主従の証としてつけたはずだが、今では関係がやや変わりつつある。仕置きはもうすることもないだろう。

「これをつけてると妖怪の力が抑えられるんだよ。私はもう誰も殺さないと約束した、でもひかりの身に何かあったら加減できるか分からない。だから念のため、な」

「あなた……あれでまだ全力ではなかったと」

「うん、まあそうなるのかな」

 本当に人間の血など混ざっているか、アマテラスには分からなくなっていった。

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