神道力の本領

第111話「妄想の確証」

「今日も退治に行くなら、私も手伝うよ。しばらく泊めてもらう礼としてな」

 ハルが腰を上げる。他にアマテラスの記憶を取戻す目処が立たない現状では、どこへ行こうにも動きにくいのだ。

「恐れ入ります。よろしくお願い致します」

「ジャスも一緒に行かないか。手は多い方が楽でいいしさ」

「分かりマシタ。デスが少し用事もありマスので、そちらも行っていいでショウか?」

 止める理由もない。頷いて三人で外に出るとひかりに呼び止められた。振り向くと小指がちらりと顔を出している。ハルも小指を立てて振ってやり、すぐ社地の隣へ戻った。

「では道を開きます」

 そう言うが早いか、景色はすでに町外れの木陰になっていた。現世は今日も雨が続いている。社地はそばに立てかけてあった唐傘を二人に差し出した。

「本日はどこへ妖怪が現れたかをお伝えできませんので、丹念に見回っていただければと思っております」

「了解」

「ええ、分かりマシタ」

 ジャスは一足先に街中へ向かっていった。ハルはフッと柔らかな笑顔が消えた社地に対してにやりとしてみせる。

「名前は思い出せたのか」

「まだでございます」

「顔と口調がズレてるな、まあいいけど。ゆっくり探そう」

「あなた様は捜さなくてよろしいのでございますか。自身の種族が何であるかを」

 ハルは社地と並んで歩き出しながら、あごに手を当てる仕草をする。妖怪をも喰い、どこか獣じみたところのある妖怪。漠然とはしているが全く手がかりがないわけではなかった。

「ご主人様の記憶の方が必要だし、まずはあの人が何者かを暴かなきゃ始まらない」

「その、何者というのはアマテラス様でございますか。それとも、あの地位に置かれた彼女自身でございますか」

「……本当にあれは別人なのか。私のただの妄想だと思ってたのに」

 アマテラスは冷酷な時と優しい時があった。そのためにハルは彼女に二つの人格があるのだと思っていた。それは自分を慰める気休めの妄言であり、妖樹の中で完結した話だった。

「アマテラス様は言わば、常緑樹でございます」

「何だそれ」

「──詳しいことはあなた様のお仲間に聞いてくれ」

 社地が突然、殺気を強めた。全身の毛が逆立ち思わず飛びのいてしまうような強烈さに、またいきなり人格が壊れたのかと疑う。しかしそれはハルではなく、遠くの騒ぎに向けられていた。ハルはきゅうと目を絞り、耳をそばだてる。

「武士と刀の音……なんて、この街じゃいつものことだろ」

「お前の目も潰れているのか、よく見ろ。あれは霊的なものではない。現世に受肉してしまっている!」

「なッ」

 もう一度視界を絞り込み、武士達の身体が透けていないのを確かめた。斬りつけられているのは現代を生きる人間達だ。

「いきなり大仕事か、疲れるね」

「さっさと行くぞ」

「はいはい」

 二人は騒ぎの中へ飛び込んでいった。

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