第66話「破壊者」
家全体が軋むような轟音と響いてくる破壊音にハルの身体は殺気を帯び、素早く椅子から立ち上がる。続いてさらに近い位置で何かが爆発し、窓ガラスが割れてカーテンにバラバラと当たる。埃をまとった風が吹き込んで、食卓を汚していった。
「朝から元気デスね、腹立たしい。大砲とはまた面倒なものを」
「人間か、妖怪か。まあどっちだって殺すだけだが、見境がないのが気に食わないな。さっさと止めないと街が焼ける」
「……もう手遅れかもしれませんね」
ハルが軽い動きで窓から飛び出し屋根に上がる。きゅうと瞳孔を絞ってから遠くを見渡すと、すでに街の至るところから黒煙がもうもうと昇っていた。砲撃は止む気配がなく、逃げ惑う人々を肉塊に変えてアスファルトへ弾がめり込む。
「嘘だ……あれ、人間の軍隊だぞ。自分で自分達の暮らす場所を壊してることになるんだが」
「死屍子に操られているのカモ。とりあえずワタシが結界を張っておきまショウ、多少は防げるはずデス」
「じゃ私は突っ込んでくる」
「わたしも行きます」
ハルは先ほどの宣言を思い出す。アマテラスは自分の決めたことはテコでも曲げない性分だ、ハルは観念してそれに応じた。
「頼むから無茶はしないでくれよ」
「依り代がなくなっては困りますからね」
「そうじゃない。……別にいいけどさぁ、その考え方でも。アンタ、私の気持ちも考えてくれないと困るよ」
「妖怪に考慮してやる義理はありませんね」
なかなか折り合いがつかない中、屋根から降りたハルはアマテラスと行動を始める。戦車が大通りへ踏み込んで来ているらしく、被害はどんどんと広がっていた。
「どうして軍が!」
「妖怪を倒すための組織でしょ!?」
走りながら叫ぶ人間とは反対に、二人は黙って戦車へ向かい駆けた。ひかりの肉体に合わせた速度だとジリジリとした気持ちになるが、ハルは堪えて軽く走る。辺りは凄惨な様子だった。
「あぁミドリ、どこなの!」
「妻が瓦礫の下敷きになったんだ、手を貸してくれ」
「うるせえ、足掴むな!」
我が子を捜す親、一人泣く子供、怪我をした人達を踏み越えて走る者達など、混沌とした雰囲気だった。すぐ隣の民家に砲弾が当たった時、中から吹き飛んできた腕がアマテラスの肩を血で濡らす。アマテラスの顔色が変わり、真っ青になる。
「無理しなくても、私だけ行くけど」
「いえ、わたしがやらなくてどうするのですか」
頬を手の甲で拭い、まだ走る。アマテラスへ飛んでくる瓦礫や砲弾を払い除けながらハルもそれに続いた。
「──見えた。あれだ、アマテラス様」
「分かりました。では下がっていなさい、消し炭になりたくはないでしょう」
アマテラスがザッと足を止め、原型を失った大通りの真ん中へ仁王立ちした。快晴の空に向かって右手を突き上げ、煌々と目を光らせる。
「神の怒りをその身に受けなさい!」
ハルが瓦礫の陰へ飛び込んだのと同時に、強烈な閃光が空を灼いた。
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