第19話「妖怪とは」

「痛いデス」

「そうか」

 両腕を縛りあげて椅子へ突き飛ばすと、ジャスが不満げにハルの方を見た。知らないフリをしてジャスの喉元へ向けて手鏡を置く。

「少しでも変な真似をしたら、さっきの詠唱をして太陽の力でアンタの喉を潰すからな。二度と生意気な口聞けないようにしてやる」

「もうしないデスから、喉だけは勘弁してクダサイ。貴女はワタシの使った術が知りたいのでショウ?」

「そうだな。あの変な膜はなんだ」

 ひと気のないエレベーターホールで二人は椅子に向かい合い座っている。ジャスは簡単なこと、と前置きをして話し出した。

「我々妖怪と呼ばれる種族は身体の中にあるエネルギーを具現化する能力があるのデス。具現化の方法は様々、貴女のようなタイプやワタシのようなタイプもいれば、全く違う性質の妖怪もいる。不思議なものデスね」

「私とアンタの違いは?」

「貴女はエネルギーで身体能力を高めているでショウ、ワタシの故郷ではパワータイプと言われるものデス。一方ワタシはエネルギーを外に放出して形を変えて使いマス、テクニックタイプと呼ぶものデスね」

 流暢に話しているジャスはハルに捕まっても余裕そうな表情だ。何か逃げ出す策でもあるのかと密かに身構える。

「エネルギーを膜状にすると結界に、鋭くして飛ばすと斬撃になりマス。ワタシはそうやって形を変えつつ戦うのデス、争いは好みませんケド」

「へえ。私は馬鹿だからよく理解してないが、要はアンタが肉弾戦になると不利ってことは分かった」

「それに持ち込ませないのが技量というものデス」

 ハルは少しワクワクしていた。妖怪という種族にこれほど触れ合うのは初めてだったのだ。今までは縄張り争いなどで語り合う機会さえなかったが、ジャス相手ならばゆっくりと話せる。

「アンタは何かの種族か」

「悪魔、または堕天使とも呼ばれてマスね、日本の妖怪ではありマセン。ワタシ自身は悪魔と人間の魔女の混血デスが、山羊の角を見ると皆悪魔と呼びマス。貴女は」

「私は親を知らないから種族も分からないんだ。まあ爪が伸びるから動物系の何かかな」

「そんな曖昧な」

 ジャスは呆れたように言いかけて、くすりと笑った。

「いえ、妖怪なんて元から曖昧なものデスね。ワタシは貴女を気に入りマシタ」

「敵に見初められても困る」

「いえ。ワタシは死屍子などに興味はないノデ、別にペンダントなどなくともいいのデス。ちょっとしたゲームをしていただけデス」

 訳が分からずキョトンとしたハルに、ジャスは静かに笑いかけた。

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