第11話 敵機襲来
ガラスが割られて風が吹き込んでくる部屋からとりあえずホールに移動した。
ホールには船長や客などの主だった者たちが集まっている。
見たところ、船員にも怪我人が結構者でたようだが、死人は出なかったらしい。
海賊の数自体は少なかったようで、奇襲に失敗した海賊はあっさりと制圧された。
恐ろしいことに母船からグライダーのような飛行機具で乗り移ってきたということらしい。そりゃ大した数も遅れないだろう。
上層階への奇襲にかけた、ということか。
海賊の生き残り10名ほどは縛られてホールにほうりだされている。
警備に引き渡すと賞金とかもらえたりする、というのはよくある話だが。こっちの世界ではどうなんだろう。
客はそれぞれテーブルにかたまり何かを話している。
アル坊やはウォルター爺さんと一緒にお茶を飲み、俺はお付きのメイドの顔をして後ろに控えている状態だ。
船長と船員達が何かを話し合っている。海賊の処遇か、それとも今後どうするかとかだろうか。
まあこれで一安心か。
さすがにこの状況で第二波を送り込んでくるなんて無茶はしないだろう。
とそこに
「大変です!!」
血相を変えた船員が走りこんできた。
「どうした?」
「騎士が接近してきているようです!一騎!」
その一言でホール内の空気が一気に凍りついたのが俺でも分かったが……ただ、その言葉の意味は分からない。
「騎士ってなんだ?アル坊や」
「えーっとですね……あ、あれを見て下さい」
言葉に詰まったアル坊やが指を指したものは壁にかかった絵だった。
翼をもった俺たちの世界で言うところの中世の鎧みたいなものが書かれている。
「あれが騎士です。人が乗り込んで動かすんです」
人が乗ってるって、それってロボットか。
文明の遅れたファンタジー世界みたいなのかと思ってたが、案外進んでるな。
「こちらも騎士で迎え撃てばよいでしょう!」
客の誰かがヒステリックに叫ぶ
「……それが先ほどの戦闘で乗り手が負傷しまして」
聞いた感じだとパイロット負傷というところか。なんと間抜けな話だ。
しかしガンダムでもパイロットが打ち合いやってる場面もあったし、パイロットだからと言って一人安全地帯で休んでる、というわけにはいかないんだろう
「なんなんだ、それは!」
誰かが叫ぶ。まあ気持ちは分かる。
「申し訳ありません!
おい!エーテル炉全開。迎撃用の大砲を準備しろ!騎士団の警戒空域まであとわずかだ、全速力で逃げるぞ。」
船長が激を飛ばし、船員たちがあわててホールから飛び出していく。
「船長!逃げ切れるんだろうな!」
「追いつかれたらどうなるのよ!」
広間が騒然となる。
まあ明らかに船側の不手際だし腹を立てるのはわかるが、今責任をどうこう言ってもしょうがないだろうに。
こういうところはあっちもこっちも同じだな。
混乱する船側にたいして形勢が逆転した海賊がニヤニヤ笑っているのがなんか腹立つ。
「怪我をしたって言っても乗れないわけじゃないだろう。そいつに行かせて時間を稼がせろ」
「そうよ!貴方たちの責任でしょう」
船長の後ろにいる細身の男がどうやら乗り手というやつらしい。左手と右足にけがをしたらしく包帯が巻かれ血がにじんでいる。
なんというか雰囲気が同類というかがレーサーを思わせる。どんな乗り物か知らんが、あの怪我じゃ乗れまい。
ドン!と船全体に衝撃が走った。大砲とやらを撃ち始めたらしい。
客は騒ぎ、船長が必死でなだめようとするが、ホールは混乱の極みだ。
「で、どうなんだ、逃げ切れるのか?現実的に」
「……難しいでしょうな。飛行船より騎士のほうがはるかに足が速い。うまく砲撃で食い止められればいいですが、追いつかれる可能性は高いです」
ウォルター爺さんが冷静にあまり楽しくない事実を指摘してくれる。
「その騎士ってやつは乗るのは難しいもんなのか?船員に控えがいたりとかは?」
「難しいですし、控えは居ません。
操作も難しいですが、最大の問題は…騎士は飛行船なんかよりはるかに速く飛びますから、たいていの人は飛び回るだけで気絶してしまうんです。
乗り手になれるのは本当に一握りですよ」
加速減速のGが掛かって意識がすっ飛ぶ、ということか。
でも、そういうのなら俺ならいけるんじゃないだろうか?
「じゃあ俺が時間を稼いでやる。少なくとも俺なら気絶はしないぜ」
「何を言ってるんです、ディートさん」
「ちょっといいですか!」
ここで言い争っている時間は多分無い。
俺が声を張り上げるとホールがようやく静かになった。ホールの全員が俺に注目する
「私が騎士にのって食い止めます。時間を稼げばいいんですよね?」
と言っては見たが。
船長はあっけにとられた、というか、なにいってんだ、こいつ?という顔をしている。
「バカなことを言わないでくださいお嬢さん
貴女のかわいい体じゃ、最初の加速で気絶してしまいますよ」
「大丈夫です、お任せください。そういうのは得意です。気絶なんてしません」
「黙ってろ!……アルバート様、あなたのおつきのメイドでしょう。少し黙らせてください。話がややこしくなる」
俺を無視してアル坊やに船長がいう。みてくれは小娘だから仕方ないが。
アル坊やが俺と船長に間に入って俺を船長から遠ざけた。
「ディートさん、無茶言わないでください。
言ったでしょう、乗り手になるには長い訓練が必要なんですよ。とても無理です」
「操縦の方はともかく、俺はレーサーだ。
馬車なんかの10倍は速く走る乗り物に乗っていた。
俺の世界にはそういうのがあったんだ。Gに負けて気絶するなんて失態はしないぜ」
本番のサーキットを殆ど走ったことは無いが、テスト走行も限界まで攻めることは珍しくない。Gへの耐性はレギュラーシートを持ったレーサーにだって負けてないという自負はある。
「じーってなんですか?」
「……まあ気にするな。要は猛スピードで加速するとかいうのには仕事上慣れてるってことだ」
「と言ってもですね……」
「それに、追いつかれそうなら、誰かがとめるしかないだろ。
部屋で震えながら運を天に任せて祈っとくか?俺はいやだね」
そういうと、流石にアル坊やも沈黙する。
「でも、本当に大丈夫なんですか?ここにいるのはフローレンスのそれなりに名士ばかりです。
あなたが失敗したら……商会の評判にもかかわるんですよ」
「100%大丈夫とかいうつもりはないが、恥はかかせねぇよ。
それに此処でその騎士とやらに追いつかれて全員人質とかになったら商会の評判とか言ってらんないだろ」
「ひゃくぱーせんと、というのも何だかわかりませんけど……そういわれればそうですね」
「とりあえず簡単に操縦をレクチャーしてくれるように誘導してくれ。
この機体には乗ったことないから、とか言って」
気絶することはまずないだろうが、流石に操縦は説明がないと無理だ。
「ウォルター、どう思う?」
黙って聞いていていたウォルター爺さんが口を開く
「私としては正直不安ですが、他に騎士に乗れるものはおりません。
ダイト殿が大丈夫と言われるなら、お任せするしかないでしょう」
「そうか……」
「ただ、ダイト殿」
ウォルター爺さんが真剣な顔でこちらを見る。
「2日前にお会いしたあなたにこんなことをお願いするのは無茶であることは承知していますが、それでも申し上げます。
もし行かれるのであれば、相打ちになったとしても止める、その覚悟でお願いしたい」
それはあれか、死んでも足止めはしろ、ということか。
まあでも執事にとっては何処から飛んできた馬の骨より主人が大事なのは当然だな。
レースチームにだって優先順位はあった。どこだって同じ、当り前のことだ
「大丈夫だ。あんたの主は俺が守ってやる。だが死ぬ気もないぜ」
ウォルター爺さんが深々と頭を下げた。責任重大だな、これは。
アル坊やがうつむき、決意したように顔を上げた
「船長!」
アル坊やの声に再びホールが静まり返った。
「なんですか?アルバート様」
「わが付き人のこのディートは騎士の乗り方について訓練を受けたことがある。わが商会の今後の戦力だ。
訓練期間は短いが、防御に徹して時間を稼ぐことくらいはできるだろう。
彼女に任せてもらえないか」
「こんな小娘……失礼、お嬢さんがですか?あとクリスティーナ様では?」
「クリスティーナ・ディート・レストレイアだ。
ミドルネームを言い忘れていたな。すまない」
なんていうかさっきから思うがこの坊やはきちんと話すと威厳があるというか、えもいわれぬ説得力がある。
声もいい。カリスマってうのか、これは。
「本当に大丈夫なのですか?」
「私が保証する。
ただし、この船の騎士の操作には慣れていない。簡単なレクチャーを頼む。
時間がない。早く決断してほしい」
ホールに重い沈黙が下りた。
客のひそひそ話と好奇心丸出しの視線が微妙に痛い。
船長は深く考え込み、けがをした本来の乗り手や船員と目配せを交わしている。船全体が揺れ、砲撃音が断続的に響く
「わかりました。信じましょう。
アヴァロン、予備の装備をこのお嬢ちゃん、じゃなくディート嬢にお渡ししろ、急いで操縦の仕方も教えるんだ」
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