第3話 こんな時は素数を数える
鏡の中の女は俺ってことか、これは一体どういうことだ。
俺は寝ている間に、いつの間にかモロッコに行って全身整形を受けて女にでもさせられたのか。
今はモロッコから帰る船旅の途中とかなのか……いや、そんなことはあり得ない。断じて。
……先ずは落ち着け、冷静になれ。どんな局面でも冷静に判断できる。それが俺よ。
時速250キロでスピンしてもタイヤバリアに付き刺さるまで俺は冷静だった。次に目を覚ましたのは病院のベッドの上だったが。
確か俺はチームのテストに帯同してチェコに来ていた。
昨日は終日テストランで今日はオフになったからいつも通り趣味のスカイダイビングをしていたはずだ。
それがなぜこんなことに?
「クリスティーナ・レストレイア!」
色々と混乱している俺にまたあの少年が呼びかけてきた。さっきの情けない様子はもうない。
「無礼は許さないぞ、一体どうしたっていうんだ!」
どうしたもこうしたもこの状態が一体なんなのか、こっちが知りたい。
目が覚めたら見たこともない子供がいて、キスされそうになって、よくわからない船室らしきところにいて、おれの身体が外国人の女になってる。
われながらパニックにならないのは感心する。
並みの神経なら窓から飛び降りかねんだろ、これ。
どうすりゃいいんだ。
「クリスティーナ、こっちを見るんだ。なにがどうなっている?」
「それは俺も聞きたいんだ。あんたは誰だ、少年、ここは一体どこなんだ?」
「少年って一体何を言ってる、僕の事を突然忘れたとでもいうのか?」
「そもそも初対面だ、俺はお前にあったことはない」
俺が混乱しているのと同じくらいこの少年も混乱しているようだ。
パニックになったもの同士で言い合っていると、ますますカオスになる。
とその時
「なにかありましたか、坊ちゃま」
ドアをノックする音が聞こえ、誰かが扉越しに呼び掛けてきた。
「大変だ!クリスティーナがおかしくなってしまった」
「それは……失礼しますぞ」
入ってきたのは、初老の紳士、という感じの男性だ。
オールバックにした銀髪にこれまた銀の口髭と顎鬚。
見慣れたスーツとは少し違い、襟ぐりが高くネクタイの代わりに黒いリボンのようなもので首元を締めて余った部分を長く下げている。
立ち姿がまっすぐで姿勢がいい。いかにもおつきの爺や、という感じだ。
まあ誰だろうがどうでもいい、とりあえずこの場の救い主になってくれれば。
「おかしくなったとは……?いつも通りに思えますが」
「全然違うんだ、見た目は同じだけど!」
「て言うかここはどこだ、あんたは誰なんだ」
何度目だ、これ。
爺さんが冷静な顔で俺を見る。
「どういう状況はは今から伺います。ですが、まずは服を着ていただきたい」
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