ジリリリリン。

 目覚まし時計の音で目が覚める。時計の針は午後六時。空は薄い青に染まっている。今はまだひんやりとした空気感。町も眠ったままだろう。

 眠気眼をこすりながら起き上がり、朝食に取り掛かる。

 味噌汁にご飯・ウインナーにコーヒー。テンプレの食事を終わらせてから歯磨きや、身支度を整える。

 ちんたらやっている内に一時間が経過して、急いで家を飛び出した。


 そのころには空は鮮やかな青に染まっていた。

 さあ、これからが本当の一日――その始まりである。


 九月に入ってから一〇日あまりが経った。

 カレンダーで確認して、もうそんなに……と口の中でつぶやく。

 気分としては夏を抜けて数日といったところ。時間の流れは早い。

 とはいえ忙しくはない。毎年のようにスローライフ。田舎だから仕方がない。


 夏と比べるとずいぶんとゆるい空気。少し前まで汗だくで過ごさなければならかったところを、さっぱりと過ごせている。手放せなかった麦茶もおさらば。安心してコーヒーも飲める。

 開いた窓から吹き抜ける風は涼しく、心地よい。

 朝は長袖のガウンを羽織り、昼は半袖になる。

 生きるにはちょうどいいと思うのだけど、これも数ヶ月も経てば極寒へと変わる。四季があるのはいいのだけど気温の波が高すぎる。もう少し平坦であってもいいのに。少し、愚痴を吐きたくなる。

 パソコンと向き合い、画面を凝視。カタカタとキーボードを叩く。これくらいの季節だと作業にはうってつけ。夏場はどうしてもやる気が出なかったけれど、ずいぶんとはかどっている。暑さが厳しくなければパソコンはまともに動くもので、こちらの調子も上がるというもの。


 このごろは最高気温のチェックをしなくなった。調べても最高で二八度前後と安定している。いい具合だ。台風が気になることを除けば、穏やかな毎日が続くだろう。


 昼食を終え、仕事を続行。

 のんびりとやっている内に日が沈む。

 早々に切り上げて、外へ出た。

 空はオレンジ色に染まり、夕日が柔らかく町を照らす。セピア色の写真に似た風景。どことなくノスタルジックで昔に戻ったような気分になる。


 民家の通る路地を進むと香ばしい香りが胃を刺激する。夕食時だ。

 さあ、家に帰ろう。

 歩を進む足を早める。通りを抜けて、緑が豊かなエリアに出る。あたりには田んぼ。前に見たときは緑色だったのに、今ではすっかり山吹色に実っている。後は収穫するだけだろう。

 ふと足元をひんやりとした空気が通り抜ける。深呼吸をすれば清らかな匂いが口から肺へ広がる。


 遠くで鳴っているのは虫の声。鈴に似たコオロギのもの。濡れた地面をバッタが跳ねる。

 ああ、秋だと実感が湧いた。

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