本格始動『不安と期待が入り混じる初対面』

「では、これより体育祭運営チームの作業を始めます。A班とB班は資材の確認と点検。C班はグランドのライン引きをお願いします。

 最後に、本年度は共同運営で行われるかつてない規模の体育祭になりますが……。皆さん、一丸となって頑張りましょう!」



 本格的に始動した体育祭の運営業務。俺は先日連絡があったように、体育祭の運営チームに配置されていたのだが、やはりと言うべきか……。俺の配置されたC班は俺以外全員女の子で、男が俺一人という完全に偏った人員の配置のされ方をされてしまっていた。


 俺は体育祭運営チームのC班に。同じくC班にはあちらの生徒会副会長である橘 未来たちばな みくさんが配置されて、その姉であり同じ副会長である巴さんと麗奈はB班に割り振られた。


 先日の一件もあり、麗奈と同じグループに割り振られて欲しくもあったのだが、俺は俺の出来る事で今回の作業の役に立ちたい。


 そう……。役に立とうと思っているのだけど……これは一体何だろうか?



「な、何か男の人がいて一緒に行動するってだけで……。な、何だか緊張しちゃうね?」


「そ、そうね!?男の人はパパやお爺ちゃんで慣れているつもりだったけど……。実際に自分と同年代の男の子と一緒に作業をするのは……。か、かなり緊張しちゃうね!?」


「へ、へぇ……。みんな緊張しちゃってるんだ?わ、私なんて弟がいるから……。み、みんなと違って全然緊張してないけど!?」


ココちゃん!弟って言っても……、まだ5歳の小ちゃい男の子でしょ!みんな緊張してるんだから……。変に煽ったりしないの!」


「み、ミクはカレシくんとはもう会ってるし、全然大丈夫だよ〜?巴ちゃんが一緒じゃないからぁ、ちょっと不安だけど……。」


「……だ、大丈夫なのか……?」



 俺の配置されたC班は俺を含めて六人で構成されていて、ミクさんを除く四人が俺とは初対面の女の子達なのだが……。


 本人達が言うように、あまりに年頃の男との接触が少なかった影響か、こちらが見て分かる程にガチガチに緊張してしまっていた。


 ミクさんの反応もそうだが、色んな意味で幸先が色々と心配になってしまう。



 ……とは言え、ここでぎこちない様子を続けていても仕方ないので、まずは自分から自己紹介をしてみる事にする。


「あー、すいません。まずは初めましてという事で自己紹介から始めますね?

 俺は第一高校、一年生の相川 相太あいかわ そうたって言います。見ての通り男で、その……。色々と不安に思う事もあるとは思いますけど、この体育祭の準備期間よろしくお願いします。」



 やはり、人と人とのコミュニケーションは挨拶からだ。どんな状況であっても、友好的な第一印象を相手に与えなければ、相手からの不安や緊張を払う事は出来ないだろう。


 俺はそんな思いで彼女達に挨拶をした訳であるが……なぜだろう?


 その挨拶に彼女達はピシリと固まり、何か反応らしい反応を返す事はなく、シーンとその場が静まり返ってしまった。



「(えっと……、この空気どうすればいいんだ?さっきまでの姦しい四人+一人が黙りこくっていると、何だかすごい不安な気持ちになるな……。な、何か対応間違えたか?)」



 俺は何だか本当に不安な気持ちになり、まだ顔見知りのミクさんの方を見て、この状況の助け舟を出して貰おうとしてーーつんつん



「わ、わぁ……。これが同年代の男の子!な、何だか弟と違って……、肌がちょっとだけ硬い?あ、あの!私、柏原 心かしわら こころって言います!学年は1年生でただの実行委員ってだけだけど……。よ、よろしくお願いしまふ!」



 すると、無言の中固まった空気を破るように、先程男(5歳の弟)に慣れていると皆を煽って注意されていたココちゃんさんが、不意に俺の左腕をつんつんと指で突いてきたかと思うと……。カミカミではあるが、自身の名前と学年を俺に伝えてくれるのであった。


 正直、彼女のカミ具合にも驚かされたが、これは色んな意味でチャンスだ。彼女と円滑なコミュニケーションを取る事で、今後の自分の立ち回り、ひいては他のメンバーとの連携にも良い影響を与える事が出来る!


 そう考えた俺は、特に何かを考えたわけではないが……。彼女の手をヒシっと掴んで握手をしつつ、その挨拶に笑顔で応える。



「そっか、柏原さんは俺と同じ1年生なんだね。今回俺一人がこの班に配置される事になったから、ちょっと俺も不安に思っていたけど……。柏原さんみたいな優しい子が一緒なら、俺も安心して作業に入れるよ。だから、ありがとう!それとこちらこそよろしく!」



 俺は緊張気味の柏原さんを軽く落ち着かせる意味で、手を握って笑顔で応えたのだが、それが却って彼女を動揺させたようである。


 その証拠にそれまでほんのり赤かっただけの彼女の頬が、俺に手を握られてからと言うものの、ボッ!っと顔から火が出るかのように真っ赤になってしまっている。



 俺はその様子に慌てて手を離して彼女に謝り、皆の前で大胆な行動をしてしまった自分の行動に後悔したのだが……、時既に遅し。


 なぜか真っ赤な顔で固まっていた彼女が、突然『ふふふ!』と一人笑い出したかと思うと、幸せそうな笑みを浮かべたままーーそのままぺたんと膝からゆっくり崩れ落ちる!?



「ちょっ!!ちょっと!?だ、大丈夫!?おーい!柏原さん?柏原さん!?」


「……神様これは夢ですか?……私に優しく微笑む男の子が私の手を握って、一緒に作業頑張ろうって……。ああ、今回の体育祭実行委員になれてホントに良かった……。」


「いやいやいや!満足気な顔で普通に崩れ落ちないで!?あ、あの!聞いてます?柏原さん?ちゃんと話聞いてますか!?」



 ……何と言うか、色んな意味でこれは大変な作業になるかもしれない。


 とりあえず、初対面から男を理由に敵視されるなどない分マシではあるのだが、これはこれで違う意味の心労が多くなりそうである。



 て言うか、柏原さんはいい加減自分でちゃんと立って欲しい。フニャフニャになってゆっくり崩れ落ちていく彼女を慌てて支えた俺なのだが……、彼女は俺が支えているのをいい事にだらんとこちらに全身を預けてくる。


 この状況でも、流石に女の子に対して重たいとは言えないので……。ある程度耐えるのだが、このまま一人で柏原さんを支え続けるのは正直かなりしんどいと思う。


 なので、俺は一旦この子を安全な場所に運ぶ必要がある事をみんなに伝えて、この班における最初の活動内容をここで決定する。



「その……。みんなで柏原さんを安全な所に運びましょう!それが終わったら、まずはみんなで交流を深める為の自己紹介と質問タイムをそれぞれ設けるので……。」


「私達のアピールタイム!?」


「合法的に男の子との交流が出来る!!」


「私もココちゃんみたいに相太さんと交流を深めたい!あと、出来れば触れ合いも!」



 すると、どこか緊張した様子だが、俺にもたれかかるようにして支えられていた、柏原さんを羨ましそうに見ていた彼女達は喜色の声をあげて、我先にと柏原さんを運ぶのを手伝ってくれたのであった……。




 ーーそれとその後の自己紹介で分かったのだが、このC班は俺とミク、それと柏原さんを除く残りの三名は全員2年生であり、それぞれ、日下部くさかべさん、久城ひさしろさん、芦谷あしやさんと俺に名乗ってくれた。


 中でも、柏原さんと芦谷さんは1年生と2年生で学年が違いながらも、二人は幼馴染兼友達という関係らしく……、冒頭の皆を煽るような事を言った柏原さんを嗜めていたのが、歳上の芦谷さんであった。


 その他のメンバーはほとんど初対面らしいのだが、柏原さんを運ぶ一件や自己紹介・質問タイムを経て、学年関係なく仲良さげな様子であり、一先ず良い空気感で安心である。



 その後は、とりあえず、呆けた状態から回復した柏原さんを含めた六人で、この班に任されていたグランドのライン引きを行い、『ラインの位置取り、正確な直線の固定、当日まで残す必要のある本線の確認』など、意外にテキパキと役割分担を行なって作業を行い、今日の作業を終える頃には……。


 メンバー同士で気まずさや不安を感じない程のかみ合いと一体感を感じるのだった。

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