第122話 またスキルツリー伸ばすよ



「あんたね、いったい何日顔出さずにいたと思ってんのよ!」


「いや、何度か顔は出してたんだけどね。ちょうどリリスが居なかったんだよ」


「とってつけたような言い訳してんじゃないわよ! しかも破戒僧ってなによ! 犯すわよ!」


 いてっ。


 肩までの碧色の髪の垂れ目の少女に、ぽかっと頭を殴られた。


「魔界に勝手に行って、帰ってきたと思ったら顔も見せないで! バカ!」


「……いや、だからリリスがいなくて……」


「ずっと居たわよ!」


「………」


 いや、目の前の凶暴な人物はさておき、現状を説明しよう。


 今、学園は春休みに入っている。

 多くの生徒は帰省し、家族とゆったりとした時間を過ごしているに違いない。


 先日行われた試験の結果は春休み明けに知らされることになっていて、合格者は新年度から冒険者ランクを一つ上げることができる。


 ちなみに僕はランク上げをいっさいしていないので、まだ最底辺の【二等兵】のままだ。

 まぁゴクドゥー先生はお前は間違いなく合格だ、と言っていたから、もう【一等兵】でいいかもな。


 さて春休みなわけだが、独り者の僕もずっと学園の寮(の一階ロビー)にいるはずもなく、今はまた、とあるダンジョンに来ている。


 もちろん、スキルポイント稼ぎだ。

 今回僕の、というよりは、僕以外の二人のスキルツリーを伸ばすために頑張っている。


「なに見てんのよ」


「………」


 ここで目の前の少女に話が戻るわけで、碧色の髪のリリスはそのひとりだ。

 リリスは古くからの付き合いで、まあ一緒に修行した腐れ縁とだけ言っておこう。


 この性格だとだいたいつり目を想像するだろうけど、リリスは垂れ目だ。

 絶世の美女というわけでは決してないけど、世間でいう、かなりかわいい部類には入る。


「こんなに楽ちんで成長してよいのかの」


「いいよ。それより約束は忘れないでくれよ」


 僕は手を上げて、もうひとりの連れの老人に答える。


 大神官のザック・バランノフ爺だ。

 ふたりとも、僕と同じ異端の神々ジ・ヘレティックスを崇拝する『漆黒の異端教会ブラック・クルセイダーズ』の教会の人間だ。


 特にザック爺さんは若い頃、僕を導いてくれた恩のある人でもある。

 ちなみに、性格はざっくばらんだ。


 というわけで3人揃って、黒ずくめの神官服。

 ずくめと言っても、リリスはフレアスカートで、脚を七割露出しているけど。


 三人でつるむとそれなりの教会っぽく見えるかもだけど、『漆黒の異端教会ブラック・クルセイダーズ』は信徒が恐ろしく少ない弱小団体だ。

 人口2000万人を超えると言われるリンダーホーフ王国においても、神殿には僕も含め10人にも満たない。


 まぁ、これでも多いくらいで国によってはひとり、なんて国もある。


「大神官様。サクヤはずっといなかったんだから、これぐらいさせて当然よ」


 付かず離れずの位置を保っているリリスが、横から僕を睨みながら言う。


 へいへいわかりました、と粛々と魔物を倒していると、リリスがソワソワした様子で、僕に近づいてきた。


「ところであんた、見ないうちに、か、彼女とか……作ったりしてないわよね?」


 髪を掻き上げたリリスが、頬を染めて僕を斜めに見ている。

 僕は魔物を倒すのに精一杯な様子を演じて、その言葉をスルーした。


「誰かと……き、キスとかしたりしてないわよね……!?」


「………」


 魔物も黙る、水を打ったような静けさ。


「ちょっと! なに黙ってんのよ! なんとか言いなさいよ、バカ! 犯すわよ!」


「あだっ」


 フユナ先輩に勝るとも劣らない凶暴さ。


 一応、戦いの最中なんだから、殴るの、やめような。

 それと、神官の乙女たるもの、末尾のその口癖はいかんぞ。


 きっと意味わかってないんだろうけど。




◇◇◇




 そんなこんなでザックバラン爺さんと垂れ目リリスを連れた強化合宿が終わった。

 結果として、目標を達成できたのはザック爺さんだけだったが、まあいいだろう。


「ありがとうな、サクヤよ」


「すぐ顔見せなさいよ! ら、来週とか! 来なかったら犯すわよ!」


 二人を教会に置いて、僕は一人立ち去る。


 二人を強化しようと思ったのは他でもない。

 状態異常治癒魔法を手にしてもらい、屍喰死体グールの治療を行ってもらうためだ。


 意外に知られていないけれど、『漆黒の異端教会ブラック・クルセイダーズ』は他の信徒に比して状態異常治癒に強く、低ランクからその系統の魔法を唱えることができる。


 うまくいけばリリスも覚えてくれるか、と思ったが、ベースが低すぎて、やはりそんなすぐには覚えられなかった。


 ところで、なぜこんなことをしようと思ったのか、と言うと。


 いくら口止めしても、フィネスやポエロを治癒した件が世間に広まるのは、時間の問題だと思ったからだ。

 それならいっそ、大々的に広めて注目を集めてしまうほうがいい。


 そして国家権力で守ってもらうのが一番だ。


 その方がやっかみが予想されるセントイーリカ市国も手出ししづらくなるだろう。

 このリンダーホーフ王国は、歴史的にも勇者と聖女を最も多く抱える名高い国だからな。


 リリスに関しては次回、また特訓しなければならないだろう。

 うん、なんとなく気が重いのは気のせいかな……。


「ちょっと。なに今チラ見したのよ!」


 遠くで叫ぶリリス。


 そろそろ話を変えよう。

 さて、おまちかねのスキルツリーを伸ばすよ。


 今回はたくさんポイントを配分できるぞ。

 先日のアリザベール湿地での魔王討伐で『単独討伐』を成してしまい、それだけでスキルポイントは70ポイントも手に入っているからね。


 さらに今回ダンジョンで稼いだポイントが38ポイント、合計108ポイントもありますよ。


「よーし、伸ばすぞ―」


 まず、以前までのスキルツリーを示す。




【生命力】


    【身体強化(壱)】 1ポイントアンロック

        【筋力+10%】1 (MAX1)

        【生命力+10%】1 (MAX1)

        【敏捷+10%】1 (MAX1)

        【魔力+10%】1 (MAX1)

        【防御力+10%】1 (MAX1)

        【盾防御+10%】1 (MAX1)

    【身体強化(弐)】 2ポイントアンロック

        【キャンセル】1 (MAX1)

    【身体強化(参)】 3ポイントアンロック


  【魔力】

    【悪魔言語詠唱】5 (MAX10)

    【詠唱短縮】0 (MAX10)

    【上位元素適性】

       【光】0 (MAX10)

       【闇】0 (MAX10)

       【混沌】5 (MAX10)

       【即死】0 (MAX10)

    【憤怒の石板】  3ポイントアンロック

       【悪魔の追撃】1 (MAX1)

       【悪魔の追撃2】1 (MAX1)

       【回復追撃】1 (MAX1)


  【筋力】

    【凶人化】

       【凶酔の剣】0 (MAX3) 

   【超越攻撃】  

       【斬鉄】0 (MAX3)

       【粉砕】3 (MAX3)


  【敏捷性】

       【二段ジャンプ】0 (MAX3)

       【残像】3 (MAX3)

       【縮地】3 (MAX3)


  【精神力】

       【魅力】6 (MAX10)

       【王者のカリスマ】0 (MAX10)



  【身体感覚】

    【感覚】

       【視覚】9 (MAX10)

       【聴覚】9 (MAX10)

       【嗅覚】9 (MAX10)

       【味覚】2 (MAX10)

       【触覚】3 (MAX10)

       【第六感】5 (MAX10)

       【第七感】5 (MAX10)


 【知性】

    【総合知性】71 (MAX100)

    【言語知性】

       【言語理解】6 (MAX10)

       【言語出力】6 (MAX10)

     【記憶力】5 (MAX10)

    【異種族言語理解】

       【天使言語】0 (MAX10)

       【悪魔言語】10 (MAX10)


  【特殊】 1ポイントアンロック

    【変幻】

       【カラス化】0 (MAX3)

       【異人化】3 (MAX3)

       【不死者化】0 (MAX3)

       【煙幕】1 (MAX1)

    【過去への訪問】 一度のみ

    【配下作成】

       【魔の従者】0 (MAX10)

       【不死の従者】0 (MAX10)



 まずは【身体強化(参)】を開けてみるべきだろう。

 オーソドックスな強化か、それとも身体強化(弐)のようにキャンセルみたいなものが並んでいるか。


「楽しみだな~」


 3ポイントを使ってアンロックする。


〈【身体強化(参)】をアンロックしました〉


「いや、これは……だめだろ」


 見た瞬間、ため息をついてしまう項目が並んでいた。



【身体強化(参)】 

        【筋力+100%】1 (MAX1)

        【生命力+100%】1 (MAX1)

        【敏捷+100%】1 (MAX1)

        【魔力+100%】1 (MAX1)

        【防御力+100%】1 (MAX1)

        【盾防御+100%】1 (MAX1)



 スキルポイントを1振るだけでステータスが100%伸びるとか、暴利すぎる。

 いや、とるけどさ。


 こんな強くていいのかよ、〈深淵の破戒僧アポステートオブジアビス〉よ。

 確かに完全状態の魔王とかと戦うとしたら、これぐらいはほしいけどさ。


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