第43話 閉ざす女



「面白そうなスキルだな……」


 ちょっと使い慣れてみないとわからないが、いろんな場面での用途がありそうだ。

 しかも1ポイントでいいという。

 まぁアンロックで2ポイント使ってるんだけど。


 よし、取っちゃおう。


 あとはめぼしいものはないかなと探し、ふとさっきまでなかったはずの項目に気づく。


「あれ……」


【敏捷】のところの項目が増えていた。


【敏捷性】

   【二段ジャンプ】0 (MAX3)

   【残像】3 (MAX3)

   【縮地】0 (MAX3)


「――おお!」


 なんと【縮地】とは。


 なるほど、【身体強化弐】まで覚醒すると現れるということか。


「【縮地】……僧の僕が使えるのか」


 僕の顔に、こらえきれない笑みが浮かぶ。

 説明を見ると、やはり相手との距離を一瞬で詰めるスキルのようだ。


 このように間合いを制御するスキルはいくつかあり、同じように距離を詰める【ダッシュ】や近接から強引に逃れる【間合い伸ばし】などが知られている。


【縮地】は瞬間移動に近いもので、間合い制御としては、最高峰。

 成長した高位の剣士系職業が獲得すると言われ、知っているなかでは勇者アラービスが持っていた。


 まあ、アラービスにそれがあっても、使うタイミングがわかりやすいから手合いでは負けなかったけどな。


「やばい、これは欲しい」


 チカラモチャーとしての夢が広がる。


「あ、これも増えた」



【変幻】

   【カラス化】0 (MAX3)

   【異人化】3 (MAX3)

   【不死者化】0 (MAX3)

   【煙幕】0 (MAX1)


【変幻】の項目に【煙幕】が追加されている。


 これは、あれなのか。

 もしかしてモクモクと煙を出して登場を演出したり、姿をくらましたりできる、あれなのか。


「キター!」


 カッコいい。

 マジカッコ良すぎるよ!




 ◇◇◇



 というわけで、僕の第二スキルツリーはこうなった。



  【生命力】


    【身体強化(壱)】 1ポイントアンロック

        【筋力+10%】1 (MAX1)

        【生命力+10%】1 (MAX1)

        【敏捷+10%】1 (MAX1)

        【魔力+10%】1 (MAX1)

        【防御力+10%】1 (MAX1)

        【盾防御+10%】1 (MAX1)

    【身体強化(弐)】 2ポイントアンロック

        【キャンセル】1 (MAX1)

    【身体強化(参)】 3ポイントアンロック


  【魔力】

    【悪魔言語詠唱】5 (MAX10)

    【詠唱短縮】0 (MAX10)

    【上位元素適性】

       【光】0 (MAX10)

       【闇】0 (MAX10)

       【混沌】5 (MAX10)

       【即死】0 (MAX10)

    【憤怒の石板】  3ポイントアンロック

       【悪魔の追撃】1 (MAX1)

       【悪魔の追撃2】1 (MAX1)

       【回復追撃】1 (MAX1)


  【筋力】

    【凶人化】

       【凶酔の剣】0 (MAX3) 

   【超越攻撃】  

       【斬鉄】0 (MAX3)

       【粉砕】3 (MAX3)


  【敏捷性】

       【二段ジャンプ】0 (MAX3)

       【残像】3 (MAX3)

       【縮地】3 (MAX3)


  【精神力】

       【魅力】6 (MAX10)

       【王者のカリスマ】0 (MAX10)


  【身体感覚】

    【感覚】

       【視覚】9 (MAX10)

       【聴覚】9 (MAX10)

       【嗅覚】9 (MAX10)

       【味覚】2 (MAX10)

       【触覚】3 (MAX10)

       【第六感】5 (MAX10)

       【第七感】5 (MAX10)


 【知性】

    【総合知性】71 (MAX100)

    【言語知性】

       【言語理解】6 (MAX10)

       【言語出力】6 (MAX10)

     【記憶力】5 (MAX10)

    【異種族言語理解】

       【天使言語】0 (MAX10)

       【悪魔言語】10 (MAX10)


  【特殊】 1ポイントアンロック

    【変幻】

       【カラス化】0 (MAX3)

       【異人化】3 (MAX3)

       【不死者化】0 (MAX3)

       【煙幕】1 (MAX1)

    【過去への訪問】 一度のみ

    【配下作成】

       【魔の従者】0 (MAX10)

       【不死の従者】0 (MAX10)





 ちゃっかり【煙幕】もとったよ。

 スキルポイント残高は0だ。


 《〈回復魔法ヒールLv6〉を覚えました》


 《〈状態異常回復キュア・ステートLv4〉を覚えました》


 《【幽々たる結界】Lv4を覚えました》


「キター」


 回復魔法ヒールが伸びたのは単純に嬉しいな。


 歴史上、回復魔法ヒールLv5まではあったらしいからな。

 これで回復魔法師ヒーラーとしては未開の回復量に到達した。


 状態異常回復もなにかと使う機会が多いので助かる。

 Lv3から永続的な変化も治療できるようになっているが、Lv4はさらにその治療範囲が広がっている。




 ◇◇◇



「るんるん」


 翌日、僕はフユナ先輩に休みを頂戴し、外出許可も頂戴し、授業が終わるや、すぐにあのトロルの森へと向かっていた。


【悪魔言語】を取得して、することと言えば一つ。

 夢にまで見たあの人との会話だ。


 どうしよう。

 マジで嬉しいよ。


「アシュアシュ~」


 煉獄の巫女アシュタルテ、どんな人なんだろうな。


 幼少の頃から本で読んで思い描いていただけに、気持ちばかりが先行してしまう。


 周りに誰も居ないことを確認し、煉獄の巫女アシュタルテを喚び出す。


「Συμφώνησε με την κλήτευση μου Πριγκίπισσα του Καθαρτηρίου……」


 さて、召喚を待つ間、この世界の言語研究の歴史について触れておこう。


 この世界の言語には、現在使われている共通言語のほか、下位古代語ロー・エンシェント上位古代語ハイ・エンシェントというものがある。


 下位古代語ロー・エンシェントは魔力が宿りやすい音の流れを言葉にしたもので、約千年前に存在したと言われる古代王国で日常的に使用されていたものだ。


 前に軽く説明したけど、上位古代語ハイ・エンシェント下位ローよりもさらに魔法力学に沿った言語配列になっており、それによる魔法は下位古代語ロー・エンシェントの魔法の倍以上の威力を持つとされている。


 現在、それら古代語は片言でしか利用できない。

 古代王国は突然、不明の理由によって滅び、多くの古代語の文法や理論が灰となって失われたからだ。


 この事変を『古代世界崩壊ザ・コラプス』と呼ぶ。


 これら古代語は『古代世界崩壊ザ・コラプス』後、エルポーリア魔法帝国の魔法学院がやっきとなって復活を試みているが、実は上位古代語ハイ・エンシェントのさらに上位言語の存在が明らかになっている。


 神が配下を使役するとされる、「天使言語」だ。


「天使言語」を使いこなすことができれば、古代語魔法を驚異的な威力で放つことができるだけでなく、天使を召喚し、従えることが容易になる。


 ――天使族。

 空を飛び、強化された武器を持ち、高位の魔法までも放ってくる理知的な魔物。

 言うまでもなく、恐るべき存在とされている。


 天使の格の違う強さを知るには、『稀代の大召喚』という記録を読むといい。


 古代語が『古代世界崩壊ザ・コラプス』によって失われる以前、数百人に及ぶ魔術師たちの上位古代語儀式により、名もなき大天使とその配下の天使を呼び出し、当時地上で猛威を振るっていた凶暴な龍、『赤熱の飛龍レッドインパルス』を討伐したというものだ。


 知らぬ者などいないこの『稀代の大召喚』により、天使が地上最強と名高い飛龍ドラゴンすらも倒せてしまうこと、そして人間が使役できる最強の存在が天使であることが同時に証明された。


 そしてもう一つ、人々の思惑となったもの。

 ――もし、この天使たちを「天使言語」で召喚できれば――。


 そんな歴史もあって、各宗教家たちがこぞって『天使言語』の研究を行ってきた経緯がある。


 実際、光の神ラーズに仕えるセントイーリカ市国の『聖者』たちのように、下級天使を「天使言語」で使役できるようになっている者たちもいる。


 そんな中『天使言語』の研究者たちに真っ向から対立し、黒い力を求めた集団もいた。


 悪魔こそが最強であり、『稀代の大召喚』に応じたのは実は大悪魔である、と主張する一派。

 彼らを使役できる可能性がある言語こそが、至高の言語であると考える者たち。

 

 それが僕が属していた、『漆黒の異端教会ブラック・クルセイダーズ』である。


 彼らは独自に『悪魔言語』の研究を重ね、遺真岩を多く含む石板の力を借りて、悪魔を捉えることまではできるようになっていた。

 せいぜいがインプやデーモン程度で、あんな上位の存在を捉えたのは僕が初めてなんだけど。


 とまぁ、こんな感じで各言語の評価や認知度については、理解していただけただろうか。

 そんな理由で僕が使えるようになった「悪魔言語」は、このあたりではきっと誰も理解できないと思う。


「来たか」


 そうしている間に、右手に持っている石板に清楚な顔が宿った。

 現れた彼女は眠っているかのように、目を閉じていた。


「Καλημέρα, πριγκίπισσα」


 僕は高鳴る胸をこらえきれないまま、彼女に呼びかける。


漆黒の異端教会ブラック・クルセイダーズ』の司祭長だった爺さんに聞いたところによると、地上という場所は悪魔たちからすると、とんでもなく不快な異世界らしい。


 それゆえ地上で具現化するにあたって、悪魔たちは喚び出される詠唱の質を殊の外重視する。


 下位古代語ロー・エンシェント上位古代語ハイ・エンシェント、悪魔言語、いずれでもこの地上に現れることは可能だが、悪魔たちの自由度や発揮できる力は大きく異なってくるためだ。


 下位古代語ロー・エンシェントで召喚されると、この世界は色もなく、音も不快に割れ、見えるものが濁っているという。


 自由度も低く、苦痛に溢れているため、支配者に襲いかかるなど、命令に背きやすくなる。


 一方、悪魔言語で呼び出すと、彼らは大きな自由度を手にする。

 自在にその能力を発揮でき、命令に背くことが少なくなるのだ。


 今、煉獄の巫女アシュタルテは悪魔言語で呼び出している。

 不服とする理由はほとんどないはずだ。


「………」


 しかししばらく待っても、彼女は目を開けない。

 聞こえていないのかなともう一度呼びかけるが、応じない。


「……どうしたんだろう」


 煉獄の巫女アシュタルテは目を閉じたまま、静かに呼吸のみをしている。

 まるで心を失っている、人形のようだ。


 思えば魔王に仕えていたこの人は、最初からそうだった。

 呼び出されるや、魔王と会話をすることなく、ただその命令にのみ、物静かに従っていた気がする。


 僕は森のなかに座り込んだまま、煉獄の巫女アシュタルテを眺めながら、繰り返し呼びかけた。

 だが煉獄の巫女アシュタルテが応じることはなかった。



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