第18話 人形を殴れ!
翌日。
座学に続く午後の実技はプラチナ・ゴールド・シルバークラス合同の「近接総合実技」だった。
近接実技をちょっと説明しておこう。
『近接実技1』は武器による基本動作を習う教科書的な授業だ。
魔法の使用は許されない上に、多少自分の好みに合わない武器にも習熟が必要とされる。
剣・槍(棒でもよい)・斧のうちの一つが必須、そしてゴクドゥー先生の考えなのか、短剣かナイフのどちらかが必須となっている。
後者は第三国防学園の特殊ルールだ。
持ち歩きやすい武器での護身を教えたいのかもしれない。
『近接実技2』は回避や回復、索敵、逃亡などを主とした、近接状態での死亡回避に関する重要事項を習う。
実践的だなと思うのだが、まず徹底的に逃げることを教わるらしく、実技の中では面白くないと評判らしい。
一方、これから行う『近接総合実技』は最も人気のある授業だ。
初期は泥人形が相手だが、半年後にはダンジョンに入って魔物を相手に実際に戦いを行う。
近接していれば、剣、槍、斧、素手、魔法、弓、何をどう使ってもよく、ただ敵を圧倒すれば高評価がもらえる。
教師はゴクドゥー先生が中心になるが、たいていヘルプで2-3人、他の教師が付き添う。
ダンジョンに入る時はさらに安全を期すために上級生のほか、平時なら国軍から数人日雇いすることもあるそうだ。
今日はゴクドゥー先生のほか、昨日の小太りのおばさん先生、ヒドゥー先生と『回復学』のテレサ先生が来るらしい。
なお、もう気づいたと思うが一年の前期にはスキルポイントを集める授業はない。
多少なりとも危険を伴うため、基本を叩き込まれてからになるそうだ。
「ひゃっほー」
「いよいよだぜ!」
一番人気の授業だけに、昼食を終えた生徒たちが待ちきれない様子でグラウンドに出ていく。
「………」
そんな楽しげな周りに反して、僕は沈んでいた。
食堂で昼食をとったが、ほとんど喉を通らなかった。
ひそひそ。
ひそひそひそひそ。
「………」
皆の視線がなんとなく僕に集まっているのがわかる。
くそ、間違いなく昨日やらかしたせいだ。
来て早々、チカラモチャーの地位が危ない。
そればかりが頭をもたげてきて、昨晩はほとんど眠れなかった。
今日は絶対に失敗、いや成功できない。
「大丈夫だ……」
僕はぐっと拳を握りしめる。
僕には、昨晩考え抜いて編み出した秘策があった。
確実に無難に実技の授業を終える方法だ。
「今日こそはやってやる……」
僕はひとり、血走った目のままグラウンドへと出ていく。
「よーし揃ったな。ここに木製の武器を用意してある。各自好きなものを手に取れ。自分の武器を使ってもいいが、刃のある武器は周りに気をつけて使えよ」
隻眼のゴクドゥー先生が、愛用の木刀を担ぎながら言う。
僕はそう感じないけど、みんなゴクドゥー先生が怖いらしく、無言で言われた通りに動いた。
「今日はヒドゥー先生に作ってもらった
皆が武器を手にしたのを確認して、ゴクドゥー先生が言う。
近くにいたヒドゥー先生がなにやら詠唱すると、地面からもりもりと土が盛り上がり、ひょろりとした人型の
生徒たちがおおぉ、とざわめく。
魔物というものを初めて見る者が大半なのかもしれない。
古代語魔法第二位階に属する、〈従者作成〉の魔法で作り出されるそれは僕たちくらいの背丈があって、不思議に踊ってMPを奪いそうな外見だ。
それゆえ
もちろん土で汚れるので、屋内では使いづらい存在だ。
「一人ずつ順番に戦闘を仕掛けろ。倒せるやつは倒していいぞ」
ゴクドゥー先生が、一番右の前に座っている生徒をまず指差した。
シルバークラスの生徒だ。
楽しみにしていたさっきと違い、その顔は緊張で強張っている。
「よし、お前からだ」
「うわ、でもなんか怖ぇ……」
ただ突っ立っている
「安心しろ。こいつに反撃命令は入れていない。ただの人形と同じだ。タコ殴りにしてやれ」
「人形……そっか、よーしっ!」
安堵したらしい生徒が手にした木刀で
「気合はいいぞ。俺はそう言う奴が好きだ。だがむやみに振り下ろすな。武器の長さで間合いを丁寧に調整しろ。次」
「連撃はおもしろかった。が、斬り上げるなら最後まで振り抜け。次」
「おい、近接状態でたじろぐな。その一瞬が命取りになるぞ。次」
ゴクドゥー先生が、生徒ごとに的確なアドバイスをいれていく。
「他の生徒も勉強になるから、戦いを見ていろよ。終わった奴はそこの白い線を越えたところで座ってろ」
パペットとの戦闘が終わった生徒は上気した顔のまま、言われた場所に移動し、体育座りをして戦闘する生徒をじっと眺める。
一時間があっという間に過ぎた。
ゴールドクラスまで終わり、プラチナクラスの生徒が登場し始めた。
「よし、次、テルマ」
「はい」
豹のような顔をした浅黒い肌の、髪をいくつも結んだドレッドヘアーの少年が立ち上がる。
ちなみに双子の妹らしいルイーズも似た顔立ちをしていて、髪の長さと制服くらいしか違うところがない。
「行きます」
テルマは腰を落とし、半身に構えると、許可された自分の盾で自身と木刀の切っ先を隠すようにしながらじりじりと接近していく。
「ガンダル―ヴァ流盾剣術」は広く知られた流派で、リンダーホーフ王国にいた僕でも何度か目にしたことがある。
剣の前に盾が来ていることからもわかる通り、彼らの戦い方は『盾ありき』だ。
ちなみに、彼らの最も恐ろしい攻撃は【
テルマたちはまだ使えないかもしれないけどね。
「――やぁ!」
よく訓練された一撃だ。
「文句なしだ。拍手」
皆がぱちぱちと拍手する。
盾で隠されることで、剣の初動がわかりにくく、相手にすれば反応しづらい。
テルマが嬉しそうな顔で戻っていく。
にしても、ゴクドゥー先生、外見に似合わず褒め上手だなぁ。
続くルイーズも、巻き戻したかのごとく全く同じ動きで
「よしよし、いいぞ。次は……」
「あたし、二体でも倒せます」
そう言って小さなおしりをはらいながら立ち上がったのは、そばかす少女、スシャーナだった。
「スシャーナか。いいだろう。俺はそう言うやる気がある奴が好きだ」
ゴクドゥー先生が木刀を担ぎ、ヒドゥー先生を振り返って目配せする。
少々時間がかかったが、二体の
「やってみろ」
「はいっ」
タタッ、と軽快な足音を立てて、スシャーナが並んだ
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