1-4.禁忌の末


 さて、それでは早速スライムの実食と参ろうか。

 当初の予想とは違い、死んでも液体には成らず不定形を保っている。不定形を保っているってなんか変な日本語やな。でっかいところてんの様にも、バケツプリンの様にも感じる感触だが、食べて平気なのだろうかこれ……。いや、この身体での食事は全て経験値やらに変換されるそうなので、毒だろうがなんだろうが食べれてしまうだろうけれど。

 何ともないとわかっていても躊躇ってしまう存在感を放つそれに、取り敢えず齧り付いてみることにする。


――お、おぉお?なんだこれ、新食感……。


 齧り付くとまず、牙の隙間から溢れ出す謎の液体に驚いた。慌てて下を器用に丸めて何とか啜る。溢れると勿体無い気がする。経験値的に。味を感じないのでどんな液体を飲んでも何かの液体としか認識出来ないのだが、臭いはわかるので何とか認識できている。水にも水の匂いってのがあるからね。しかしこの液体には匂いも無いようで、本当に何の液体なのか見当がつかない。

 液体が溢れるとは言え、それは断面から滲み出ているようで、肉、と言って良いかわからないが、肉がブロックごと口の中に残っている。食感自体はゼリーのようでもあるし、プリンのようでもあるし、はたまた肉肉しいと表現できてしまうような不思議な触感だった。唯でさえ味がせず食事としての楽しみなど殆ど無い現生で、こういう面白い食感は慰めになる。川にずっと浸かっていたからかひんやりしていて心地よい。癖になるかもしれないなこれは……。

 成豚一頭分くらいありそうなそれを20分ほどかけて平らげる頃には、ナビィがアナウンスを告げていた。


《”分身アバター”スキルを獲得。》

《”危機感知”スキルを獲得。》

――よしよし。……あ、そういや他にもスキル獲得してたんやった。確認しとかな。


 すっかり忘れてた。健忘症の気が抜けてないなぁ……。


▼パーソナル スキル

-----コア-----

[危機感知] …自身に降りかかる危険度を知覚出来るようになる。強ければ強い程危険で有る事を指す。

[人語] …人間種が使う言語の習得。読み書き対応。

[腹話術] …口を閉じていても任意の位置から言葉を話す事が出来る。声色を任意に変更可能。

-----ノーマル-----

[剣術] ロック中/初期熟練値:23% …剣術を身体に定着させ、技術を向上させる。

[射術] ロック中/初期熟練値:23% …射術を身体に定着させ、技術を向上させる。

[盾術] ロック中/初期熟練値:23% …盾術を身体に定着させ、技術を向上させる。

[体術] ロック中/初期熟練値:23% …体術を身体に定着させ、技術を向上させる。

[槍術] ロック中/初期熟練値:23% …槍術を身体に定着させ、技術を向上させる。

[投擲] ロック中/初期熟練値:23% …投擲技術を身体に定着させ、技術を向上させる。

[聞き耳] ロック中/初期熟練値:23% …耳を澄ませば遠くの音声を聞き取れるようになる。

[目利き] ロック中/初期熟練値:23% …目を凝らせば物の善し悪しが判別出来るようになる。

[演技] ロック中/初期熟練値:23% …演技力が向上する。

[ポーカーフェイス] ロック中/初期熟練値:23% …考えている事が顔に出なくなる。

[算術] ロック中/初期熟練値:23% …計算力が向上する。

[気配隠蔽] ロック中/初期熟練値:23% …自らが発する気配を隠蔽出来る。

[分身アバター] ロック中/初期熟練値:0% …MPを消費して分身体を作り出す。標準の機能としてキャラクリエイト機能を実装。

-----レジスト-----

[魔力耐性] ロック中/初期熟練値:29% …魔力に拠る悪影響を軽減する。


▼オブジェクティブ スキル

[火球ファイアボール] ロック中/初期熟練値:23% …火の球を発生させる。

[水球ウォーターボール] ロック中/初期熟練値:23% …水の球を発生させる。

[操土クレイ] ロック中/初期熟練値:23% …土を操作出来る。

[家事] ロック中/初期熟練値:23% …家事力が向上する。

[乗馬] ロック中/初期熟練値:23% …乗馬技術を身体に定着させる。

[御者] ロック中/初期熟練値:23% …御者技術を身体に定着させる。

[床上手] ロック中/初期熟練値:23% …性技術を身体に定着させる。

[商売] ロック中/初期熟練値:23% …商売能力が向上する。

[値切り] ロック中/初期熟練値:23% …値切り力が向上する。

[交渉術] ロック中/初期熟練値:23% …交渉術が向上する。

[詐術] ロック中/初期熟練値:23% …嘘の精度が増す。

[酒豪] ロック中/初期熟練値:23% …アルコールに強くなる。

[工作] ロック中/初期熟練値:23% …工作技術を身体に定着させる。

[小細工] ロック中/初期熟練値:23% …細かな工作技術を身体に定着させる。

[農作業] ロック中/初期熟練値:23% …畑仕事・酪農作業を身体に定着させる。

[書類仕事] ロック中/初期熟練値:23% …書類仕事の作業効率が上がる。



 はえ~すっごい量。魔獣を喰らった時より明らかに多い。人間特有の技能がかなりあるのだろう。にんげんはおいしい括弧スキル獲得的に括弧閉じ。コアから順に見ていこう。

 ”危機感知”は定番だ、より感覚的に相手の脅威度の理解や回避の精度があがりそうだ。

 ”人語”……ってざっくりしすぎじゃないか?この世界には国ごとの言語は無いのだろうか。地球でも大抵国が変われば言語も違ってくるものだが、見る限り種族で括られているようだし、種族ごとの言語が有るのかもしれないな。文字も書けるようになるみたいだし、便利スキルではある。他の種族にはどんなのが居るんだろうと思考を巡らせると夢が広がるな。

 ”腹話術”ってのは、あの腹話術だよな……?声が遅れてくるやつ。違うか。……んん?これはもしかして……。


「あ”ぉあ”ー、ぃア”ァー、あぁー、あーあー、ぇす、て、てすテス。」


 おお!声が出せた!日本語だ!うわーなんか感動……。久しぶりに獣以外の声を聞いたぞ。しかもこれ、デフォルトは前世での物のようだ。聞き覚えが有る。声は喉辺りから出ているが、喉の中を通っている訳では無いし口も動いてないので何だかシュールだ。映画やなんかで人外の物が言語話す時のようだ。流石腹話術。発声位置もある程度動かせるようで、暫く当たりをぐるぐるさせる。そう言えば声色も変えられるとの事なので、高い声から低い声まで行ったり来たりさせながら遊んでみるが、上手く想像した声色にならないのが歯がゆい。うーむ、どうにかならないものか……そうだ。


――ナビィさんや、声優の大明塚夫たいめいつかおの声に出来たりしませんかね。

《可能。要請を受諾。……。完了。》

――さっすがナビィえもん!……では。


「……待たせたな。」


 うっほ!まんま大明塚夫さんボイスを再現出来ていて、即座にテンションが上がる。いいなこれ!その後小力山也こりきやまやさんや櫻孝井之おうこういゆきさん、果ては女性声優の村田ゆりかさんや大倉唯さん等複数の声優さんボイスに変えて遊んだ。すっごい楽しい。セルフボイスアクト超楽しい。癖になる。生まれ変わってから意識する暇がなかったが、根っからのオタク心が顔を覗かせに来たようだ。さながらビバリーヒルズ警察のエディかのようだな。効果音とかもリアルに発せそうだ。

 いろいろ試したが、威厳のありすぎる声は実態が伴わないし、関西弁を偽る気はないので、それが生える声が良いという結論に至ったので、若手声優で関西弁も完璧な福島じんさんの声色を普段使いにすると決めて落ち着いた。この世界にいればそのうち人間に対して使う機会もあるだろう。

 しかし、コアスキルは獲得して直ぐ使えるからとてもいいね。チート感ある。


 ”剣術””射術””盾術””体術””槍術””投擲”は見た通りなのだろうが、”身体に定着”と言うのはどういう意味なんだ?


《それらのスキルはまず技術を体験しなくてはいけない。自ら行う事で身体に定着させ、その技術を向上させる効果を持つ。》

――手に入れたからって即座に剣の達人に成れる訳じゃないってことか……。

《肯定。》


 ふむぅ、やっぱり一筋縄では楽させてくれないのね……。

 しかしざっと見ると今必要のないものばかりだなぁ。”算術”とか”書類仕事”とか、性欲もないのに”床上手”なんて何に使うんだよ……相手も居ねぇよ……。

 しょんぼりしてきたので、必要そうな物だけピックアップして見るとするよ。


 ”気配隠蔽”は狩りに大いに役立ってくれそうだ。”魔力耐性”は柵を超えた時に手に入れたやつだな。その内魔力攻撃を放ってくるものも居るだろうし、重宝するだろう。

 ”分身アバター”ってのは、要は分身できるって事なのかな。キャラクリ……?要はネットなどでよくあるアバターを作って操作出来るスキルなのだろうか。アンロックが楽しみだ。

 さて、本命はこれだろう。見るからに魔法攻撃スキルであろう”火球ファイアボール”と”水球ウォーターボール”だ。これを使えるようになれば、夢の魔法使い生活だ。胸が踊る。セオリー通りと考えると、この二つは火球の魔法だか魔術だかなのだろう。いずれアルヴィエール雷狼アルヴィエールライホーンウルフのあの雷のように、強力な魔法を手に入れればより有意義な狩猟ライフが待っているだろう。

 ”操土クレイ”と言うのも魔法のようだが、今土を操れて何か得なことが有ったかな……?壁を作るとか、寝床を整えるとかだろうか。まあ放っといてもアンロックされるのだから、別に今考える必要もないだろう。


 ”腹話術”で遊びすぎたせいか、二時間程その場でスキルチェックをしていたようだ。ワールドマップを見るに今時点でまだ半分も外周を進めていないようなので、ペースアップしたい。何日かかるかわからないがいい加減歩きながら川を眺めているのも飽きてきた所だ。まあ、川か森か岩壁しか無いので無理な話では有る。



◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇



 スライム討伐地点から更に三時間進んだ所で、今までとは比較にならない程の大きな落水音が響いてきた。ミニマップには何も映っていないがこの先に大きな滝でも有るのだろうか。と、言う間に少し先に大きく山側に抉れた地形が映りだした。大きな水たまりが有るみたいなので、ほぼ間違いないだろう。目視でも地形の変わり目が目に見え始め、そのまま進めば直ぐに到着だ。

 そこはかなり奥まった地形で、かなり広い水辺になっている。何百メートル頭上から大量の水が流れ落ち、段々になっている巨大で高い岩場の間から次から次へ供給されていた。この位置からでも上の方は霧に覆われていて見えないが、更に続いているようだ。ほぼ間違い無くこれが川の主流なのだろう。落ちた水は溜池に溜まり、溢れた分が川へ流れ込んでいるらしかった。あまりの荘厳さに言葉も出ない。上はどうなってるんだコレ……。

 常に大量の水が流れ落ちてきている為辺りの湿度はとんでもない事になっていそうだ。川辺りを歩いて滝に近付いてみる。岩壁はほぼ絶壁状態だが、場所に拠っては登れそうな塩梅になっている。けれどそこまでしてこれを登る気力は今はないなぁ……。もっとレベルが上がって崖登りに特化したスキルでも獲得したらその内挑戦してみたくは有る。

 その日はどうにもその場を動きたくなくて、陽が落ち切るまでずっと滝を眺めて過ごした。偶に滝上から魚型の魔獣らしき物が落ちてきていたが、積極的に倒す気にもなれず、向こうも襲っては来なかったので自然の一部として眺めた。贅沢な時間だ。これがマイナスイオンか。

 暗くなって直ぐ目を閉じ、この日は意識を落とした。

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