第43話 船出


朝、目覚めると、いつもの様に隣でリオが寝ていた


「臭いな·····先に風呂に入るか」


昨日はイカ祭りで疲れて、風呂も入らず寝てしまったので、身体中がイカ臭い·····

風呂に入ることにした俺は扉型ゲートを通って異空間に向かった

風呂に入って部屋に戻ると、リオはまだ寝ていた


「今日は休みにしたからな、ゆっくり寝かせてやるか」


俺は空いてるベットに座って、魔力コントロールの修行を始めた



「ふぅー、そろそろ造船所に行くか!」


魔力コントロールを一通り終わらせた俺は、寝てるリオを置いて、魔導船を見に行くことにした

外は朝から活気がある、港町らしい朝だ、ただ·····イカ臭いのを除けばだが·····

昨日の祭りの影響で町中がかなりイカ臭い·····


「やぁ!昨日は美味しかったよ!ありがとう!」


「いや·····すみません·····」


町人にお礼を言われるが、申し訳ない気持ちになって謝った

すれ違う度にお礼を言われて、それに対して謝りながら造船所へ向かった

造船所に着くと表にティムさんがいた


「ティムさん、おはようございます」


「あぁ!ジンさん、ちょうど良かった!今からジンさんのところへ向かうところだったんです」


「俺のところへ?何かありましたか?」


「魔導船がつい先程、完成しましてね!ジンさんに一報入れようと向かうつもりだったんですよ」


「それなら俺もちょうど良かったです、明日の出航前に魔導船を見ておこうと思って来たんで!」


「それじゃ、早速見に行きますか!それはそうと、昨晩のイカ料理、最高でしたよ!また機会があれば食べたいですな!」


「いや·····すみません·····とりあえず、行きましょうか·····」


俺が謝ると、ティムさんの頭に『?』が浮かんでいたが、俺は魔導船に向かうように急かした



ティムさんについて行くと、造船所の裏に着いた

ここは海と繋がっていて、何隻か修理中なのか、解体されている船がある

周りでは、作業員達が慌ただしく動き回っている


「こちらがジンさんの魔導船です!」


ティムさんの指の先に目を向けると·····


「これが·····え?クルーザー?」


見た目がクルーザーそのものだ·····

どう考えても、この世界に合わない

周りの船は木造の帆船ばかりなのに、1隻だけ異色を放っている


「魔導船は全部こんな形なんですか?」


「いえ、ジンさん仕様です!タンクとジンさんの魔力があれば帆は邪魔になるだけですからね!」


確かに帆を使うことは無いだろうが·····


「この外装は·····」


「これはジンさんの魔道二輪を真似て見ました!魔道二輪も魔導鉄を使われていましたよね?」


魔導鉄?初めて聞く言葉だ


「魔導鉄ですか?」


「はい、魔道具に使われる魔力を通しやすい鉄のことです!ご存知ありませんでしたか?」


「知りませんでした、そんな鉄があったんですね」


「浮かせるのに苦労しましたよ!この魔導船は今までで1番の自信作です!タンクに魔力さえ入っていれば誰でも操作できますからね!」


ティムさんの言葉に熱がこもっている


「大事に使わせていただきます!操作方法とか知っておく必要のあるものはありますか?」


明日の出発前にバタバタと説明を聞くのも申し訳ないので、今のうちに必要な事は聞いておくことにした


「そうですね!船の中で説明しますね!」


そう言ってティムさんが魔導船に乗り込んだので後を追う


「まず、前提として全ての動作にタンク内の魔力を使用します。ジンさんの希望通り、可能な限り自動で出来るようにしました。」


港町に来た初日、ティムさんに会った時にタンクの設置と動作の自動化などをできる範囲でお願いしていた

どうやら、色々と自動化に成功した様だ


「では、説明していきますね、このボタンを押すと、錨の上げ下げができます··········」


ティムさんの説明はわかりやすいが、かなり長かった

1度で覚え切れそうにないので、要点だけまとめてもらい、動かす方法と止まる方法、舵取りについて教えて貰った


「要点だけまとめると、こんな感じでしょうか·····念のために説明書を明日までに書いておきますね」


「それは助かります!そう言えば、の件は上手く行きましたか?」


「あぁ、ですか?動作確認はしていませんが、大丈夫なはずですよ!この辺りだと危なくて使えないのと、タンクの魔力を全て消費してしまいますからね·····」


「動作確認はここから離れたところで試してみますね」


「お願いします。調整など必要でしたら言ってください、しばらくはこの町にいると思うので!使い方は··········」




「ありがとうございました!また、明日の朝にお邪魔します!」


最後に使い方だけ説明を受け、俺は宿に戻ることにした

造船所を出ると、太陽が真上にあった

結構長居してしまったようだ


「ジンくん!」


「ん?リオか、さすがに起きたか」


造船所を出るとリオが俺を見つけて走ってきた


「なんでまた置いていくかなー!」


「そりゃ、気持ちよさそうに寝てたし、今日は休みにするって言っただろ?」


「そうだけどー!出かけるなら声を掛けてくれてもいいじゃない!」


リオが大声で怒っている

町人達はこっちをみてクスクス笑っている·····


「リオ、恥ずかしいから大声で騒がないでくれ·····」


「ジンくんが悪いんでしょ!勝手にどっかに行かないで!置いてかれたら不安になるよ·····」


怒ってたかと思うと今度は涙目で睨んできた

泣かれると一気に俺が悪者になってしまう·····


「わかった!わかったから泣くな!どこか行くか?まだ半日あるからな、久しぶりに買い食いでもしながら、ぶらつくか?」


俺は必死にリオの機嫌を取った


「ホント!?じゃあ、向こうに魚の串焼屋さんがあったからまずはあっちに行こ!」


リオの機嫌が治って、一瞬で満開の笑顔になった

何だか騙された気分だ·····

仕方ないので、リオが行きたいところについて行くことにした


その後も、魚料理を買い食いしながら町中をぶらついた

それにしても、一体、リオの体のどこにそんなに入るのだろうか·····


途中でリオがアクセサリーを見て立ち止まった


「欲しいのか?」


「んーいらないかなーあ!あっちは煮込み料理だって!」


俺が声をかけると、少し考えて買うのを辞めた

似合うと思うんだが·····




「そろそろ宿に戻るか」


食べ歩きを続けていると、いつの間にか、夕方になっていた


「そうね·····明日からは北のダンジョンに向かうんだよね·····」


「不安か?」


北のダンジョンは噂だけでも、ろくなものじゃない

入ったら入口が無くなったとか

天井から剣やら槍やらが降ってきたとか

水だと思ったら体を溶かすほどの酸だったとか

誰が言ったのか分からないが、みんなが危険な場所だと認識している

他にも魔物の噂などもあるらしいが、それはダンジョンに着いてからの楽しみにしているので、極力聞かないようにしている


「ジンくんとならどこにでも行くよ?それに、ジンくんはすごく強いよ?でも·····危ないかもしれないし·····」


「無理についてこなくてもいいんだぞ?どこかに家でも買って、そこで待っとくか?」


「絶対について行く!待ってるなんて嫌!それに、私はダンジョンを攻略するために強くなったんだから!」


「なら攻略するだけだな、今日は早めに寝て明日からに備えるぞ」


「うん!」


俺達は、宿に戻り早めにベットに入った

次の日の早朝·····




「ティムさん!魔導船ありがとうございました!また近くに来たら寄らせてもらいますね!」


「いつでも来てください!その時は、さらに進化させた魔導船を準備しておきますよ!」


ティムさんは本当に仕事人間だ


「みんなも、態々見送りありがと!またクラーケン見つけたら倒して持ってくるよ!またイカ祭りしよう!」


町の人達が見送りのために、かなりの数来てくれていた

みんなが口々に見送りの言葉を言ってくれている


「それじゃ!行ってきます!」


「「「「「行ってらっしゃい!」」」」」


『キィイイイイン·····』

みんなに見送られながら、俺は早朝の海へと魔導船を進めた

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