第344話 幕間:優生機関


「それで首尾はどうだい?」


 円卓を囲むようにして並んでいる面々。ちょうど七人の人間がそこにいた。人種、性別、趣味嗜好、容姿は多種多様。ただし、七人の中で共通しているものがあった。


 それは、真理を追求すること。


 この世界の高次元に存在している真理世界アーカーシャを突き止めることこそが彼らの悲願である。そのために人間をどれだけ使い捨てにしようが、欲望が止めることはない。


 際限なく続く実験など些事に過ぎないのだから。


「現在は貴族側も十分に取り込めているかと」


 メガネをかけた女性が男性の問いに対して答える。手元には資料のようなものを持っていた。そこには数多くのデータが書き込まれているようだった。


「なるほど。ホスキンズ家は?」

「こちらの勧誘にはまだ乗ってきていません。現在は貴族たちの中でも一番の勢いがあるようですが、渋っている側面があるかと」

「ふむ。分かっていない。分かっていないな。倫理と言う人間が枷にはめた世界で生きているから、その程度で納まる。私たちの研究成果を見て怖気付くのなら、その程度だ」

「では切り捨てると?」

「いや。確か、ビアンカが潜入しているはずだ。あそこの息子はなかなかに優秀だ。才能もある。記憶痕跡エングラムが熟成するのを待ち、回収してもらう予定だ」

「分かりました」


 恭しく頭を下げる。


「で、レイ=ホワイトにはいつ仕掛けるの?」


 また別の女性が口を開く。リーダーと思われる男性はニコリと微笑みを浮かべると、それに答える。


「レイ=ホワイト。どうやら魔術領域暴走オーバーヒートはかなり良くなっている。早計に仕掛けるのは危険だ」

「私は知らないんだけど、そんなに強いの?」

「世界を統べるだけの能力を彼は持っているよ。おそらくは、生存している聖人クロイツの中ではもっとも真理世界アーカーシャに近い。そもそも魔術、魔法とは真理世界アーカーシャにどれだけ干渉して情報を引き出すことができるか……というものだ。真理世界アーカーシャの干渉力が魔術の力と同義になっている。レイ=ホワイトの場合はそれが異常なまでに優れていると思っていい」


 女性は腰まである長い髪の毛の先を軽く触り、思索に耽る。


「なるほど……ね。七大魔術師の記憶痕跡エングラムは回収できないの?」

「現在は燐煌がこちらの存在に気がついたようでね。表立った動きはかなり制限されている。去年のヘレナ=グレイディとエヴァン=ベルンシュタインは派手にやってくれたようだが、それも今後は難しいだろう。ま、どうにかするけどね」


 男性はじっと虚空を見つめる。


 優生機関ユーゼニクスの中でも上層部と言われる存在。その中でもトップの七人がこうして集めることは自体は珍しかった。ただそれが意味するのは、これから大きく動き出していく……というものだった。


 全てはレイを中心にして生じる出来事である。


「それでは早速、本題に入ろうか」


 不敵に笑う。


 優生機関ユーゼニクスが本格的に台頭するまであまり時間は残されていなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る