第231話 乙女の戦い!
俺とエヴィは集合場所へとやってきた。
そこにはすでに、アメリア、アリアーヌ、レベッカ先輩がその場にいるようだった。
しかし、睨み合っているというか、牽制をしているというか……あまりいい雰囲気ではなさそうだった。
もしかして、ケンカの類か?
この三人が特に仲が悪いという話は聞いていないが──むしろ、ここ最近はいいと思っている──人間関係は色々とあるだろう。
ここは仲介すべきだな。
「三人とも、喧嘩はよくない。まずは冷静に話し合ってだな」
俺の言葉を合図にするかのように三人は俺の方を見てくるが、それは半眼でじっと見上げるような形だった。
う……流石に三人同時だと圧があるな……。
「レ・イ・さ〜ん」
その中でもニコニコと笑いながら近づいてくるのは、レベッカ先輩だった。今日も先輩は、とても麗しい。髪型もアップにして、それに少し化粧もしているみたいだ。服装も、とてもよく似合っている。
少し短めのスカートは寒そうだが、キャロル曰く──美は我慢──らしいからな。
それに羽織っている純白のコートもよく似合っている。
「今日は他の方もお誘いいただいたみたいですね〜」
「はい。大人数の方が楽しいと思いまして」
「うんうん。それは私も、そう思います。ありがとうございますね」
「いえ……恐縮ですが……」
なんだ……この圧倒的な
以前にも感じたことがあるのだが、レベッカ先輩は時折、圧倒的な
それもちろん、魔術的な意味合いではない。
だが、これは
妙に寒気がするのだ──それこそ、心の芯から震えるような。
極東戦役において、幾度なく極限の状態に迫ることはあった。それこそ、死を覚悟したことは数えきれない。
そのような状況下でも相手の
しかし、レベッカ先輩のそれは質が違うのだ。
笑っている。一見すれば、いつものように美しい笑顔を浮かべているが、その後ろには何か巨大な意志を感じるのだ。
それに、笑うことで薄くなっている目がこちらをじっと見つめているようにも思える。
恐怖。
俺は今、圧倒的な恐怖に支配されているとでもいうのか……?
幾多もの戦場を駆け抜けてきた、この俺が……?
お、落ち着け。まずはいつものように、会話をするんだ……。
ここは師匠の教えに従うべきだっ!
「それにしても、先輩。今日はとても綺麗ですね。髪型もアップにまとめて、いつも印象が違いますが、とても可愛らしいです。それに、その羽織っている純白のコートもよくお似合いです。先輩は黒くて美しい髪と相まって、白がとてもよく似合いますね」
と、いつものように褒めると顔が徐々に赤く染まっていく。
「えっと……っ! その……! あ、ありがとうございますっ!」
途端にその
とりあえず、事なきを得たようでホッとするが、本当にあれは何だったのだろうか。
「ふ〜ん。レベッカ先輩を先に褒めるんだ……」
「なるほど。レイは本当に、いつも通りのようですわね〜。うふふ」
依然として、アメリアとアリアーヌは半眼で俺を見つめている。いや、睨み付けていると言った方が適切だろう。
「もちろん、アメリアとアリアーヌもよく似合っている。この雪景色によく映えていると思うぞ」
「う……っ!」
「こ、これが天然の技ですのね……っ! 凄い効果ですわっ!!」
と、何やらザワザワと騒いでいる二人だったが、その一方で残りのメンバーたちが到着する。
クラリスとエリサがやってくると、最後にはアルバートがやってくる。
「ふふんっ! 特別に来てあげたわよっ!」
「えっと……今日は誘ってくれて、ありがと。レイくん」
「いや、こちらこそ来てくれて感謝する。最近は大会で会うことがあまりできなかったからな。今日は存分に楽しもう」
エリサとクラリスにそう言葉をかけると、アルバートはエヴィと互いの筋肉をすでに見せてあってるようだった。
「エヴィ。服の上からでも良く分かるその筋肉は、やはり素晴らしいな」
「へへ。そうか? でも、アルバートもガタイ良くなったよなぁ。入学当初とは見違えるほどだぜ」
「ふ。俺も、筋肉に目覚めたからな」
どうやら、二人は決勝戦でそれなりに負傷していたようだったが、すでに完治しているようだった。というのも、治療はアビーさんとキャロルがしっかりと対処してくれたからだ。
大会に際して入念に準備していたため、対応も早かったとか。
「よし。では、向かうか」
今日の予定としては、全員で遊びに行くといっても、どこに行くかを明確に決めているわけではない。
しかし、女性が五人、男性が三人ということでまずはウインドウショッピングをしようという話になった。
もちろん男性陣は、荷物持ちである。
「……では、レイさんのお隣は私が失礼しますね」
「構いませんが、その少し近くありませんか?」
「え? そうですか?」
「いえ。レベッカ先輩が気にしないのでしたら、構いませんが」
「はい。私は別に普通と思うので、このまま側にいますね」
その言葉はとても物腰柔らかいものだが、有無を言わせない気迫があったような……。すると、俺の左隣にはアメリアがスッと並ぶのだった。
「じゃあ、私はこっちで」
アメリアと先輩に挟まれるようにして、俺はたちはとりあえずまっすぐ進んでいく。
そして後ろからは、「あれって……やばくない?」「しっ! クラリスちゃん! それは黙っておかないと……!」「わたくしは……ちょっと後ろで観察しておきますわ……」「ふむ……やはり、上腕二頭筋の調子が良くなくてな」「それなら、俺のおすすめのトレーニングがあるぜ?」という声が聞こえたきた。
アリアーヌはこのメンバーの中に混じるのは初めてだが、エリサとクラリスとは別に初対面というわけでもないので、普通に話しているようだった。
「うふふ……」
「ふんっ! 負けないもんっ!」
気がつけば、俺の両腕にはアメリアとレベッカ先輩が絡みつくようにして、ぴったりとくっついていた。
流石に動きづらいので、離れるように促そうとするが……本能が告げているのだ。
──この場では余計なことはしないほうがいい、と。
コート越しにはなるが、二人のその豊満な胸の感触が腕に残ってしまう。流石の俺でも、これはまずいのでは……? と思うがこの圧倒的な雰囲気が俺に発言を許さない。
師匠の教えでも、このようなケースでは下手に事を荒立てないほうがいいと言われている。ここは静観しておくべきだろう。
その後、全員で買い物を楽しむと、公園で食事を取ることにした。今日は俺が誘ったということで、実は昨晩から仕込みをして弁当を持ってきていたのだ。
寒さもあるが、そこは魔術で温めれば大丈夫だろう。
「ということで、サンドイッチを持参している。後は唐揚げと、サラダ各種だな。是非、堪能してほしい」
『おおおおおおっ!!』
全員が声を揃える。
それぞれが並んでいるベンチに座ると、早速その弁当の中身をそれぞれ取り分けていく。今日はかなりの自信作であり、腕によりをかけて作った。
きっと、みんなの口に合うことは間違い無いだろう。
「うまっ! レイってば、本当になんでもできるわね!」
「う……うん! 美味しいね……っ!」
クラリスはその金色のツインテールをぴょこぴょこと動かし、エリサはハーフエルフ特有の長い耳が忙しく動いていた。
男性陣といえば……。
「む……っ! これは、ローカロリー、高タンパク質の素晴らしい料理だな! 特にこのサンドイッチ……ささみを使っているというのに、このジューシーな感じ……やるな」
「レイの手料理はたまに食べるが、いつも通り美味いな〜」
アルバートとエヴィも大満足なようだった。そうして、俺はちょうど席の空いているところに座る。そこで、アリアーヌが一人ではむはむとサンドイッチを頬張っていた。
アメリアとレベッカ先輩といえば、よほど仲がいいのか二人でじっと互いの顔を見つめ合いながら食事を取っていた。
「あ……えっと……その。レイ、とっても美味しいですわ」
「そうか。それならよかった」
アリアーヌの様子は、なんだか大会を経て少しだけ変わったような気がする。俺と話すときには妙にソワソワとしているし、顔もいつも赤い。それに視線を頑なに合わせようとしてこないのだ。
「もしかして、俺は何か気に触ることをしてしまっただろうか?」
「え……っ!!? べ、別に何もありませんのよっ!?」
「そうか?」
「えぇ。ちょっとまだ感情が追いつかないというか、色々と困惑しているだけなのでっ!」
「よく分からないが、大丈夫なのか?」
「えぇ! 時間が経てば大丈夫だと思いますわ!」
ドンッとその胸を軽く叩き、大丈夫だということをアピールしてくれる。
どうやら、杞憂だったみたいだな。
「それにしても、アリアーヌに手料理を振る舞うのはこの前ぶりだな。あの時は、後ろから支えてやったな」
「も、もう……っ! あの時のことは恥ずかしいので、忘れてくださいましっ!」
プイっとわざとらしく、顔を背ける。そんな仕草も、どこか可愛らしいと思ったが……俺たちの後ろには、気がつけばヌッとアメリアとレベッカ先輩が立っていた。
「へぇ……その話、詳しく聞いてないんだけど?」
「アリアーヌさんは一番リードしているように、思いますねぇ……えぇ。これは、
「あ……これはその……っ! い、いやあああああああ! わたくしは無実ですわああああああっ!」
断末魔の声とともに、アリアーヌは鬼気迫った二人に連れ去られてしまった。よく分からないが、そっとして置くのが吉だろう。
師匠にも、女性のいざこざには下手に首を突っ込まないほうがいいと言われているしな。
アリアーヌ。よく分からないが、君の犠牲は忘れない──。
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