第217話 大規模魔術戦、決勝戦
「ついに決勝だな」
「えぇ。先輩も楽しそうですね」
「もちろんだ。レイの活躍を、また見ることができるからなっ!」
今日は今まで開催された試合の中でも、最も観客の動員数が多い。もっとも、ほぼ毎日満員なのだが、今日に限ってはかなりの数の立ち見も出ている。
やはり、皆が気になるのは決勝戦の対戦カードだろう。
チーム:フォルスト。
構成メンバーは、ルーカス=フォルスト。アルバート=アリウム。エヴィ=アームストロング。
常勝のチームと予選の時から評され、ここまでの試合はほぼ完封。全く危なげなく、決勝戦まで勝ち上がっている。
その中でも一番の注目は、やはりルーカス=フォルストだろう。
魔術師にしては珍しく、剣ではなく刀を使うその戦闘スタイル。また彼には、
多くの人間はよく覚えている。
彼がたった一振りで決勝戦まで勝ち抜き、圧倒的な実力で優勝したことを。
そんなルーカスにはファンも多い。中性的な容姿も相まって、彼は女性人気が高い。それはこの
アルバートとエヴィの評価も、目立つわけではないがしっかりと高まっている。
この
「ふむ。やはり、レイたちの評価は意外と高いようだな。ふふ」
観客席でリディアはニヤリと笑う。
彼女は
三大貴族である、アメリアとアリアーヌの評価が高いのは当たり前のことだ。
むしろ血統主義である魔術師は、さすが三大貴族の令嬢だと褒めて称えている。
だがやはり、今までの試合の中でチーム:オルグレンで一番目立っているのは一人しかいなかった。
レイ=ホワイト。
上流貴族の令嬢であるシャーロットを予選で打ち破り、本戦ではメルクロス魔術学院のトップであるアスターも真正面から打ち破っている。
その実力は、誰の目にも明らか。
むしろ、
それほどまでに、レイの評価は高まっていた。
「早く、レイが見たいのじゃー! 試合はまだなのかっ!!?」
フランソワーズ=クレール。
一見すればただの幼い少女にしか見えないが、彼女の実年齢は六十二歳。さらに、七大魔術師の一人である──【比翼の魔術師】だ。
そんな彼女はレイに会いに行くと聞かないので、リディアが確保して嫌々ながらこうして一緒に観戦することにしたのだ。
「フランさん。もう少しですよ」
「そうなのかっ!? いやー、リーゼはいつも親切でとても礼儀正しい子じゃっ!」
「恐縮です」
フランは七大魔術師の中でも、もっとも敬遠されている魔術師だ。それは主に、その性格のせいなのだが。
「おい。もう少し黙って、待てないのか」
「リディアよ。レイの試合を見れるんじゃぞっ!? もっと喜びの声を上げるのが当然じゃろうっ!」
「……」
もはや会話にならない、そう思って彼女は頭に手を当てながら天を仰ぐ。
相性が悪いのは重々承知しているのだが、やはりこうして会話をすると氷漬けにしたくなる。それをリディアは、なんとか堪えているのだった。
「にしても、レイは今はどうなんじゃ?」
と、先ほどまで騒ぎが嘘のようにフランは冷静になる。その声音は、いつになく真剣味を帯びていた。
そして、リディアは今のレイについて語るのだった。
「
「なんと! あのレベルの
「あぁ。レイは特別な魔術師だ。私たちなど、比較にならないほどのな」
その言葉に対して、異論を唱える者はいなかった。
リディア=エインズワース。
リーゼロッテ=エーデン。
フランソワーズ=クレール。
世界の魔術師の中でも頂点に立つ三人ですら、レイには届きはしないと理解しているからだ。いや、彼女たちは魔術師の頂点にいるからこそ、分かってしまうのだ。
レイ=ホワイトという魔術師はある種の究極の存在であると。
「さて、試合が始まるぞ」
そうしてついに、
◇
決勝戦。ついにこの時がやってきた。
すでに互いのチームは整列している。現在は、コイントスを待っている状態である。今回の決勝戦は、アビーさんが審判をしてくれるらしく、彼女が俺たちの前に出てくる。
「では、試合前のコイントスだ。両チーム、どちらを選ぶ?」
そうして、チーム:オルグレンは表を選択。チーム:フォルストは裏を選択。
キィイインと音を鳴らして、アビーさんは手の甲で飛翔したコインを受け止めた。その手を退けると、コインは表となっていた。
「では、わたくしたちは攻撃を選択します」
「では、チーム:オルグレンは攻撃、防衛、攻撃の順になる。チーム:フォルストは防衛、攻撃、防衛の順だ」
攻撃と防衛の順番が決まったところで、さっそく防衛側のチームは準備フェーズに入る。
だがその前に、チーム:フォルストの三人がこちらに歩みを進めてくるのだった。
「レイ=ホワイト。ここまできたようだね」
「はい。よろしくお願いします」
「はは。まぁ、楽しみにしているよ」
ルーカス=フォルストはその後、アメリアとアリアーヌとも握手をして颯爽と古城へとその姿を消して行った。
次にやってきたのは、エヴィだった。
「レイ。ついに決勝だな!」
「エヴィ。そうだな。戦えることを、楽しみにしている」
「おう! 俺も楽しみにしているぜ!」
エヴィもまた、アメリアとアリアーヌと軽く挨拶をすると同じように古城へと歩みを進めていく。
最後にやってきたのは、アルバートだった。その顔つきは、以前のものとは違う。彼は努力に努力を重ねてきた。それは、今までの試合を見れば明らかだった。
「レイ。今日はよろしく頼む」
「アルバート。そうだな。ついに、この時が来たな」
「あぁ。あの頃の俺とは、もう違う……と言いたいところだが、まだ発展途上だ。しかし、勝つのは俺たちだ」
グッと力強く握手を交わす。
互いに表情は晴れやかだった。むしろ、早く試合がしたくてたまらない。そんな感覚だった。
アルバートはアメリアとアリアーヌにも、同じような言葉をかけると古城へと姿を消していく。
そんな彼を見て、アリアーヌはこのように口にするのだった。
「アルバート。本当に変わりましたね」
「そうよね。昔はもっと、刺々しいっていうか、才能こそ全てだ、みたいな感じだったのに。でも、レイと出会うと変わるものよね」
「えぇ。そうですわね」
と、なぜか納得している二人。
思えばアルバートとの出会いは決していいものではなかった。だが彼は、自分を見つめ直して、ここまでたどり着いた。その姿勢は素直に称賛すべきものだろう。
だがもちろん、俺たちもまた負けるわけにはいかない。
「アメリア。アリアーヌ。ついに決勝戦だな」
「えぇ。ここまで来たわね」
「あとは優勝あるのみですわっ!」
三人で肩を組んで円陣を組む。これも、今日で終わってしまうと少し寂しく思ってしまうが、無事に勝利を飾って──優勝しようではないか。
俺もまた、仲間と共に何かを果たせるのだと……そう思いたい。
「絶対勝つぞ────ッ!!」
「「お────ッ!!」
三人で大きな声を上げる。
絶対に優勝してみせる。
アメリア、アリアーヌ、そして俺という三人で成し遂げてみせるのだと。
そうしてついに、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます