第53話 ヲトコ*ドメイン


「うわ〜、みんな超可愛いよぉおおおおお☆」


 キャロルによるメイクが終わり、さらにはヘアメイクも完了した。そして衣装を来た俺たちは三人で横一列に並んでいた。


「うう……は、恥ずかしいよぉ……」

「ど、どうしてこんなことに……」

「ふむ。予想以上にいい出来だな」


 俺たち三人の衣装はほぼ同じだ。ロングブーツに、フリルが大量に装飾されているワンピースタイプの衣装。これは今巷で流行っている、ゴシック&ロリータというものらしい。略してゴスロリだとか。偶然、その衣装をエリサが持っていたのでそれを持ってキャロルの元に押しかけて、三人分の衣装を特注で発注してもらった。


 キャロルの服飾関係の人脈はかなりのもので、今回は俺は存じ上げないがプロの中でもトッププロと呼ばれる人材に頼んだらしい。


 この衣装の生地はかなり上質だとか。確かに自分で触ってみても、肌触りがいい。それに今の季節はかなり日差しが強いということで、一部をメッシュ生地にしているらしく通気性も抜群だ。


 デザインはもちろん白と黒を基調として大量のフリルで飾っているが、それは決して数が多いものではなく適切な量感に調整されている……とのことだ。さらにはこのロングブーツとスカートの間に見える生脚の部分を『絶対領域』というらしく、ここの範囲もまた厳密に設定されているとか、どうとか。


 とりあえず、キャロル監修の元、完璧な三人の売り子が誕生したのだ。



「エリサ。大丈夫だ。いつもとは違うが、可愛いと思う。いや、可愛すぎるな……そういうメイクも素晴らしい。よく似合っている」

「ほ……ほんと?」

「もちろんだ」


 俺たちのメイクはいつもよりも濃い目になっている。


 今回は悪魔のとうもろこしという名前で売り出すので、それに合わせて俺たちも悪魔の衣装とまでは言わないが、少しダークな路線にしている。それぞれのメイクも濃いめになっており、特に目元はしっかりと強調するようになっている。いわゆる、ギャルメイクもどきらしい。


 だがあまり濃すぎると印象が悪いとのことで、そこはキャロルの技量によって可愛いの範疇に収めてもらった。


 ちなみにエリサの頰にはハートマークが書かれており、それは俺とクラリスも同様である。クラリスに至っては右の頰にハート、左の頰に星とかなり派手な顔になっている。


 だが……ふむ。自分のメイクは見慣れているので、今更どうとも思わないが……あのおとなしいエリサが本物のギャルに見えてくるのは、すごいと思う。



「うう……どうしてこんなことに……ううう……」


 と、次はクラリスが落ち込んでいるというか、緊張しているので俺はすぐに励ますのだった。


「クラリス」

「な……何よ」

「大丈夫だ。君もよく似合っている。というよりも、クラリスはその路線だと本物みたいだな」

「誰が本物のギャルよっ!」

「いや俺は純粋に褒めている。いつものクラリスもとてもいいが、今日は最高に映えているな」

「さ、最高なの……?」

「あぁ。もちろんだ」

「ほ、本当に……?」

「あぁ」

「べ、別にどうだっていいけどねっ! ほんとよ? そう言われても嬉しくないんだからねっ!」


 プイッと横を向くクラリス。その際にいつものようにツインテールが靡くも、今日のツインテールは一味違う。


 それは毛先が綺麗に巻かれているのだ。緩やかに巻かれたそれは、どこか大人っぽい印象を演出している。ちなみにエリサは髪が短いので、全体的に緩やかなカールを入れている感じだ。


 一方の俺といえば、前と同様に栗色をしたロングのウィッグをかぶっているが今回はそれをツーサイドアップに結っている。


 以前の女装はベーシックなものであり、いわゆるプレーン状態。しかし今の俺は、段階を一つ上げた。つまり……言っている意味がわかるな? 俺の女装はさらに輝きを増している……ということだ。


 フハハ! 完璧な布陣ではないか!!


 と内心でテンションが上がってしまうのも致し方なし。それほどまでに、今回のこれは気合が入っているのだ。


「それにしても……あんた、どこまで可愛くなるのよ」

「う、うん……その、レイくんすごいね」

「ごほん。この状態の私はリリィーとお呼びください。リリィー=ホワイト。それが私の名前です」

「うわっ! マジで本当にそういう人に見えてきたわ……」

「そ、そうだね……なんか女として自信なくすかも……いや別に私はそんなにないんだけど……これはちょっとね……うん……」


 三人で色々と話している間にも、もういい時間になっていた。


「ではキャロル。世話になったな」

「うん☆ でも、や・く・そ・く忘れたやダメだよ?」

「あぁ……それは必ず果たそう」

「やったー☆ じゃあみんな頑張ってね〜」


 そしてキャロルに別れを告げると、俺たち三人は出店の場所に戻っていく……いや、出陣していくのだった。



 ◇



「部長」

「ん?」

「ただいま戻りました」

「な……」

「どうしました?」

「本当にレイなのか?」

「はい。ちなみにこの状態の俺のことは、リリィーとお呼びください。リリィー=ホワイトです」


 そして俺は声の調整も兼ねて、声色を変化させる。


「ごほん……声はこのように調整できますので、安心してください」

「あ、あぁ……了解した」


 すでにこの周囲はかなりいい匂いが充満しており、タレで焼いたとうもろこしが大量に並んでいた。ちなみに俺たちはこの二週間ほぼフルに出る予定なので、消臭対策などもしているし、終わった後は魔術による洗浄もして、次の日に望むことになっている。


 だからこそ、今回は全力で売り子として活躍しようではないか!

 

 フハハ!



「なぁ……!?」

「ば、バカな……!?」

「あ、あり得るのか……そんな、そんなことが……!?」

「あの長身のウルトラ可愛い子ちゃんが、レイ……だと……?」

「ゴクリ……やばい。俺は新しい扉を……」

「やめろ! 戻れ! その先は地獄だぞ!」


 と、部員の方々も大騒ぎであるし、部長の家族の方も目を点にして俺たち三人のことを見つめている。


 大変に気分がいい。


 これは間違いなく、トップクラスの売り上げを出すことができるだろうと俺は確信していた。



「レイ……」

「エヴィ、どうした?」

「お前……すごいな……俺の筋肉もちょっと驚きだぜ……」

「ふ、そうだろう?」

「あぁ。でも三人とも可愛いから、これは完璧だな!」

「あぁ!」



 ちなみに俺は堂々とした振る舞いをしている一方で、エリサとクラリスはまだ恥ずかしいのか、ずっと下を向いているが……そろそろ開店の時間だ。


 すでに観客と思われる人々がかなりの数存在している。そして、その人たちはこの匂いにつられて、さらには俺たち三人の装いに驚いているようだった。


 集客効果は抜群のようだった。


 あとは俺たちの気の持ちようである。


「エリサ、クラリス」

「う……うん」

「何よ……」

「大丈夫だ。最高に可愛い。いいか復唱しろ」

「「う、うん!」」

「私たちは、最高に可愛い!」

「「私たちは、最高に可愛い!」」

「もう一度!」

「「私たちは、最高に可愛い!」」

「ラストは全員で行くぞ! せーのっ!」

「「「私たちは最高に可愛いっ!!」」」


 二人の可愛らしい声の中に、一人だけ野太い声が入るが……俺はスッと自分の声色を再び変化させる。


「では行きますよ! エリサ、クラリス!」

「「うん!」」


 ということで、俺たち三人の初陣が始まった。



 ◇



「いらっしゃいませ〜☆」

「と〜っても美味しい、とうもろこしはこちらですぅ〜☆」

「美味しいですよぉ〜☆」


 円形闘技場コロッセオへの入場が開始した午前九時。とうとう店が開店した。


 それと同時に押し寄せるのは人の波。圧倒的な数のそれを、なんとか整理して捌きつつ、俺たち三人は笑顔で接客をする。


 声色も三人ともに、いつもよりもワントーン高めだ。


 今はかなりの行列になってきているのか、後方がすでに見えないほどになってきている。そのため列を二重にして対処している様子だった。ちなみに列整理は他の人がやってくれている。


 なぜなら、俺たちには別の重大な使命が残っているからだ。


「え、Aセットください!」

「Aセット、まいど! リリィー、出番だ!!」

「はぁ〜い☆ リリィーちゃん、行きまぁ〜す☆」


 部長にそう言われるので、俺はすぐに悪魔のとうもろこしを持ってその購入した男性の元へと向かう。そして……。


「はい、あ〜ん☆」

「あ、あ〜ん」

「美味しいですかぁ〜?」

「は、はい! とても美味しかったです」

「よかったぁ〜。それでは、またのご来店お待ちしてますねぇ〜☆」

「ひゃ、はい!」


 俺は購入した男性にあ〜んを一口だけ行うと、すぐに持ち場に戻る。


 そう。この店の販売しているメニュー。それは悪魔のとうもろこしだけではない。ドリンクなどもあるのはもちろんだが、特殊なメニューが存在する。


 それは、A、B、Cセットと呼ばれている。その値段はなんと、普通のとうもろこしの五倍。もはや違法なのではないかと思うが、一応許可は出ているらしい。


 そしてAセットは俺があ〜んをして、Bはエリサ、Cはクラリスだ。


 そしてにメニュー表には、こう表記されている。



『Aセット:長身美少女が甘々に癒します』

『Bセット:ちょっとたどたどしいけど、天使の癒しを捧げます』

『Cセット:至上のツンデレをあなたに……(ツンとデレの量調整できます)』



 俺たちはこの通りのキャラクターを演じる必要がある。発案はキャロルのやつなのだが、これが存外上手くハマっているようで客足が止まることはまだまだないようだった。


「あ……その、あ〜ん。お、美味しいですか?」

「べ、別にやりたくはないけどっ! 勘違いしないでよねっ! ふんっ! でも……そ、その……あんたにだけ特別よ?」


 今のところ、俺への注文が一番多いが、順調にエリサとクラリスへの指名も入っている。


 うむ……いいことだ。


 しかし予想以上の客足、さらにはこの違法とも思える特殊セットを注文する客が多く、俺たちは休まる暇が全くなかった。


 だが今のところは全てが順調だった。


 ──よし、俺もさらに頑張ろうではないか!


「いらっしゃいませぇ〜☆ と〜っても美味しい、とうもろこしはいかがですかぁ〜☆」

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