第45話 圧倒的、感謝ッ‼︎
アメリアは師匠と何やら話していたようだが、二人が時間差で戻ってくるとそのままみんなで食事を楽しんだ。
カーラさんは何も、ケーキだけが得意なわけでは無い。あらゆる家事に関して完璧。だからこそ、この昼食も普通の学食とはレベルが格段に違い、本当に美味しく頂くことができた。
「ふぅ……美味かったな」
「マジでやばいな! こんなに美味い料理は初めてだぜ!」
エヴィが興奮している中、エリサとクラリスも満足そうに食事について語る。
「ま、まぁ……美味しかったわねっ!」
「うん……すごく美味しかったね!」
そんな中、アメリアはどこかぼーっとしており、俺は少しだけ心配だった。
「アメリア? 体調が優れないのか?」
「あ! いや、その……訓練の疲れがね?」
「なるほど。それは仕方ないな」
「でも大丈夫よ! だってこの後は……」
そう。この後に待っているイベントは皆が楽しみにしているあれだ。いや、クラリスは何かと文句を言っていたが、きっといざ始まれば楽しんでくれるに違いない。
ということで俺たちは外に出ていくのだった。
◇
「おぉ! 気持ちいいな!」
「あぁ。この夏真っ盛りの中で、この水の冷たさは嬉しいな」
俺とエヴィは水着に着替えて、近くにある川にやってきていた。今は浅いところで、水の中に足を入れているだけだ。奥の方では滝が流れており、さらには深いところではしっかりと泳ぐこともできる。
そして中には魚もいるのか、この川の水はとても澄んでいるように見えた。それに木々の木漏れ日もちょうど良い感じ差しており、まさに水遊びするには絶好のタイミングだった。
「しかしエヴィ……今日もキレてるな」
「ふ……レイもいい感じじゃねぇか。あの細身からは想像もできないバルクだぜ」
「ふふふ……」
「ふふふ……」
俺たちは自然と向き合ってポージングを取っていた。それはもちろん、そうすることでパンプアップするのも目的としている。筋肉を愛する者として、やはり見栄えは気にするからな。
ちなみに俺とエヴィは今日に際して水着を購入したのだが、二人ともにブーメランパンツだ。なぜならば普通の水着など着用してしまっては、脚のカットが隠れてしまう。筋肉を愛するものは、この全てを表現しなければならない。
だからこそ、この逆三角形のブーメランパンツを水着として採用。
互いに迷う暇などなかった。
ふむ……今日もいいカットが出ている。
と二人で筋肉での対話をしていると、女性陣も続々とやってくる。
先頭には車椅子をカーラさんに押してもらっている師匠の姿が見えた。師匠はパレオタイプの水着で、上のビキニは真っ青なもので、下のパレオは水玉のものを着用していた。
一方のカーラさんは、なぜか競泳用のものを着ていた……いや、美しいのだが、まさか競技経験者なのだろうか。いつもクールな人なので、相変わらず謎に包まれている……。
「おー! 二人とも、キレてるようだな!」
「は。師匠も美しいようで」
「俺もとても綺麗だと思います!」
「ふ。当たり前だな。しかし、レイとエヴィが並ぶと壮観だな。まさに筋肉の彫刻だ」
褒められて嬉しくなり、俺たちはさらにポージングを続けていくも……後ろからはクラリスの大きな声が聞こえる。
「は!? え!? マジでレイなの!?」
「いかにも」
「エヴィはわかるけど……あんたってマジで体どうなってるの?」
「ふ。着痩せするタイプだからな」
「いやいやいや! 着痩せってレベルじゃないでしょ! 筋肉やば過ぎ!」
「それはありがとう。そして、クラリスもよく似合っているぞ……」
「う……嫌味?」
「いや。純粋な賛辞だ」
「それならいいけど、ふんっ!」
ぷいっと横を向くと、それによって彼女の華麗なツインテールもまた綺麗に靡く。
クラリスはいわゆるスクール水着を着ていた。紺色のそれは確か、学院で指定されているものだ。
急な誘いで用意できないとかなんとか言っていたが、それでもクラリスの水着姿は美しかった。
スッと伸びる脚に、身長の割には長い四肢。それに肌は真っ白で、日焼けの跡など一切残っていなかった。
おそらく、毎日のケアを欠かしていないのだろう。
女性のこういう面は純粋に尊敬する。
そして次にやって着たのは、エリサとアメリアだった。
「ううぅ……恥ずかしいよぉ……」
「大丈夫よ、エリサ。超可愛いから! ぐへへ……」
「私はアメリアちゃんが一番怖いよ!!」
「だ、大丈夫……ちょっと、ちょっとだけだから。先っぽだけだから! ぐへへ……」
「うわああああああーん! 怖いよおおおおっ!!」
鼻の下が伸びきったアメリアを振り切って、俺たちの方へやってくるエリサ。
翠の髪をアップにまとめ、上着を羽織っているものの……彼女のビキニタイプの水着は走った際によく見えた。上下ともに真っ白な色のもので、まるでそれはエリサの純白な内面を示してるようだった。形容するならば……まさに大天使だ。
だが一つだけ。一つだけ、圧倒的な存在感を放っているものがある。
それはあまりにも偉大すぎて、直視することなどできない。
が、どうしてもこの視線が吸い寄せられるような……感覚。俺であってしても、この誘惑には勝てない……エリサのそれはもはや暴力であり、戦争を引き起こせるものであった。
何が、とは敢えて言及しない。
男がそれを口にしてしまえば、それこそ無粋の極みというものだろう。だからこそ、俺とエヴィが行う動作は同じだった。
「……」
「……」
拝む。
そして、祈りを捧げる。
ただただ、礼拝をする。
この世に感謝を。エリサという大天使を生み出してくれてありがとう。
そんな賛辞を込めての、礼拝。
直立不動のマッチョ二人が、その圧倒的な存在に心を奪われたのだ。俺たちのこのバルクもまた、この存在の前ではただの塵にすぎない。
エリサのそれは、それこそ……全てを無に帰す。
戦争を起こし得るものでありながら、戦争を終結させるものでもある。
そんなコントラディクションを内包している、ラグナロクであり、アポカリプスでもあり、ディストピアでもり、ユートピアでもあるそれはもはや……神そのものであった。
いや、大天使エリサはこの宇宙そのものであった。
「え!? ど、どうしたの……!?」
「神はここにいたようだ……」
「だな……」
慌てている大天使エリサもまた、素晴らしい。そしてその微かな動きで揺れてしまう、『その圧倒的な存在感』に俺たちは改めて感謝を……。世界よ、大天使エリサをこの世界に顕現させてくれて……ありがとう。
少しだけ涙が出てきた……あぁ、生きてきて本当に良かった……。
そんな風にエヴィと二人で拝んでいると隣にいるクラリスがじーっとエリサを見つめる。
「でかい……」
「え……?」
「でかいのよ!! ちょっと私にも分けないさいよ!」
「ふえぇぇぇ……」
あまりの出来事にキャパオーバーしたのか、エリサはただただ「ふえぇぇぇ……」と言うだけになってしまった。しかしそれもまた一興。大天使エリサの前では、全てが善。この「ふえぇぇぇ」もまた、大天使の息吹なのだ。それこそ、どんな傷でも瞬く間に癒してしまうほどに。
「ふふ……くふふ……エリサも可愛いし、クラリスも可愛い……あぁ、なんて素晴らしいのかしら……ぐへへ……」
一人でぶつぶつと言いながらやって着たアメリアは、紅蓮の髪の毛をお団子にしてまとめており、そのしなやかに伸びている四肢が彼女の体のバランスの良さを際立てる。プロポーションも最近の訓練で鍛えているからか、無駄のない筋肉がバランスよくついていた。ある種の究極でもあるアメリア。
そして、俺とエヴィはアメリアに対しても再び礼拝。
この世全ての水着に感謝する。
感謝。圧倒的、感謝……ッ!
その存在感を放つものに対して、俺たちは尊敬と畏怖の念を込めて……ただただ祈る。
「ちょっと男ども! 私にはそれがないんだけど!!」
クラリスがツインテールを天に上げながらそう怒号をあげるので、ちらりとそっちを向くと俺とエヴィはそんな彼女を優しくフォローする。
「大丈夫だ、クラリス。成長は人それぞれ。焦ることはない」
「そうだな! きっといいことあるぜ!」
「いやそこはポーズでもいいから私も拝みなさいよ!」
「クラリス……」
「な、何よ……ちょっと筋肉がすごいからって、私はビビらないわよっ!」
俺はスッとクラリスに近づいて、その小さな肩に手を置く。
「それはできない。なぜならば、これは心からの賛辞の時しかできないからだ。嘘であっても、それは許されない。だから俺たちは君の成長を祈っている。きっとクラリスも将来はさらに素晴らしい女性になっている」
「……ま、まぁそういうならいいけどっ! べ、別に気にしていないけどねっ!」
顔を真っ赤にしながら、プイッと横を向くクラリス。すると後ろからひっそりと忍び寄っていたアメリアがそんな彼女に抱きつく。
「ちょ!? アメリア!? どうしたの!?」
「ぐへへ……クラリスの身体もいいですなぁ……」
「え!? だ、誰なの……!?」
「ぐへ、ぐへへ……ふふふ……」
「い、いやあああああああー! 何か危機をっ! 危機を感じるううううううっ!!」
明らかに別人と化したアメリアが容赦なくクラリスを襲う。
ベタベタと体を触っていき、クラリスが逃げようとするも俺が教えた体術で完全にクラリスを固めてしまうとそのままニヤニヤと笑いながらその肢体を堪能している。
まぁ……同性だからセーフだろう。
「ふむ……どうやらアメリアは女性の体に興味があるのか」
「う……うん……私もいっぱい触られたよぉ……」
「なるほど。しかしエリサ。君は美しい。その天使のような美しさを前にすれば、異性同性はきっと関係ないのだろう」
「……あ、ありがと……」
エリサもまた、顔をだけでなく全身を真っ赤にして下を向いてしまう。そうしていると、師匠が大きな声をあげてくる。
「おーいレイ! 私も褒めろ! 私も綺麗だろ!」
「まぁ……師匠は綺麗ですが」
中身がゴリラなので、大天使エリサと比較するのもおこがましいだろう。
と、小声でそう呟くと師匠は俺に向かって魔術を行使してきた。それはまさにノータイムであった。
《
《
《
《エンボディメント=
結構マジなやつで、俺の脳天を貫くようにして巨大な氷柱がこの場に顕現する。とっさにその魔術に使用されたコードを理解する。これは本気のやつである。先代の冰剣の魔術師の実力をフルで発揮している
これは、避けるべきかッ!? いや、
が……間に合うわけがない。否、これは──死。
そして俺は自身の
冷や汗と髪の毛から大量の水滴を垂らしながら……じっと師匠を見つめる。
「は? 誰がゴリラだ? 殺すぞ……あ?」
「師匠は裏表のない美しい人です!」
「だろう?」
「はいっ!」
今までの生きてきた中で、最高の笑顔だった。きっと俺は生涯、この作り笑顔を超えることはできないだろう……そう自負するほどに、俺は身の危険を感じていた。
そして俺たちは、川辺でのひとときを楽しむ。
ちなみに師匠のあれはマジで当てる気だった。いや……まじで……。これからは余計なことを言うべきではないと改めて心に誓うのだった。
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