第11話 初実戦
「アメリア! エヴィ! 羽を狙うんだッ!」
「あぁ!」
「わかっているわッ!」
カフカの森に入ったとほぼ同時に、
いや……魔物の生態を考えると独立行動しているとは考え難い。つまりは……これは意図的に用意されたものであると推測。
おそらく生徒の力量を図りたいのだろう。今まで学院に入学して学んできた成果を発揮しろということか……。
そうしてアメリアとエヴィは最前線で
「エリサ」
「う……うん!」
「俺が合図したら、魔術を頼む」
「いいけど……何をしたら?」
「それは……」
俺はエリサに魔術の指定をすると、彼女はぐっと手を握って了承してくれる。微かに手は震えているものの、そこにはしっかりとした意志があった。
「……アメリア、エヴィ! 加勢する!」
声を上げると、脳内でコード理論を走らせる。
《
《
《
《エンボディメント=
今回のそれは、普通の魔術ではない。エヴィも言っていたが、魔術には身体強化できるものもある。これは通常の人間の動きをさらに強化してくれるもので、もちろんそれは、力そのものを高めるものもあれば、速さに特化したものもある。
俺は
体内に流れている
「──フゥッ!!」
肺から一気に空気を吐き出すと、そのまま地面を思い切り蹴って飛翔。俺は縦横無尽に飛び回っている
──なるほど。久しぶりだがコードの馴染みは、悪くないようだ。
「……ギィイイイイッ!」
と、脚を切断された
俺はそのままスタッと地面に降り立つと、さらに暴れまわる奴の動きを見極める。
「レイ。どうするの?」
「あぁ。お前の指示に従うぜ? どうやら俺の目に狂いは無かったようだな」
アメリアと、そしてエヴィがニヤッと笑ってそう言葉をかけてくる。
「とりあえずは3人で奴の進路を塞ぎつつ、攻撃を繰り返そう。羽さえ落としてしまえば、こちらの勝ちだからな。あとはあの尻尾に気をつけろ。刺されるだけではなく、毒を振りまいてくることもある。酸性が強くて、人間の皮膚をドロドロに溶かすからな」
『了解!』
今度は3人で改めて距離を詰めて、宙を飛び回る
──そろそろか。
そう判断して、俺はエリサに向かって声を上げる。
「エリサッ! 今だッ!」
「……うんッ!!」
その刹那、ゴウッと大きな音を立てて風が吹き荒れる。エリサには綿密にコードを組み立てて、出来るだけ威力のある風を起こして欲しいと頼んであったのだ。
エリサが選択したのはどうやら中級魔術の
「……ギィイィイイイイイッ!」
フラフラとしているところを、俺は決して逃しはしなかった。すぐさま大地を蹴って飛翔すると、そのまま勢いのまま……。
一閃。
先ほどとは異なり、縦に剣を振るうとそのまま綺麗に
「……よし。こんなものだな」
ドォンッ、と音を立てて地面に落ちていく
どくどくと流れる血液。頭をかち割られた
「レイ! すごいわね!」
「あぁ! 片鱗は見えていたが……ここまでとはな!」
「まぁ……田舎の森で魔物とはよく出くわしたからな。この手の対応には慣れている。害虫駆除みたいなものだ」
「ふーん……田舎の森ねぇ」
「あぁ。さぞ危険な森だったんだろうなぁ……」
ニヤニヤと笑いながら、アメリアとエヴィはそう言ってくる。
ぐ……くそ……。『田舎の森万能論』は通じないのか!?
話が違うではないか、師匠!
と、心の中で悪態をつきながら俺は死体のそばで腰を下ろす。
「さてと。どうする? こいつは一応食べれる部位も存在するが?」
「えぇぇ……食べれるの、こいつ?」
「アメリア。何事も経験だ、と言いたいところだが今は携帯食料もある。それに人は別に2週間程度なら食料はなくても死ぬことはないし、水も……2、3日程度なら大丈夫だ。今回は水などは魔術で簡単に生成できるからな……嫌悪感があるのなら、やめとおこう。別にサバイバル訓練ではないしな。アメリア、燃やしてもらっても?」
「わかったわ」
俺は周りの木々に火が移らないように少しだけ死体の位置を動かすと、彼女の魔術によってその死体を燃やしてもらう。
その様子を見ていると、俺の後ろにはエリサが立っていた。彼女は何かを言いたそうにモジモジとしているが、すぐに口を開いた。
「あ……その……レイくん。すごいね……!」
「ん? いや、俺は別にいつものことだからな。でもエリサは実戦は初めてだっただろう? 震えていたしな」
「……その……私、怖くて……あんな大きな魔物……知ってはいたけど、実際に見ると……怖くて……! でも、レイくんが教えてくれたから……」
「そうか……エリサは魔術が苦手なんだったか?」
「う、うん……」
「でも今回の魔術はすごかった。なぁ、二人とも」
「えぇ。すごかったわよ、エリサ」
「あぁ! 俺には真似できない芸当だな!」
アメリア、それにエヴィのやつも同調してくれる。
俺は別に同じパーティーメンバーだから、学友だからそう言っているわけではない。実際にエリサの魔術はかなりのものだった。魔術とは時間をかければかけるほど、誰でも簡単に威力のある魔法を放つことができるわけではない。
それはコードを複雑に絡み合わせるようにして、処理の過程を行う必要があるからだ。それこそ、集中力が途切れてしまえばコード理論は破綻する。
でもあのプレッシャーの中で、エリサはやりきったのだ。それは素直に賞賛するべきことだと思ったから、俺はそう口にしただけだった。
「あ……ありがとうみんな……」
「エリサ、少しは自信が持てたか?」
「……う、うん! ちょっとだけど、魔術の使い方も……わかってきたかも!」
「そうか。それは素晴らしい進歩だ」
ニコリと彼女に微笑みかけると、エリサは真っ赤になって下を向いてしまう。
その様子を見て、俺はあることが脳内によぎった。
「どうした? 何かあったのか? まさか!? 毒でももらったのか!? 医療班を呼ばなければ! メディックはいないのか!? メディークッ!!」
「だ……大丈夫だから! 違うから!」
「そうよ、レイ。エリサは嬉しくて照れてるのよ」
「……アメリアちゃん!」
「ふふ……ごめんなさいね。エリサ。でもレイはしっかり言わないとわからないみたいだから」
「そうだよな。こいつ、妙に察しが悪いところがあるよな」
「む……すまない。しかし、それならよかった。俺は本心を言っているだけだからな。これからも一緒に精進していこう、エリサ」
「……う、うん!」
とりあえずは第一関門であろう魔物の撃破は成功した。
しかし問題というよりも……この森の本質は魔物ではないだろう。すでに全員で話し合って共有しているが、問題なのはこの森が方向感覚を狂わせるということだ。おそらく、まっすぐ中央に向かったところで辿り着きはしない。
この森に存在している魔術自体をどうにか攻略しなければ、きっと中央にはいけないのだ。
「さて、とりあえずは進もうか」
「そうね」
「あぁ」
「う……うん!」
俺たち四人は改めて歩みを進める。
微かに光が差すものの、木々の影で暗くなっている不気味な森の中を……真っ直ぐと。
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