第10話 カフカの森へ
放課後。俺たちは明日のカフカの森での実技演習に向けて、作戦会議と自己紹介を兼ねて空き教室に残って話をすることになった。
「知っているかもしれないけど、アメリア=ローズよ。みんな、よろしくね」
まずはアメリアから自己紹介をする。
今は四人で椅子を囲うようにして座っている。そしてその左隣にいるエヴィが口を開く。
「俺はエヴィ=アームストロング。レイと寮の部屋が同室でな。みんな、よろしく頼む」
その次はエリサだった。未だにモジモジとしているが、彼女はすぐに自己紹介を始めた。
「あ……えっとその……エリサ=グリフィスです……ハーフエルフです……! そ、その……よろしくお願いします!」
最後は俺の番だ。
「レイ=ホワイトだ。
全員の自己紹介が改めて終わったことにより、早速俺たちはカフカの森の攻略に関して話し合うことになった。
「それでだけど……カフカの森。かなり広いわね。先輩に聞いた話だけど、例年でもクリアできるパーティーはかなり少ないそうよ。何よりも課題なのが、方向を狂わせる魔術が森全体に発動しているとか」
「なるほど。森自体に魔術が定着しているパターンか」
「えぇ。そうみたい」
アメリアの話に、俺は同調した。
この世界にはその土地に魔術が定着してしまっている現象がある。それが迷宮やその他の特殊な場所を生み出しているのだ。
しかし、カフカの森は方向感覚を狂わせるか……それに加えて魔物のケアもしなければならないし、ずっと歩くわけにも行かない。少なくとも一晩は過ごすと仮定しても、かなりの厳しいものになりそうだ。
俺は今までの経験的にもっと過酷な場所、それこそジャングルなどでも寝ずに3日程度は活動できる自信があるが……流石に他のみんなはそうもいかないだろう。
「そうだな……まずは森の地形を把握したいが、このもらった地図だけでは把握しにくいな……。これは現地に行って実際に把握するしかないとして……皆の得意な魔術を整理しておこう」
「私は炎系なら割と得意よ」
「俺は身体強化だな!」
「私は……その……得意なのは……水とか風……かな?」
「なるほど。ちなみに俺はエヴィと同じで、身体強化系なら得意だ」
今の状態でも……と付け加えることはなかった。
何故、俺が身体強化を得意としているのか。いや、得意という形容は厳密には正しくはない。他に比べれば、まだ使える……という意味合いが正しいだろう。
というのも、外部干渉ではなく内部干渉ならば、コード理論は適応しやすいからだ。
「そうね……それなら、前衛はレイとエヴィがいいかしら? 私が遊撃で中衛で、後衛がエリサとか?」
「いや中衛は任せてほしい」
「そう?」
「あぁ。この手の訓練には心得がある。状況はおそらく俺が一番的確に把握できるだろう。アメリアはエヴィと共に前衛を任せたい」
「わかったわ……でも、この手の訓練に心得があるって……あなたやっぱり……」
「まぁそれは、田舎の森で色々とな」
そう言うとアメリアはすぐに話を切り替える。
「そっか……まぁいいわ。レイのことは色々と頼りにしてるから。実際に剣技の訓練とか、体を動かすやつはかなり得意みたいだしね」
「おぉ! アメリアも同じ意見か! だよなぁ……レイのやつ、妙に動きが様になっているというか……親父に似てるんだよなぁ……」
「あら。エヴィのお父様?」
「あぁ。軍人をやっているんだが、妙に雰囲気が似ていてな」
「ふーん。そうなんだ……」
じっとアメリアに見られるが、無視無視。詮索したいのはわかるが、今はスルー安定だ。俺は最後にエリサの意見を聞いてみることにした。
「エリサ。勝手に決めてしまったが、いいか? 君の意見も貴重だ」
「あ……その……私は確かにどちらかといえば、魔術の方が……いいから……前衛だと動けないし……頑張ってみんなをサポートするね……!」
「うむ。その調子だ」
「うん……!」
エリサのやつは妙にやる気になっていた。俺の発破が効いたのなら、嬉しいのだが。
「それにしても、あのローズ家の長女が来るとはな。意外過ぎるぜ……」
そういうのはエヴィだった。まぁ確かに、アメリアはもっといいパーティーを選択することはできただろう。でも、わざわざ俺たちのところを選んだのはどうしてだろうか。
「私、血統とか嫌いなの」
「む。そうなのか? ローズ家は確か三大貴族筆頭なのだろう? 誇らしくはないのか?」
「誇らしくないわけじゃないけど……その……何でもかんでも血で説明されるのは嫌なの。私は努力もして、今の私になったのに……まるで才能だけの魔術師と言われるのが、ね」
「……なるほど。貴族も色々とあるようだな」
血統が嫌だ。その話は初めて聞いたが、貴族の中にはそのあまりの血統主義に嫌気が差す者もいると言うが……アメリアはどうやらそっち派だったようだ。
確かに血統主義は何よりも、その血を重んじる。つまりは……才能だ。でも俺は以前言ったように、能力とは才能、努力、環境の3つが適切に絡み合うことで発揮される。これは師匠の言葉なのだが、それは真理だと思う。
才能だけでも足りない。努力だけでも、環境だけでも然り。
俺はそれを嫌というほど、教えられてきた。確かに血は大切だ。でもそればかりに捉われていては前には進めない。実際のところ、世界七大魔術師もまた全員が貴族出身というわけでもないのだから。
その後は全員で改めて話し合い、解散することになった。
◇
ということで翌日。俺たちはカフカの森の目の前に来ていた。目の前にはただ生い茂る森しか見えない。その奥を見通すことは不可能なほどに。
この場には一年生の生徒が全員参加だが、初期位置はパーティーごとに決められていて俺たちは指定の場所に立っていた。
「ううううぅ……緊張します……」
「大丈夫よ、エリサ。私たちがいるから」
「うう……アメリアちゃんは優しいですね……うう……」
「もう。元気出してほら!」
と、女性陣は二人で戯れていた。
一方の俺たち男性陣といえば……。
「レイ、緊張はしていないようだな」
「もちろんだ。むしろ久しぶりの感覚だな」
「久しぶり?」
「ま、まぁ田舎出身だからな。森や山を駆け回っていたのさ」
「ふーん。そうなのか」
ここ数日。アメリアとエヴィの視線が時折厳しいものになっているのを俺は知っている。まぁ確かに俺の素性は色々と明かせない事情があるのだが、嘘をつくのもなかなか大変になってきた。でもこれも宿命だ。
俺は師匠の後を継いだ世界七大魔術師である、『冰剣の魔術師』なのだから。
冰剣の魔術師の本質は何だ?
その問いは、過去には答えることができなかった。でも俺は知った。冰剣の魔術師の本質というものを。それと様々な要因が重なり合い、俺は師匠の後を継いだのだ。
「……師匠」
「ん? 何か言ったか?」
「いや……何でもないさ」
空を見上げる。もう夏も近づいて来て、空がとても澄んでいる……そんな気がした。この青空のもと、俺は今日も進んでいこう。
「さて、と。二人とも準備はいい?」
「おうよ!」
「あぁ。大丈夫だ、問題ない」
「ううう……頑張る……! 私……頑張る!」
そうして腕時計を見るとそろそろ指定の時刻である、午前6時になる。
ちなみに今回の演習は持ち込みは時計、携帯食料、水筒あとはナイフや剣である。残りのものは現地調達になる。色々と厳しい訓練になるだろうが、俺は存分に経験を生かしたいと思う。
「それでは、始めてください」
どこからともなくそんな声が聞こえると、俺たちは一斉に駆けていく。何も先の見えない。木々の溢れた森へとそのまま突っ込んで行くも……どうやら、俺たちのスタート位置はそれほど良くなかったらしい。
「魔物!?」
「
『了解!!』
俺たちのカフカの森での戦いが幕を上げるのだった。
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