決勝 宮沢賢治 VS アイザック・ニュートン

第6話 永訣のマラ



「勝ち抜きやがったなァ、トゥガル」

「……ハチェロか」


 Bブロックの対戦終了後、会場をあとにするトゥガルを待ち伏せていたのはハチェロであった。

 互いに召喚した偉人は連れていない。

 敵意をズル剥けにしたハチェロとは対照的に、トゥガルは歯牙にもかけない様子で立ち去ろうとする。


 しかし、ハチェロが肩を掴んだことでそれは叶わなかった。


「オイオイオイ、すかした顔しやがって……テメェのそういうところが昔から大っ嫌ェなんだよオレはァ」

「それは光栄だな」

「……クッソムカつくぜェ」


 盛大に打たれた舌打ちは果たしてどちらのものだったか。


「今度こそオレがテメェに勝つ。テメェに勝ってをこの手に掴んでやる……明日の試合楽しみにしてなァ、このロン毛野郎」


 悪態をつき、トゥガルを突き飛ばすと、ハチェロはずかずかとその場を去っていった。トゥガルはやれやれとばかりに長髪を揺らしたが、やがて静かに呟いた。


は私のものだ……誰にも邪魔はさせん」



 ※ ※ ※



 翌日。



「青コーナー、『生涯射精さずに死んだ男』宮沢賢治!」

「赤コーナー、『生涯射精さずに死んだ男』アイザック・ニュートン!」


 同じ伝説を持つ男たちが、己のイチモツを晒しながら同時に入場した。

 これまでの戦いぶりを見てきた観客たちが今まで以上に熱い歓声を浴びせている。

 今日は決勝戦――これを制したものが、願望を叶える権利を手に入れることができる。


(とし子……)


 賢治は精神を統一するため、妹のトシのことを思い浮かべた。

 最愛の妹。

 そして齢二十五で天に昇った妹。賢治の最大の理解者だった。


(このチャンス、必ず握ってみせる!)


 強敵・ニュートンのりんごの木を握りしめる手には、汗がローションと共に滲んでいた。




「それでは両者――始め!!」




 号令と同時に、ふたりの童貞たちは術を発動した。


 ニュートンの手から、"万有ちん力"を利用した猛ラッシュが局部へと降り注ぐ。

 しかし賢治も負けじと、外山御料牧場の景色を詳細に想像することでかわしていく。

 攻めに関しては不慣れな賢治の手が、必死にニュートンの弾性体をしごいていく。

 だが、ニュートンが巧妙に腰を動かすことで衝撃を逃し、なかなか形を変えようとしない。


 しのぎ、しごき、しのぎ、しごき。


 まるで陰と陽とが絡まり合うように、不変の接戦は繰り広げられていく。


(まずいな、これは長引きそうだ……)


 前回の戦いで、しごき合いが長くなると不利になることを知った賢治は玉袋の裏に汗が伝うのを感じた。


(しかしそれはニュートンだって同じはず……どうにか隙ができれば……)


 賢治の空想の盾が御料牧場の牝馬の尻臀しりたぶにフォーカスし始めたころ、それは訪れた。




「ぐっ……!!」




 突如として、ニュートンが手首を押さえてうめいたのだ。


「!? アイザック……!?」


 ハチェロが思わず立ち上がる。それを隣に座っていたトゥガルがたくましい腕でいさめた。


「無理もない……"万有ちん力"は摩擦を最高効率でコントロールする技だろう。ならば相当手首を酷使するはずだ」

「まさか、ありえねェ! 腱鞘炎か……!」


 シコりすぎて腱鞘炎。大丈夫かこの大会。


「わ……私は……まだ……!」


 痛みに震える手を叱咤して、ニュートンはなおも賢治のクラムボンをかぷかぷしようとする。


「やめるんだニュートン! これ以上こんな不埒な戦いで身体を痛めつけるんじゃない!」


 賢治はあまりの痛々しさにしごく手を止めて叫んだ。しかしニュートンは首を横に振った。


「憐れむなケンジ……私に敗走など存在しない!」

「どうしてそんなになってまで、こんな思いをしてまで戦うんだ!」

「言っただろうケンジ!! この次元に『一度も射精さずに死んだ男』が二人もいるなど許されないのだよ!!」


 賢治はえた。


「そんなことで張り合うなよ!!!」


 同時に賢治は悟った――この戦いを終わらせねばならぬと。


「わかった……ニュートン、こんなのはもうたくさんだ。終わらせてやる。手負いの身にこんなことはしたくないが――」


 賢治が改めて手をローションに漬け、ニュートンのイチモツをやんわりと握る。それを受けて、ニュートンも顔を歪めながら手の力を強めた。




「僕は――あなたをイかせてみせる!!!」




 そう言うやいなや、賢治はあらんばかりの知識を総動員して刺激を与え始めた。


「くっそおおおおおおおおおおお!!!」


 裏筋、亀頭、玉袋。

 空いていた手も使って、ニュートンを追い詰めていく。


「ぬおおおおおおおおおおお!!!」


 ニュートンも決して諦めなかった。万有ちん力は出せずとも、思うように手が動かなくとも、背を向けることなく賢治に攻勢を仕掛け続ける。


「「ぐあああああああああああああああああああ!!!!!」」


 両者、ぼうぎょを放り捨てたステゴロの末――





「うっ」





 ビュルルルルルルルルルルルルーーーーーーーーーー!!!!!





「――勝者、宮沢賢治ーーーーーーーーーー!!!!!」


 ウオオオオオオオオオオ!!!


 かつてないほどの強さで放たれたビームが、観客席の防御障壁を貫通して穴を開ける。その下で観戦していた一部の神々が飛沫を浴びてしまい、あまりのイカ臭さに思わず失神した。


(……勝った)


 肩で息をして、椅子から立ち上がる賢治。

 高揚と安堵の中アイザック・ニュートンを見やると、既に粒子となって消えかけていた。


 せめて握手だけでも交わそうと賢治が手を伸ばすが刹那、ニュートンが叫んだ。


「ケンジ、後ろ!!」




 ゴッ、と後頭部に衝撃が走った。

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