第7話 チン河鉄道の夜

 気が付くと、下半身丸出しのままベッドの上にくくり付けられていた。


「あら、目が覚めましたのね」


 声の主を探して、まだ痛む頭を動かす。

 視界に入ったものはあまりにも想定外であった。


「なっ!?」


 そこにたたずんでいたのは、一糸まとわぬ姿の美しい女性であった。

 ほどよい肉付きの身体はほんのりと桃色に染まり、なだらかな曲線を描く太ももの間、整えられたトライアングルの向こうを想像して賢治が思わず喉を鳴らす。

 柔らかそうなふたつの乳房はつやのあるさくらんぼを備えたケーキのようで、一目見るだけで赤ん坊に戻ってしまいそうだ。

 視界の暴力にキーゼルバッハがライヘンバッハである。

 何を言っているのか私もわからない。


「まずはお祝いを申し上げましょう……偉人対抗イキ我慢選手権、優勝おめでとうございます」

「……貴女はもしや」

「ええ、わたくしが女神ダーテ。この世界の愛の営みをつかさどるものですわ」


 にこり、と微笑む姿は妖艶であるが、現状を忘れかけていた賢治は危うく我に返る。


「なぜこんなことをするんだ、願いを叶えてくれるんじゃなかったのか! 僕は妹に――」

「ええ、願いを叶えるのですよ」


 しゃなりしゃなりと優雅に腰をくねらせ、ダーテが近づく。朝露したたる果実のごとき唇を賢治の耳に寄せると、言った。




「全世界の男の願い……わたくし交合まぐわい続けるという夢をね」



「はあっ!?」

 話が違う、そう主張しようとするが、女神ダーテの背後から現れた人物に賢治はその言葉を失った。


「トゥガル……!?」

「例のモノをお持ちしました、ダーテ様」


 長髪をかきあげもせず跪くトゥガル。その姿に賢治は察した。


「騙したな……!!」

「賢治、私は騙してなどいない。確かに『願いを叶える』とは言ったが、『なんでも』とは言わなかったはずだ。キミが妹のトシとやらに会いたいと言ったときも、私は返答していない」

「なん……だと……」


 トゥガルから液体の入った瓶を受け取ると、ダーテは蓋を開けて賢治の分身にとろりとかけ始める。すると、極上の裸体を目の当たりにして勃ち上がりかけていた岩手県が、みるみるうちにイーハトーブへと進化した。


「トゥガルはわたくしの配下の中でも特に忠実な犬なのです……ねえトゥガル、このような逸材を召喚したこと本当に感謝します。いい子にはご褒美をあげなくてはね」


 おもむろにトゥガルの頬を両手で包むと、ダーテは乳房の間へと頭を導いた。


「ぱふぱふ♡ ぱふぱふ♡」

「ありがたき幸せ……!」


 なんだこのやりとり。


「さあトゥガル、行きなさい」

「はっ」


 至福の表情で一礼し、去っていくトゥガル。とんでもないものを見せられてげっそりとしていた賢治は、女神ダーテがこちらに向き直ったことに気づいて身構えた。


「やめろ! 僕はこんなことをするために来たんじゃない!!」

「あら、わたくしは最初からこのつもりでしたのよ?」


 にんまり。

 目を三日月のごとく歪めたダーテの顔つきはまさに淫猥の一言に尽きた。


「どいつもこいつもパンパンパンパンヌチョヌチョヌチョヌチョ……四六時中それを見せつけられて管理しなければならないのに、わたくしが普通の男神どもと交合まぐわおうとするとこちらのことはお構いなしに達してしまう。わたくしが美しすぎるから仕方がないとはいえ、いい加減欲求不満なの」


 白魚のような指先が、賢治の頬を撫でる。


わたくしにぴったりの『なかなかイカない男』が欲しかった……」

「……ふざけるな!!」


 賢治はイチモツと共に怒張した。


「人を騙して、あんな恥ずかしいことをさせて……その上、性の玩具にさせられるなんて僕はごめんだぞ!!」

「あら、そのわりにビンビンなのね?」

「くっ……」


 薬のせいとはいえ事実を突きつけられて怯む。


「心配なさらないで、天国見せて差し上げますわ……」


 肌を寄せてくるダーテ。なんとか逃げようとするも四肢を拘束されて動くことが出来ない。

 このままいいように使われて終わってしまうのか。せっかくここまで禁欲を貫いてきたのに――




(いや)


 そこまで考えて、賢治は気づいた。


(自分で言ったことじゃないか)







「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」


 賢治は己の銀河鉄道に意識を集中した。

 ありったけの、生涯かけて守り抜いた肉欲の力を、天翔ける車体のごとくそそり立つソレに注いでいく。


 ニュートン戦で限界まで精子を溜めたソレは、星屑をまぶしたように光り輝き始めた。


「馬鹿な……! 賢治、自爆なんてやめなさい!」

「やめない!!」


 ぶら下がった双子星がパンパンに張り詰め、発車の合図を今か今かと待ちわびている。徐々に徐々にせり上がるそれは、夜のとばりを持ち上げる朝の訪れを思わせた。


「こんな散々な目に合わせておいて――」


 はくはくと、鈴口が開き、




「ただで済むと思うなよ!!!!」




 ビュルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルーーーーーーーーーー!!!!!






 銀河鉄道は、爆ぜた。

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