彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら

愛果 桃世

彼氏にタピオカしか愛せないと言われたら

「俺、もうタピオカしか愛せないんだ。頼む、別れてくれ」


 彼氏からの突然の宣言に、私は戸惑った。


 キーンコーンカーンコーン……。


 昼休み終了、五分前。高校の校舎に響き渡る鐘の音色は、恋愛終了の合図に聞こえた。



 タピオカ星から、タピオカ星人が襲来したのは昨日のこと。彼らは、地球を侵略するべくやってきた。そして、世界中にとんでもない粉を振りまいているのだ。


 それは「タピオカしか愛せなくなる」粉。


 タピオカしか食べたくなくなり、タピオカしか愛せなくなるという、嘘みたいな粉。テレビのニュースで見ながら「そんな馬鹿な話あるわけない」って思ってた。


 今の今までは。


「本気なの……?」


 私は彼氏に確かめる。彼氏は「本気だ」と言って頷いた。


「タピオカがあれば、もう何もいらない」


 その言葉に、胸の中で何かが壊れる音がした。


「ふざけないでよ! 私たちが付き合ってきた三年間はなんだったのよ!」


 私が叫ぶように言っても、彼氏は気にも留めない。


「人生において三年なんて短いものだ。そうだ、お前もタピオカを愛せばいい。そして、一緒にタピオカの海に埋もれよう。一緒に幸せになれるぞ」


 恍惚とした表情で言う彼氏に私はブチ切れた。


「タピオカ、タピオカって言わないでよ!! タピオカの何がいいのよ! もう知らないっ!!!」


 私はくるりと彼氏に背を向けて駆け出した。


 教室に向かって走っていると、廊下で「私、タピオカのままでいいのかな……?」と呟いている生徒の声が聞こえた。


 彼氏以外にも、タピオカ星人の影響を受けている生徒がいることにゾッとした。


 もう、どうしたらいいのかわからない。


 まさか、彼氏がタピオカに心変わりする日が来るなんて思いもしなかった。


 夢なら早く覚めてほしい。


 そして、教室に戻ると、異様な気配が私を包んだ。


「タピオカ……」


「腹いっぱいタピオカを食べたい……」


「あぁ、タピオカ、どうして君はタピオカなんだ……」


 クラスメイト達が一斉に呟いている。


 何、なんなのこれ!?


 教室のドアの前で立ち尽くしていると、後ろから声がかかった。


「何してるんだ。早く入りなさい」


 数学の先生だった。お父さんと同じぐらいの年齢の先生は、眼鏡を抑えて、私を見下ろしている。何だろう。先生の気配もいつもと違うような……?


「あの……」


 私が教室にちらりと目を向けると、先生は教科書を目の前に出して言った。


「数学は廃止になった。国からタピオカ学に変えるようにというお達しがあったのでね。世界中の人間がタピオカを愛するようにしてくれとのことだ。君はタピオカが好きかね?」


 好きなわけないでしょっ!!!


 私は思わず、教室の前から逃げ出した。


「あ、こら待ちなさい!!」


 先生が追いかけてくる。


 先生だけじゃなくて、クラスメイト達も追いかけてくる。


 怖い。どうしたらいいの!?


 逃げても逃げても追いかけてくる。そして、どこからか無数のタピオカが転がってきた。


 目の前が、タピオカで満ちていく。


 私の体が、タピオカの海に沈んでいく。



「誰か、助けてっ!!!!」




***



 朝のまぶしい光が目に入った。ここは、見慣れた私のベッドの上だ。タピオカの姿はない。


「なんだ、夢だったのか……」


 私はほっとして息をついた。何とも奇妙な夢だった。昨日、彼氏とタピオカドリンクを飲んだから、あんな夢を見たのだろうか。


 そして、私はベッドから抜け出し、朝の支度をする。


 いつも通りの日常が始まるはずだ。



 しかし、数時間後、私は彼氏から驚きのカミングアウトをされることになるのだった……――。

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