第10話 動き出し始める、各々の想い 上
…とある城の一室にて…
月明かりが差し込んできている部屋には明りが無く、窓際に立つ者が外を眺めている光景に、細身の男が近寄って行った。
「ブラント、その話を信じるのか?」
ブラントと言われた者は、ズボンのベルトに手を当てて胸を張っている。
「皇女が死んだ…と言う話は、目で確認はしていないが、馬や人間が殺され、そして焼かれている場所があり、そこには、皇女の紋章が入った外套が破り捨てられていた…。まぁ~、これは工作と思うが、案外…」
「案外じゃ困るんだよ。お前には多額の金を払っている。もう少しで…」
「まぁ~、分かってますよ。もし生きていたとしても、俺が消します」
「ふっ…」
逆光に照らされている男は、カップに入っているワインを口に含んだ。
「それと…ご子息が、明後日には到着するそうです。時間は…昼頃ではないかと…」
「そうか…、ところで、ドミニクは、ビッグベアを手放したと言う話は本当か?」
「えぇ~、私の目の前で…」
「バカな…。」
吐き捨てるように言った男の姿は、小さく頭を垂れ、しばらく考えてから頭を上げた。
「まぁ~いい。息子が王都に来たら、不測の事態を考えて、お前は、例の場所で待機を…。それまでは、街の情勢を伺っておいてくれ」
「あぁ~、そう言えば…。ロイドが街をうろついて、何かを策略していると言う話を聞きました…。オルフェルスから軍が進行しているようでもあります」
「ロイドか…、厄介なのを生かしておいていたな…。」
「あぁ~、まぁ~、見つけたら」
「あぁ、手際よくな!…ドミニクにも、少しばかりおとなしくと…。そろそろ大詰めだからな」
「言っておきます!」
細身の男は小さく頭を下げると振り返り、部屋を後にし、窓際の男は、王都の街を一望してから、夜空に浮かんでいる月を見上げた。
「あと少しだ…あと…」
…街はずれの古民家では…
同じ月を見上げていたロイドは、キングス・キャッスルの近くにある民家にいた。
ぼさぼさの髪を掻きながら小さくため息をつく。
「ドミニクは、屋敷からは出てこないな」
ベッドで横になっている男が、天井を見上げながら言葉にした。
「あぁ…」
「明後日の朝には、あいつらが6000人の軍を伴って王都に来る、親父さんも、よく出兵を承諾したな…」
椅子に片足を上げたロイドは、その膝に顎を乗せて月を見ていた視線を、キングス・キャッスルに向けた。
篝火に照らされている城は、ほんのりとオレンジと石の色であるレンガ色の姿を幻想的に見せている。
「おばさんの遺体を見て、かあさんがなにも言わない訳は無い。6000は少し少ないが…、仕方ない事だろう、息子が反乱を始めるんだ。あっちも守りを固めなきゃな…」
「死ぬ気なんだろうか…」
男の言葉に小さくため息をついたロイド。
確かに、あの時は勢いで言ってしまったが、冷静に考えて見れば、家の問題であり、家系と地位を守るなら、こんな事には手を貸さないのが、普通の領主である。
それでも、派兵をしてくれた父親には、すまない気持ちで一杯になっていた。
この反乱は、確かに確勝は無く、失敗に終われば、ロイドだけでは無く、父親も母親も死からは免れない。
父親が以前に言っていた言葉を思い出していた。
「一人息子だと思って甘やかしすぎたな…。」
これも甘えなのだろう…。
ロイドが言えば、なんとかしてくれる…。
確かに甘えだと思うが、この事案は、生死が絡んだ事案であり、それに派兵してくれたのは、ベッドに横になっている男が言っているように、父親も母親も死を覚悟している事ではないであろうか…。
胸が痛む…、しかし、走り出した行動は、ここでは止められない。
これは、決して反乱ではなく、正当な権利のある者に、その権利を渡す為の戦いである。
だが…。
もし失敗に終わったら、逆賊である。
葛藤が体を駆け巡っていた…。
逆賊になるか、それとも…。
とにかく…この身から、命が消える前に…、今の王を討つことが出来なくても、ドミニクさえ……。
「まぁ~、おれも死ぬのはご免だがな。お前とは小さなころから一緒だったし…」
「あぁ~、すまない、クラウディス…。おまえまで…」
「そんなこと言うな。覚悟は決めているよ。それに…。お前は親友だからな…。お前の取り乱し方を見たら、俺だって…」
男の名前はクラウディス。
ロイドの親友である。
その言葉に小さく瞳を閉じたロイドの脳裏には、セナ・エナの死の表情が映し出されていた。
死を願い、そして、自ら選んだ死に対して、ロイドは憤りを思い出し、再び目を開けて城を見上げた。
「こうなったら、やるところまでやる…悪いが…」
「あぁ~、一緒に死のう…、死ぬ気になれば、なんとか…っても言うし……」
クラウディスはベッドで寝返りを打ち、背中を見せ、その音に視線を男に向けたロイド。
「死ぬ気になったらか……」
ロイドの言葉に起き上がった男。
「そう言えば…、お前に言おうとして忘れていた」
目を開いたロイド。
「どうした」
「夕方、繁華街を歩いていたら、…確か、あの雨の日に、お前をカエルから助けてくれたパーティーの1人、メガネをかけた奴が、何か箱を買っていたのを見たぞ」
「…メガネって…」
小さく考えたロイドは立ち上がった。
「…どうして!」
声を張り上げるロイドを見上げた男。
「どうしてって言われても困る。わからない!確かにあの陰険そうな表情は見た事がある。」
「他の者はいたのか?…まさか…セナスティも?」
「セナスティ?なんで…ってか、いや、女の子に囲まれていたが、男は彼だけで、女の子も見た事があるような…無いような…。とにかく、店の男から高価そうな箱を何個か買って、荷車でどっか行った」
「箱?」
「あぁ~、綺麗な箱だった。ありゃ、たっけぇ~ぞ…」
小さく考えた表情になったロイドは、外へと視線を向けた。
「…ここには来ないはず…、もしかして…セナスティと出会ったのか?……」
「セナスティに会ったって…。おまえは違うチームだって言っていただろう」
クラウディスの表情を見たロイド。
「まぁ~、俺には、お前が何を考えて、模索しているのかわからないけど、どうだ?明日にでも行ってみるか?時間はまだありそうだし、お前が確認すればいい…。どこに居るかはわからないが、俺も捜すのを手伝う」
クラウディスの言葉に、小さく頷いた。
「そうだな…」
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