最悪に向かっている王都の実情 下
辺りを見渡してから、アリッサを見ると頷いて笑みを見せている。
…それに、御飯って、アリッサさんは、なんとも思わないのだろうか……。
クレアの言う通りに、少しして戻って来た、クレアの仲間。
ウルドとラニアは小柄な女性であり、年齢もアサトとは変わりないようだ。
2人とも、目深に被った帽子の向こうの瞳は半開きで、パッとしない表情であったが、その理由は分からない、眠いのか、疲れているのか…、それとも…。
とにかく、この2人がクレアの仲間との事である。
その2人は、挨拶する間もなく、床に胡坐をかいて座ると、王都の状況の報告を始めた。
…というか…。
アサトらは話を聞く。
王都では、税金の払えない者らの追放が始めている事と、大規模なマモノの捕獲と収容所を、キングス・ルフェルスより、西に少し行った場所に造ると言う事であった。
王が即位後にキングス・ルフェルスの西に収容所を造り、エギアバル監獄では、収容が容易でないとの事で、最低20000人は収容が出来る、大規模な収容所を造る予定であり、大規模なマモノの捕獲は、その建設の為の人員確保のようである。
また、完成後は随時、公開処刑を行うとの事で、収容所の傍には、火葬場と大きな穴を掘る計画になっているとの事である。
王都にいる獣人の亜人らは、壁の外に出ることが出来ない。
門では兵士が検閲をしており、中に入って来る者はもちろんいないが、いまだに中にいる者らは、文字通り袋のネズミ状態であり、マモノの捕獲は、王都を中心として行われ、随時、範囲を広げると言う事であった。
亜人をかくまった者も捕獲の対象で、密告が相次いでいると言う事であり、密告者には、謝礼金が出ると言う話で、至る所で、兵士が家々を捜索している姿があるそうだ。
また、反抗した者は、その場で処刑をしているとも言っている。
捕獲と処刑の特権を兵士が持っており、素直に拘束されるモノも、人気のない所で殺されているとの事で、この調子で行くと、時間を掛けずに、王都は、マモノだけでなく、人間の数も極端に減るのではないかと、街の至る所で噂が流れていると言う事であった。
王都の住民は、王都外の話しにも敏感のようである。
南からジア・ドゥの軍が攻め込んで来て、王都の民を全滅すると言う噂が広がっており、その事を真に受けた者は、密かに王都から出て言っていると言う話である。
また、東からは、前の王の親戚が、軍を引き連れて、玉座の奪還を狙っており、行方不明だった王の息子、セラスナルが暗殺されたとの噂も聞こえ、また、アルゼストの側近に首を刎ねられ、玉座に飾られていると言う噂も流れていた。
ほかにも、セナスティは、犯されて殺されたと言う噂もあり、犯された後は、バラバラにされて焼かれたとの話も聞こえてきている。
王妃は行方不明であり、王都の傍で、王妃を守っていた兵士の遺体が見つかったが、王妃の姿は無く、クーデター派に拉致され、王妃も犯され、殺されたのではないかと言う話も上がっていたようであり、中には、王妃とやれるならクーデター派になってもいいと、笑い飛ばす者までいたそうである。
また…、黒いモノの軍や、その軍を追う軍の姿があり、数日後には、王都で大規模な衝突があるのではないかと言う事であった。
ほかにも色々話があったが、時間も時間なので、話は重要と思える事柄だけで終わり、クラウトらは買い物に出向き、アサトとアリッサは、夕食の準備を始めた。
ウルドとラニアの話しがは、思っていたより、状況は最悪に向かって進んでいると感じていたアサト。
「…ありがとう…」
鍋の中を見て、そう感じていたアサトは、アリッサの声に我に返った。
「え?」
アリッサを見ると、野菜を切り終え、ざるに野菜を入れて、アサトの前の鍋に向かって進んできた。
「ケイティの事。あの子は、ああ見えても、気持ちは複雑だったと思う。私も同じ人種を殺した事は無いけど、あなたに言った手前、覚悟は決めていた。でも…」
「ケイティは、悩んでいたけど、無理強いはしたくなかった。今でも、そう思います。」
アサトに並んだアリッサは、鍋に切った野菜を入れ、再び離れた。
「無理強いか…。」
「僕は、クラウトさんが言った言葉を信じています。」
「クラウトの言葉?」
アサトを見たアリッサ。
「はい、極力、戦闘は避けるとの言葉です。」
「あぁ~、私も、それは思っていた。」
「でも…。アイゼンさんの言葉で、何か…、こう…。変な気持ちになりました」
小さく驚いた表情のアリッサはアサトを見た。
「変な気持ち?」
「はい…、何て言うんですかね…。アイゼンさんも師匠も通った道で、いずれ来る道…。そこには、僕の考えている正義…があるのか…」
「正義ね……」
「…なんか…。言葉では言えないんですけど…、引っかかっているんです。それが何かは……」
「わからないなら、見つければいいわ。だから旅をして、色々見たり、感じたりするんでしょう?」
アリッサの言葉に小さく俯いたアサトは、鍋の中に浮いている野菜を見ていた。
…そう、だけど…、なんだろう、この気持ちは…。
…この感じは……。
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