第9話 最悪に向かっている王都の実情 上
「そう言う事か…」
アイゼンは画面で細くしていた目を閉じて、小さく笑みを見せてから目を開けた。
「無事に、この大陸を出る事が吉であり、留まり、この状況に加担するのも…吉であると考えていた…。これは…アサト君の考えかな?」
アイゼンの言葉に小さく頷いたアサト。
「すみません…」
「謝ることは無い、確かに、私は皇女には、『我々は、手を貸すことはできませんが、あなたを支持する事は出来る。あなたがこの国を思うなら…まずは、自分の力で何とかしてみる事も必要なのでは…』と…。私の言った我々と言う言葉は取りようだが…。これは、クラウト君なら、理解していると思う。」
クラウトは画面の前で小さく頷いた。
「大丈夫です。アイゼンさんの仰ったとおり、これは一国民が、何とかできるレベルではありません。こちらには、その鍵となる者も同行しており、彼女の依頼では無く、我々が、ここへ来る決断をしております。それを踏まえて、しっかりと計画は練っております。あとは…」
「時と場所か…」
アイゼンの言葉に小さく頷いて見せた。
「クラウト君の計画なら抜かりはないと思うが、くれぐれも…」
「おい、そんな話はどうでもいい。とにかくだ。現状から言えば、こっちにもいずれ火の粉が降る事になる。お前たちがやるなら…、俺たちも今から、そっちに向かう。それまで待っていろ!」
画面に映し出されたアルベルトの表情は、いつになく冷ややかな視線であり、いきなりの横やりに、アイゼンもオデコを小さく掻いて、困った表情を見せていた。
「王都からの連絡で、こちらの状況も戦々恐々の状況だ。この事は、マモノの討伐とは違う、相手は…」
「大丈夫です。」
アルベルトの言葉を遮ったアサトは、小さく身を乗り出し、頭を下げた。
「アルさん…。ありがとうございます。来てもらえれば力強いですけど、いつまでもアルさんや、みんなの力に頼ってはいられないと思います。それに、アイゼンさんの話しの内容は、今度の相手は同じ種族である…と言う事ですよね…。それも、しっかりと受け止めています。」
「僕らは、その者を殺しに行くのではない…、アルベルト、君の申し出には感謝をする」
アサトの言葉を遮ったクラウト。
「あぁ?」
画面の向こうのアルベルトが怪訝そうな表情を浮べた。
「話を訊きに行くだけです。その延長にそれがあったとしても……」
「大義名分をかざせる鍵を持っていると言う事だな」
クラウトの言葉にアイゼンが付け加え、そのアイゼンを冷ややかな目でアルベルトが見た。
納得した表情を見せているアイゼンは、小さく笑みを見せた。
「…それにしても…君たちは、どんな星のめぐり合わせで、こういう事態に引き込まれるのか…。皇女と共に行動をしているのだろう?」
アイゼンの問いに小さく頷くアサトとクラウト。
「そう言う事なら…。わたしも黙って見ている訳には行かない。わたしの立場で言わせてもらう。遠くにいる君たちが、体を張ろうとしている時に、君たちの長をしている私が、君たちに対して、なにもしないと言う訳にはいかない。だから…、これより、この案件は『パイオニア』が受け持ち、君たちの行動の責任を私が持つ!…と皇女に伝えておいてくれ、そして、君たちは、私の命令で、この国の事案に対応することを許可する!思う存分、君たちの正義を振りかざし賜え!!」
「ありがとうございます」
アイゼンの言葉に、立ち上がったクラウトが、画面に向かって頭を下げると、アサトとアリッサも同じく小さく頭を下げた。
「もし…」
視線を画面にむけたアサトが言葉にした。
その言葉にアルベルトが、画面の向こうにいるアサトへと冷ややかな視線を向ける。
「あぁ~、分かっている。もし、お前たちに何かあったら、大丈夫だ。俺がこの手で、しっかりと仇は討ってやるから…、だがな…。お前の兄弟子として言わせてもらう。」
アルベルトが画面に近づいて来た。
「…これは、命令だ。いいか…、誰も死ぬな!殺させるな!兄弟子の俺たちに仕事を増やさせるな!わかったか!」
アルベルトの言葉に、小さな笑みを見せたアサトは頷いて見せた。
「なら…こっちも準備をしなきゃな、アイゼン。こいつらがパイオニアの名を名乗るようなら、ここは必ず血の海になる。みんなに、今度の敵は、人だと言う事を教えなきゃならないぞ!」
アルベルトの言葉に小さく頷くと笑みを見せた。
「アルベルトの言う通りだ。とにかく、こちらは気にせずに、君たちが思うように行動をしてくれ、責任はすべて私が持つ。…そして…」
一つ間をおいたアイゼンは、しっかりとした表情で画面に映るアサトを見た。
「しっかりと見て、見極める…。これは、君らが乗り越えなければならない事であり、いずれ訪れてくる事だ。私もナガミチも体験した事…。君の正義をしっかりと見極めるんだ!」
「え?」
アイゼンの言葉に、ナガミチの名前が出て来て、思わず言葉を発してしまった。
…アイゼンさんも師匠も通った事であって、乗り越えた事と言う事は…。
…2人は…。
アサトは小さく顎を引いて見せた。
…そうだ、現実なんだ、敵は、マモノだけでないと言う事なんだ…。
その後、エイアイとクラウトが少し話して通信を終え、その場所でカルファがクラウトに何かを手渡し、何枚かの紙を渡していた。
それは、どうやら先ほどクレアが話しかけていた物らしい『衛星電話』と薄型のパソコン、『ノートパソコン』であった。
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