カルファの診療所にて… 下

 クラウトがクレアに訊く。

 「テレビ電話って言うんだって、私も初めて見た時は驚いた」

 クレアが小さく笑って見せた。

 「テレビ…電話?」

 アサトの言葉に音が途切れ、画面に見覚えのある顔が現れた。


「カルファか、どうかしたか?」

 丸渕メガネに顔半分が、マスクで覆われているエイアイが画面に映し出された。


 …え?


 クレアから画面に視線を移したアサト。

 「あぁ~、エイアイ。なんでそこにいるの?」

 「なんでって…」

 カルファの言葉に戸惑うエイアイは、やはりどこか生気が無い感じである。


 「まぁ~いいわ。ここにアサト君らが来ている。」

 画面の向こうのエイアイは小さく驚いたのだろう、マスクがかすかに動き、メガネも上に動いた。

 「そうか…。じゃ、衛星電話を渡してくれ、使い方は…」

 「あんまりわからないから連絡したの、あなたが教えて!」

 カルファは立ち上がり、席を譲るようにアサトらを見た。

 視線があったアサトは、アリッサとクラウトを見ると、クラウトがメガネのブリッジを上げて椅子に座った。


 「…君か」

 「はい、お久しぶりです。」


 …と…。


 「あぁ~、おいマスクメガネ、そこで何している?君かって…お前、壊れたんじゃないのか?そこにはだれもいねぇ~ぞ!!」

 聞き覚えのある声が聞こえて来た。

 「ははは、電話だよ、電話。」

 「電話?…ッチ、なんだそれ…」

 ソファーがきしむ音がすると、しばらくして画面の上から逆さにアルベルトの冷ややかな目が入って来た。


 「あっ」

 「あっ」

 アサトの言葉に、アルベルトも同じ反応を見せた。

 そのアルベルトの目が上に消えると、時間を置かずに画面の横から現れた。


 「おい…マスクメガネ、これはどんな原理だ?」

 「なんだ、なんだ…やけに騒々しいな…」

 今度は…ポドリアンの声が聞こえてくる。


 「デブ髭…これを見ろ。」

 アルベルトの言葉に、エイアイとアルベルトの後ろに、顔中髭の小さな男が現れ、目を細めて見てから、いきなり目を見開いた。

 「…たまげた!なんだこれ!…おいおい…。ゲインツの所にあったのと何か違うぞ!」

 「あぁ~、あれとは違うな…、そこにいるのはクソ眼鏡だな…。本物か?」

 「あぁ…」

 アルベルトの言葉に、メガネのブリッジを上げて返したクラウト。


 「…とりあえず…。これは有線で話せる機器と思ってもらえばいい」

 「有線…。と言う事は、もしかして、デルヘルムとここは、何かの線で繋がっていると言う事ですか?」

 「そうだ…。通信用の線と言うか…。4年かけて、王都からトンネル入り口まで線を埋め、ファンタスティックシティとカルマの村、そして、デルヘルムを線で繋いだんだ。君たちのクレアシアン討伐戦が終わって、トンネルに線を埋めて…。4か所を繋ぐことが出来た…。」

 「それって…4年で出来るんですか?」

 「まぁ~、こちらには色々と、君たちが想像できない機械や技術が存在しているんだ。掘る、埋めるは、案外簡単だよ…。それより、前にカルファには、イリジウム衛星通信電話を渡してあってね」

 「イリジウム?」

 「…そう、さっき言っていた衛星電話だよ」

 「衛星って…もしかして、ゲインツさん?」

 「おう、そうだよ。ゲインツが何年か前に通信用の衛星を見つけてね…去年も…一つ見つけて…、今のところは4つだが…。もう少し見つけると、世界のどこに居ても通信が可能になる…」


 「…そう言えば…」

 アサトは、また思い出した。

 ゲインツに会った時に衛星を見つけていた事を…。

 「そこに何台かあるから、君たちも受け取りな。操作は…」


 「おいクソメガネ。マスクメガネの話しはもういいだろう!」

 アルベルトが画面一杯に顔を映し出した。


 「いやいや…。…カルファに渡した箱に電話と簡単な説明書があるから、うけとってくれ……」

 画面では、押し出すように消えるエイアイの代わりにアルベルトが、エイアイから椅子を取り上げ、画面手前に座った動きが見え、小さくなってゆくエイアイの声が聞こえていた……。


 「それで…お前たちがいる所はどこだ?」

 「…」

 メガネのブリッジを上げたクラウト。


 画面のアルベルトは、何かに気付いたのだろう、視線を少し上に向けると、その画面に映し出されている光景が急速に動き、アルベルトが席を譲る動きから、今度はアイゼンが映し出された。

 その画面に目を細めたクラウトは、小さく頭を下げた。


 「久しぶり…でもないか…。とりあえず、君たちはみんな元気で無事なのか?」

 テレビ電話になれているような感じがする…。

 「はい」

 「そうか…、それで…、エイアイから訊いたが…。そこにいると言う事は…。」

 アイゼンの言葉にメガネのブリッジを上げたクラウト。


 「すみません…」


 画面に向かって頭を下げたクラウトの姿を、アサトは後ろで見下ろしてから、画面に映し出されているアイゼンを見ると、その瞳が細くなっているのに気付き、小さく顎を引いて画面に映し出されているアイゼンを、しっかりとした視線で見た。


 …すると…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る