【舞い踊る】

第278話

【舞い踊る】


 あなたは踊る

 全身をしならせ、弾み

 まるで闘っているかの様に地面と戯れ

 時に硬直し、音楽を燃料に

 自らを走らせる


 踊らずに過ごすことなどは容易い

 にも拘らず踊るのはなぜなの?

 楽しいから?

 いいえ、違う


 苦しいことの方が多い、

 身体を酷使するが為に

 悔しいことが常、

 理想に追いつけないが故に


 己を求め、高めるだけの筈が

 他者との優劣を気にし、比べられ

 劣と評価された時の

 屈辱感に苛まれることほど

 辛いことはない


 自己矛盾を自覚する度に訪れる自己嫌悪に陥る日々に落ちる意義


 無重力を彷徨うの?

 常日頃から束縛されている力からの離脱

 即ち解放

 それさえ感受できれば何もいらない

 そう思える

 単純さが欲しい


 そうだ

 いつもこのようにして

 求めるものがすり変わる

 あなたが踊るはずが

 私が踊るはめになり

 せっかく譲った中枢で

 私はあなたを押し退けて

 あなたの居場所を侵すのね


 脅かしているのは私

 怯えているのはあなた


 踊ることを止めさえすれば

 それで全てが解決するのに

 踊ることを無駄と位置付け

 それであなたは無に帰すの


 心が踊ることもなく

 動悸が乱れることもない

 脈動は一定

 感性は限定


 安定が約束された生には

 一体どんな意味が根付くのだろうか

 埋もれるだけな気がするね

 息をしているだけで満足

 後は待つのみ停止する四肢



 退屈が囁いた

「安定を求めること、それが生きる目的」


 ならばこの目的を思い出すこと

 多分それが、不安定を求める理由

 つまりは

 あなたが踊る理由

 私が居場所を譲る理由


 不安定になりたい誰もが

 むしろ

 生きることそのものが不安定


 そのことに目を瞑り

 そのことから目を背ける


 今日は一緒に踊りましょうか?

 譲る私にあなたは差し出す

 熱を帯びた右手

 微震な風を身に纏い

 籠った熱を形へ


 永久を約束された未完成の

 不安定な底なし沼へ

 足を投げ入れて、潜り続けたい

 埋もれるのではなく

 より深く、より重圧に

 身体をくねらせ、抗いながら

 心踊る、その時にまで

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