【病みは止み、闇を残して、已むを得ず】

第276話

【病みは止み、闇を残して、已むを得ず】


 悲しみの在りか

 破顔の消えたあなた

 苦しみに変えた

 破顔の淀んだあなた


 病んだ心を偽り隠して

 清廉の笑みを灯すあなた

 灯の笑みは影をはやした


 そんなあなたに気付いていながら私は

 あなたへ手を差し伸べる所作もなく

 あなたに何も施さないままで見守っている

 気づかない振りをして


 あなた自身が私へ助けを求めてくれなければ

 私はどうすることもできないのだから

 どこまでも、いつまでも

 あなたの痛みはあなただけのもので

 だから

 あなたの傷はあなたにしか解らない


 それを知っているからこそあなたは私へ

 助けを求めず

 縋ることもなく

 じっと耐え忍び

 我慢を続けているのでしょう健気に


 けれどいつかはあなたも堪えかねて

 精神の崩壊と共に泣き崩れ、塞ぎこみ

 抑圧の結界が決壊する瞬間が訪れる絶対に


 衰弱し、風に揺らめく蝋燭のように希薄となって

 ボロボロと細胞と感情が瓦解していくあなたを私は

 じっとずっと見詰めているのだから


 あなたが限界を迎えたその時その側に

 きっと私はいるのでしょう

 そうしてやっとあなたは

 あなたの傷を包み隠さず私へ向けて

 曝け出してくれるのでしょう


 そうしてやっと私は

 あなたの傷を確かめ触れて

 傷口から流れる涙を拭い

 傷を舐め

 張られた意地に弾かれることもなく

 あなたの頭を撫でるのです


 やっとの思いで、撫でるのです


 あなたが最も傷つき弱り果てるまで

 私は普段の私のままで

 あなたを側から見守っています

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