【抜け殻の末路】

第273話

【抜け殻の末路】


 階段を使わずに、登っている

 子どもの頃に見上げたあのタワー


 下から見上げていた時には天辺が見えていた気がするのに

 いざこうして登り始めてみると一向に天辺が見えてこない


 なぜ使わなかったのか、と

 なぜ階段で上がらなかったのか、と

 何度も僕は自問するけれど、一向に答えは導かれずに

 タワーの中腹まで来たかと思えば

 未だにタワーの土台のぶっ太い鉄筋にしがみ付いている


 登る前にはあんなに近く感じていた天辺も今では

 遥か永遠まで繋がっているあの世への道のりにすら見える


 今から戻って階段で登り直すこともできるのに僕はそれを拒んでいるままで

 飛び降りる勇気も、登り続ける意地もなくなりそうなこの指にはまだ、力は残っているだろうか


 蝉の抜け殻は空だというのにいつまでも木々にしがみついていて

 落ちることも飛び立つことも諦めてそこに置き去りにされている


 なのに僕はそこに留まることにすら辛くなってきて

 風や雨の気候の気まぐれに堪えながら

 じっとしがみ付いているだけの汚れになってしまった


 剥がれた塗装と僕は同じかもしれない

 そう思うことでこの結末を納得しようとする自分に嫌気がさして

 いよいよ僕は決意する



 けれど、でも

 決意の後の行く末を

 僕はまだ、知らない

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