【川のごとく流れる人込みの道】

第260話

【川のごとく流れる人込みの道】


 街中を歩む、沢山の人、色々な人

 誰一人として同じ人生を歩んでいる者はいない

 それぞれがそれぞれの物語を歩み

 それぞれがそれぞれの物語を造っていく

 その多種多様な物語の中のほんの一瞬に

 私は今、出演したエキストラ


 散歩道の途中ですれ違う

 行き先も目的も異なる者同士


 待ち合わせをしている人

 喫茶店でコーヒーを啜っている人

 歩道の横を通り過ぎる車を運転している人


 二度と接点を持つことのないかもしれない者たち

 その彼らとすれ違う一瞬だけ

 私は幾通りの異なる物語達と交差し、重なる

 そしてその一瞬からまた違う物語へと

 拡散し、枝分かれ、それぞれの死へ伝っていく


 外を歩き、すれ違うたびに、

 物語と物語はリンクし続ける


 一瞬浮かび上がっては

 消えていき、また浮かび上がる

 立体交差点のクロス部分を

 視点を変えて眺めようと

 自らの物語を離れ

 他者の物語に思いを巡らす

 ああ、変な感覚

 自分が主人公である物語から外れる違和感

 リアルな疑似体験をその一瞬に見出せる


 すれ違う人々の中に、

 千切った自分を混じり込ませる作業

 断片的な私は幾通りの物語に紛れ続け

 いつしか本体は消え失せる

 人込みであればあるほど、私は薄れていく

 痛みの伴わない、自殺、それに近い

 とても楽しい

 そして家に着くと、

 散らばった私たちが

 集束していき、私を形作る


 私の友人たちは、皆一様に

 紙に書かれた物語や創られた物語で

 これを済ませるようだ


 違う物語を歩みたいのだろうか

 それとも

 自らを消すことを求めているのだろうか


 復活が約束されている限り私は

 この問いを、曖昧にし続けるのだろうな

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