【雨天】

第217話

【雨天】


 雨は嫌いだ。有無を言わさず、私を哀しくさせるから。

 陽射しを遮る雲から、楽しい気分を洗い落とす様に降り注ぐ雨。

 そんな雨が、私は嫌いだ。


 夜。

 部屋の電気を消し、暑いからと窓を開け、ベッドで横になり、首を傾けて屋根の奥に潜む雨雲漂う空を見上げる。

 雨は見えない。夜の闇に紛れて。

 雨音と、風に混じる湿り気だけが、その存在を私へ示す。


 けれど、夜の雨に至っては、洗い流すものは、楽しい気分だけではなかった。

 憂鬱な気分や、自己嫌悪、さらには悩みや苛立ちといった雨雲のようなもやもやまで、洗い流してくれる様なのだ。

 ぱらぱらでも、ぽつぽつでもなく、ざーざーでも、じゃんじゃんでもなく、街を覆う雨音は、幾通りの音色を奏で、重なり合い、私の耳へと届く。

 統合された雨音は、産声を上げた赤ん坊へ浴びせるシャワーのように、柔らかい音だった。

 とても柔らかく、包み込むような、音。それだった。


 夜の雨はいい。

 そう、暗闇の中降り注ぐ雨。

 そして、屋根ある部屋で閉じこもり見る雨。

 眠気を引き連れて広がる闇に身を任せ、安堵の心地よさをもたらす音色に揺さぶられる。

 まるで揺籠で眠る赤子のように。

 母胎で聞いた、鼓動のように。

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