【壁】

第173話

【壁】


 私は私を止められない

 死ねないとかそんな単純な問題ではない


 私が死んでもなお、私が存在した事実は消えないということ

 私が私であり続けてしまうということ、それが問題


 刻一刻と過去る時間という変化の象徴ごとに私が脱皮し続け、私が私を維持する瞬間などはない、という事実もまた普遍で、私は次の私へ引き継がれては過去の私が上書きされ、消えていく連鎖

 ならばやはり、私が私を止めることなどできはしない


 存在の無は、無からでしか成せず、また無からでは存在に成り得ず

 私が私を止めることは、私という連鎖の根本を消すことでしか叶わない、死ぬことでは叶わないのだ


 そう、それはもはや、私を認識する全ての観測者の殲滅、それでしか成せない


 それが邪悪と呼ばれる行為ならば

 悪とは、純粋で無垢な願望がもたらした、悲劇なのだろう


 他人の悲劇は、喜劇でしかない

 この場合、その通りだ

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