【誤りを謝りたいが余りに甘い】

第166話

【誤りを謝りたいが余りに甘い】


 些細なことが折り重なって偶然が浮き出るように

 悪戯なすれ違いも些細なことの積み重ねで起きるものなのだな


 それでも断層を引き起こしたきっかけは、私の一言


 黙って帰ってきてしまった私が

 服を脱ぎ去り、着替えながら考えることは

 謝罪の言葉ではなく、

 世界には飢餓で苦しんでいる人間もいるのだから

 お金がなくて治療も受けられずに死を待つだけの人間もいるのだから

 政治的圧力で弾圧されている事実にも気がつかない貧困な人々もいるのだから

 と他者の不幸と自らの悩みを比べて、自己を保とうとするなんとも卑劣で下賤な思考


 そうやってまた自分の汚いところを手にとって、眺めて、弄り回して

 私という存在が如何に陳腐なものかを自覚してようやく

 どうしてあの時私はあんなことを言ってしまったのだろうか、と後悔するに至る私は醜い


「何度めの後悔だろうか」

 と

 記憶を探りながらさらに後悔し

「今回は反省できるだろうか」

 と

 謝罪の言葉を釈然としないシーツの皺のような心で考える


 いつからこんなに弱い人間になってしまったのだろうか

 なぜこうも不安定な人間になってしまったのだろうか

 無関心でいた頃の私はいつだって理路整然として、

 頑なに安定だけを保とうと求めることができていたのに


 人と交わろうと、手を差し出し

 誰かに干渉しようと、足を踏み出して

 居場所を誇示しようと、声を上げた、あの瞬間に

 そう、あの瞬間に

 脆い物質へと変化し始めたのだろう、私は既に


 脆くなってしまった私は

 支えがないと崩れ去りそうな恐怖を抱いたが為に

 干渉されることを望んでしまった


 その弱さが、失敗が、

 不安定の連鎖を私という存在に引き起こしている発端なのだろう


 こうしてまた今日も私は私の弱さを従えて

 更なる軟弱な物質へと変化する為に

 謝罪の言葉を舌に乗せたままで

 携帯電話に張り付いている

 ナンバーボタンを

 順番に打つ

 指と深く

 吸う

 息


 余計なものまで吸い込まないといいな

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