【我執に溺れているのは溺れている私を助けたかったからだけど溺れている私が無数にいて我執になっているから私は今、埋もれている】

第165話

【我執に溺れているのは溺れている私を助けたかったからだけど溺れている私が無数にいて我執になっているから私は今、埋もれている】


 このままじゃ駄目だと解っていてもじゃあ何がいいのかは解らないからとりあえずこのままで、と現状で満足しようと努めて


 修正の効かない事態になったら死ねばいいや、と真剣に考えていない言い訳を本気で抱いていたり


 そんな自分を客観的に見ていたら、いつの間にか自分が消えていた


 自分を見ていた気がしたがそれはとんだ思い違いで、どこでどう催眠にかかったかは思い出せないけれど、見ていたのは私ではなくて、私は見られている側だったいつの間にか


 抜け出ようと駆けだした私もそれは錯覚で本当は囲まれた檻みたいな塀の前で立ち尽くして未だ覚めることのない夢を見続けているだけだと気が付いたのは、これもまたいつの間にか見る側に変わっていた私


 私を見る私を眺めている私は見られている私を見詰める私たちを見下ろしてほくそ笑む私たち


 左右上下も方向も、ありとあらゆるベクトルは曖昧となって不安定な境界線はきっかけを待つようにしきりに揺らいでいる


 ここまでか、と実は何もしていない癖に何かを必死にしてきたヒーローのように必死に何かを堪えていたヒロインのように悲劇を全うした者を演じようとひたすら観客の目を気にしている舞台そでの私


 誰も見てやしませんよ、と私は私に声をかけようとして、はっとする

 私は私を見ているではないか、とはっとする


 後ろからその「はっと」がこだましていたのは、私を見ている私たちがお互いに見ていることに気が付いた効果音なのだと知らなかったのは私自身、私だけだから反響して聞こえるはっと息を呑むバウンドした鼓動


 反響する理由は閉鎖されていることの示唆で、私を囲っていた檻みたいな塀の正体は壁ではなく、無数に集合して複合してはいるけれど乖離して分裂し続ける私だったのは目を凝らしたから見えた事実ではなかった


 どこまでいっても私、私、私、私・・・・・・私だったことに呆れた私はその我執の壁に頭を打ち付けても頭蓋にひびが入るわけでもなく壁が砕けるわけもなく、無数の私たちにめり込んだ結果その先にはなにがあるのだろうか、と考えて目が覚めた


 なぜ目を覚ましてしまったのだろうか、と後悔と憤りを抱きつつ私は今日も私を見下ろすのだろうかそれとも見下ろされるのだろうかたまには見上げてやろうか、と見上げた空は梅雨の曇ったじめじめの濁ったわだかまりが煮えかえっている今朝は雨


 そう、おはよう私

 おはよう、君の中の私

 おはよう、私の内の私たち

 でも残念、今日はもう、おやすみ

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