【街角の待ち針】

第142話

【街角の待ち針】


 裁縫箱を開いた先

 ぷっくりとなだらかな、フェルトの膨らみに

 突き刺しっぱなしの待針

 他の大柄なハサミや、小柄な指貫と糸通し

 綺麗な羅列で、並べられた縫針に

 色取り豊富な、仲間多き縫い糸

 その中で、待針だけは、待ち惚け


 ボタンを繕う作業には

 待針は無用の長物

 それでも何かを待ち惚け

 取れたボタンは

 手元でいじくり通した時間の成果

 過ぎ去る時を見つめた代償


 ボタンは無様に元通り

 閉じた裁縫箱の中

 待針だけが

 突き刺しっぱなしの待ち惚け

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます