【あぶすとらくと】

第138話

【あぶすとらくと】


 ぼくは昔から、深く精神に潜って自分の無意識に触れてみようと無駄に自己を解剖するのが趣味だった。

 無意識に触れた瞬間それは意識になるのだから無意識にはどうやっても触れられない。


 動作で言えば呼吸なんかが解りやすい。

 ぼくがするのはそれの精神版。

 動機や抑圧、倒錯された私に触れてみたいんだ。


 例えるなら、とても透明なシャボン玉。

 それはいつも不規則に漂っていて、ある角度の時だけうっすらと一瞬だけ目に映る。

 ぼくはそれを確かに認識したい。じっくり観察したい。だって幻影なのかもしれないのだから。

 急いでぼくは手で捕らえようとする。逃してしまわないように。

 けれど触れるとすぐに割れてしまうんだ。

 ぼくがしていることは認知と消滅がイコールになる行為。全くの無駄な行為。

 でも消えるのは形としてのシャボン玉。

 割れた瞬間それらはさらに透明に霧散し、静かに原液の中へと戻り落ちていく。

 だから原液が枯渇することはきっとない。

 そしてまたいつの間にかシャボン玉が膨らみ舞い上がっているんだ。

 いつまでたっても僕は手に取ることができない。認識できない。

 でも本当は消えてなんかいない。

 どこかを新たに新たなシャボン玉が漂っている。


 ある角度が解れば触れることなく観測できるのに、と私は思う。

 でもそれは解らない。きっとぼくがふらふらしているから。

 一瞬の目に映るシャボン玉に夢中だから。


 どこに原液はあるのだろう?

 何がシャボン玉を膨らませるのだろう?

 いくつのシャボン玉が漂っているのだろう?

 いつまで漂っているのだろう?

 なぜぼくには見えないのだろう?

 僕はそれが知りたいだけなのに。

 実際のところ本当はどうでもいいことなのだけれどね、私にとっては。


 原液と化したシャボン玉でぼくの手は塗れている。

 きっとぼくはそのことに気がつくことなくシャボン玉を割り続けているんだ。

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