【えマんシぺーシょン】

第132話

【えマんシぺーシょン】


 ミカは踊る。

 本当に彼女が踊れている間は、頭の中が空っぽになる。

 ミカが外に出てしまうからきっと抜け殻みたいに空っぽになるのだ。

 でもその前にミカはステファンを呼び起こして身体に宿さなくてはならない。

 そのための儀式をミカはストレッチとして行なう。


 身体の関節を軸に筋肉をねじり、固定し、脱力する。

 伸縮と圧迫を繰り返す。肉体に負担をかける。

 これはフィジカルなストレスではあるけれど決して不快ではない。

 メンタルの解放を感じさせる、生への実感に必要なプロセスだ。

 たとえばそれは小さく小さく凝り固まっている意識が泥の肉体の隅々まで張り巡り、水分を吸い上げて泥から土へと形ある身体に錬成されていく、そんな感覚。

 或いは、張り巡らされることでしなやかな骨格ができ、柔軟になるような。

 ちょうど植物の種が根を生やし大地を支えるみたいに。


 もしかすると植物は地球の意識なのかもしれないな、とミカは妄想する。

 だとしたら地球はこのあと踊り出すのだろうか。そう考えたら笑いが込み上げてきて、陽気が顔に染み出すのをステファンが堪えた。

 堪えた?

 どうしてステファンは堪えたのだろう?

 なぜ制御するのだろう?

 むしろどうして踊る?

 彼と彼女は?


 きっとそれは、拒絶や抑圧、抑止することでしか自由を認識できないから。

 ただ、ふわふわ漂っているだけでは満足しないようなのだ。

 自己を操っている、意識が自分にきちんと宿っている、巡っている、という実感をどうやらミカもステファンも必要としている。

 生かされているのではなく、自分自身が生きているということ――それをそれぞれが求めている。

 確認せずにはいられないのだ。いつだって。ひとは。

 気がついているのだろうか、二人は?


 それ自体が逃避であることを。

 生かされているという事象からの。

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