【幼馴染F】

第131話

【幼馴染F】


 私には、昔からの付き合いのある、幼馴染がいる。と言っても、歳は私よりも四つ上である。さらに言えば、私と幼馴染というよりは、私の兄貴aka知人Cの幼馴染であろう。詰まる所、私の姉貴的存在である。

 ここで、彼女の特徴について言及しておこう。

 外見はいわゆる「お姉さま系」であり、身長は170㎝近い。

「あんさんモデルでっか?」と会うたびに尋ねたくなる。

 もしくは、

「どこのお嬢様やねん!」とエセ関西弁でツッコミたくなる。


 そんな彼女の内面はと言えば、「毒舌」の一言に尽きる。

 空気読めないどころか、空気を凍らしスターダストに変貌させ、即座にその場をシベリアあたりに変えてしまうほどの威力で毒を吐く。

 または、敢えて狙っているかのように、地雷を踏みまくる。ここは戦場跡地か?と思うほどに地雷を踏みまくる。にも拘らず、彼女自身はノーダメージなのだから、こちらは堪ったものではない。

 嵐のように、彼女の周りはズタボロになりながら、彼女はいつも嵐の中心にいる。台風の目はいつも晴れ渡っているのだから、彼女は快適なのだ。そう、彼女が嵐そのモノなのだ。


 とまぁ、さすがにこれは誇張であるが、ほぼこの紹介で、彼女の人物像は伝えられているだろう。

 伝えきれてない部分があるとすればそれは、彼女の異質な人格のみなのだが、それは実際に長年接している私ですら、彼女の人格を分析し切れずにいるのだから、ここで伝えられないのは致し方がない。


 さて、先週の日曜日、用事があって私は彼女と出かけた。

 私は運転免許は取得しているのだが、車を持っていない。なので、彼女の車をよく借りている。

 ちょうどその日、彼女は暇を持て余せていたようなので、車を借りたついでに一緒にお出かけをすることにした。もちろん運転は私だ。目的地は、街から外れたところにあるアウトレットだ。だが、買い物に行ったわけではない。まぁ、私のプライベートなことは対して重要でもないので、彼女の話にのみ言及することにする。

 そこについて、しばらく時間があったので、お店を回った。すると、どこからか異臭が。はて、どこかで嗅いだことのある悪臭だな、と思っていたら案の定、あいつがいた。そう、腐敗臭aka友人Eである。

実際には、異臭がする前に、奴を見かけたのだが、奴の姿=異臭なので、大した齟齬はないだろう。


 奴は誰かを探しているような不審な動きをしていた。もしかしたら、幼い子をこの人込みを利用して、誘拐しようと、企んでいるのかもしれない。そう、奴は極度のロリコンだ。だが、子供に危害を加えるようなロリコンでないことは、この私が保証しよう。奴は愛でる為に幼児に近づくのだ。それは危険と言うよりも、「気持ち悪い」である。それにしたとしても、こんな奴が教師なのだから、この国はもう終わりかもしれない。


 奴に気が付かれないうちに、早くここを移動しなくては、私はそう考えた。だが実際は、これ以上奴に近づけば、悪臭が刺激臭に変わり、私たちは無料で病院まで行けるという、なんともラッキーな小旅行に行くことになるので、その場から早く撤退したかった、が正しいだろう。

 だがしかし、そんな私の危惧も虚しく、奴は私たちに気が付き、にやついた顔でこちらに向かって来た。いや、駆け寄ってきた。走るな、臭いが拡散するぞバカヤロー、そう叫びたかったが我慢した。口も開けにないほどに、異臭が辛かったのだ。


「おー偶然だなぁ。何してんだ?」奴は嬉しそうだった。

「お前こそ独りで何やってんの変態?つかここって下着売り場なんだけど変態」私は周りを見渡す。手足のないマネキンたちが、女性用下着を付けてセクシーにポ-ズを決めている。

「いや、なんかさ、今日ここでイベントがあるとかでさ、暇だから来てみた」

「そのイベントがあるって誰から聞いたの?」私は声を凄ませる。

「え・・・それはあれだ、お前の兄貴だよ」ごもる奴の声。

「その時私たちもそのイベントに行くって兄貴、言ってなかった?」私は目を細める。

「えーと・・・そんなことも言ってた気もする」奴は顔を背ける。

「ふうん。それで私たちと会っての第一声が、オーグーゼンダナー、なわけ?」

「いや、マジで偶然だから、お前ら来なくたって俺はここにきてたぞ、たまたまお前らがいただけだから。つか自意識過剰ってもんだぞそれは」

「私まだ何も言ってないけど?」

「え・・・・・・うん、まぁいいんだよそんなことはよ。あれだ、偶然でも必然でもよ、ここでこうやって会ったわけだしさ、一緒に、」

 奴の歯切れの悪い言葉を遮って、彼女が突然言葉を発した。


「バカボンのパパみたい」


 なんですと?私は振り返る。バカボンのパパさんを見たいのですか?と私は急過ぎる姫の命令に狼狽する。彼女は奴を見詰めていた。

「あんだよ、テメェーも来てたのか」奴は眉を寄せる。白々しい、と私は思う。彼女を目当てに来たということはとっくに露見してんだよ、と奴を睨む。

「バカボンのパパみたい」彼女は先ほどと同じ言葉を同じ温度を保った口調で言った。

 どうやら、奴の服装への感想のようだ。奴の服装は、短パンにボーダー柄のタンクトップ。そのボーダーが腹巻に見えなくもない。

「たまに俺に興味示したかと思えばこれだよ」奴は私に囁く。

 顔を近づけんなクセーだろ、といういつものセリフの代わりに、「嫌なら苦情言ってみたら?」と答えた。今日の私は少し大人を演じている。彼女が近くにいるから、それが理由だ。

「文句はない。あれでアイツは褒めてるんだよ」奴は顎を振って彼女を示す。

「ほんとに?」私は訝しがる。なにせ、バカボンのパパである。少なからず、褒める為に用いる比喩の対象としては不適切な気がするのは、私だけであろうか?


私は、「さっきの褒めたの?」と彼女に聞く。

「さっきのって?」彼女は首を傾げる。無垢な少女のようだ。

 どうして私の身近な女子たちはこうも、可愛らしいしぐさを自然にできるのだろうか。帰ったら私も練習してみよう、と余計なことを考えながら、「バカボンのパパさん」と私は答える。

「ああ、あれね。褒めてないわよ。褒めるとか、バカにするとか、そういうんじゃなくって、見たまんまの感想を口に出しただけ」彼女は両手で持っていたバッグを後ろに持ち直し、言った。

「なんで口に出したの?誰が聞いても悪口に聞こえるよ?」私はむしろ、悪口だった、と奴に表明してほしかった。だから、食い下がった。

「それだと、バカボンのパパが駄目みたいに聞こえるわよ?」口元を悪戯に吊るし、彼女は私を見据える。

「え・・・私の中ではバカボンのパパさんは駄目だったんだけど・・・。マミ(仮名)さんの中では普通なの?」

「だからわたしはね、普通とか、変とかってそういう評価とか価値観で人を形容しないの。てかしたくないの。見たまんま。感じたままを言葉にするまでだわ」

「ならさ、嫌だなとか、あれは恥ずかしいでしょ、とかはどうやって形容して言葉にするの?」

「そういったことは口にはしないわ。わたしが嫌だと思うことを、他人に伝える必要はないもの。そういった場合は行動で示すわよ」


 ああなるほど、と私は納得した。

 いつもの彼女のあの唐突な行動は、どうやらこの理屈から来るものだったらしい。彼女は時折、というよりは、誰かと接しているときに、いきなり態度が激変することがある。それは癇癪とか、激怒とか、そういった類のものではなくて、もっと分かりにくい、感情とは切り離された、彼女の癖のようなものなのだ、と私は認識していた。


 ある時は、居酒屋で飲みをしているときに、急に「ループ量子重力理論」の説明をし始めたり、兄貴の就職祝いを兄貴の友人たちとしていた時には、その場に用意されたケーキを一人で全て平らげたり、友人たちへ笑いながら蹴りを入れ始めたり、紙飛行機を折っては、部屋いっぱいに飛ばしたり、と奇怪な行動をしていた。

 私は昔からの付き合いなので、彼女のこの突発性の奇行にはすっかり馴染んでしまっていた。人間慣れれば、ゴキブリだって可愛く思えてしまうものだ。ちなみに、ゴキブリが可愛いと言ったのは、彼女である。

 だから、私は彼女の奇行を目の当たりにした他の人の反応を見るたびに、やはり彼女は普通ではないのだな、と麻痺した認識を改めていたほどだ。

 そして今、彼女の奇行に、理由ときっかけがあることを理解したのだ。これは大発見である。もはや今日ここへ来た目的など、どうでもいい。私はこの高揚した感情を表す為に、後ろで悪臭を放っている奴へ、ビンタした。

 奴は呆気にとられていた。口を不格好にもあんぐりとあけゆっくりとこちらを見る。その様が可笑しくって、もう一度ビンタする。奴に触れるのが嫌じゃなかった。こんな下らないことを面白く感じるほどに、私は嬉しかったのだ。彼女を理解することができた、と。

 その様子を彼女は、にこやかに微笑みながら見守っていた。周囲の人間たちは、我々を避けて通っていた。それはもちろん、奴の悪臭が原因だということは、言うまでもない。


「じゃあな、変態」

 私は奴にそう言って、彼女と共に、ご機嫌でイベント会場へ向かった。

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