【友人D】

第129話

【友人D】


 私には映画監督を目指している友人がいる。(私が一方的に、友人である、とそう決めつけているだけかもしれないが、そう言い表すことが、私にとって一番納得できる名称なのだから仕方がない)

 だが実際には既に自作映画を製作しているので、映画監督にはなれている。なので、正しくはこうだ。沢山の人に見て頂き、感動させることができる映画を作る、ことを目指している映画監督の友人がいる(兼フリーターの)。である。

 ※以下、「奴」と表記。


 先月、成り行きが重なり、奴に読ませた。何を読ませたか、と言えば、私の小説を、だ。

 私は、自分の小説を他人に進んで読ませることはしない。というか、したくはない。

 小説は受動的な表現である、と考えているからだ。

 というのは、飽くまでカッコつけた言い訳である。

 本当は、恥ずかしいからだ。

 小説を他人に読ませるなんて行為は、普段自分が隠している自分をさらけ出すことに等しいことだ。

 その自分の弱く脆い部分・敏感で繊細な部分が、守備を一切合切纏わずに、他人に自由に触れられることに等しい行為である、と私は思っている。というよりは、そう感じてしまう。いざ、自分の小説を他者に見せるとなると。

 その頑固かつ意地っぱりで、処女のような理由から、私は自分が小説を書いている、ということすら、私の周囲の人間に打ち明けていない。知られたくはない。弱点がなんであることを知らせることに近いからだ。


 しかし先月、今は映画製作で忙しいから暇がない、と奴が私の誘いを断ったので、奴の家に無理やり押し入った時のことである。

 何を血迷ったのか、私は奴が撮るはずの映画の脚本を読み、横やりを入れた。いや、そんな生易しいものではない、嫌味や愚痴にすらならない、言いがかりをつけたのだ。

 もちろん、そんな悪気があったわけではないし、本当に脚本が悪かったわけでもない、と思う。

 折角来てやったのに、相手にされないことへの、ただのひがみだ。つまり、いじけていたのだ、私は。

 にもかかわらず、奴は怒るどころか、私の話に耳を傾けてくれた。こうなっては私が調子に乗らないはずもなく、ずらべらと、抗弁を垂れながら、アドバイスという名目のもと、私の自己満足で低俗な脚本修正案が披露された。

 その結果、おまえ何か物語書いてこい、と言われた。

 もちろん最初は断った。面倒臭い。

 だが、奴はこの私に言ってはいけない一言を放った。

「まぁ、お前にゃ無理だろうからな」


 私、無理だと言われれば、この年でかめはめ波・念能力を修行するくらいに、負けず嫌いである。

 こうなっては私の性格上、と言うよりは性質上、「書いてやるよ、一話ぐらい楽勝!」と右コブシを振り上げてしまった次第です。

 その時の奴の、計画どおり、という表情が、漫画ちっくすぎて、怖かった。

 とりあえずは、ストーリーは用意するから、それをプロットに仕立ててこい、という話に落ち着いた。

 だが、今こうやってそのプロットを書いていたわけだが、そもそも、プロット自体が既に小説なわけで、そりゃもう手を抜くことができない。

 セリフはもちろん、役者(キャラクタ)の立ち振る舞い、情景、時間を盛り込むわけなのだが、普通の小説と変わりない。ただそれが、私の流儀ではない書き方、というだけだ。

 だから、私は小説を書くときは、ストーリーだけしか組み立てない。プロットなどは、最早小説であるからして、二度手間である、とすら考えている。


 小説とプロットの大きな違いは、小説には、内面描写や、伏線、メタファ、が施されているが、プロットにはそれらがない(とは断定できいないが)。物語の枠組みだけだ。しかし、枠組みとは骨格なわけで、それだけで、何を模しているのか、という形、大体の全貌が分かってしまう。そこに、皮をかぶせ、色を付け、時には鳴き声を、時には動くようにモーターを、といったように、趣向が赴くような補足をしていく。果物の皮のようなモノと言い換えることもできる。あとは、皮という型に、中身を補充すればいいだけなのだ。

 つまり、プロットに装飾を施していくと、小説が出来上がる。最後の仕立てがあるかないか、の違いなのだ。その些細な違いが、文才のあるなし、個性のあるなし、技巧のあるなし、に繋がるのではあるが。

まぁ、このように、プロットがとても面倒なことを再確認中である。


 さて、この話が本当のこととした場合、私はいつ友人Dに小説を読ませたのだろうか?


 まぁこんな、くだらないクイズは、どうでもいい。

 そもそも、「これが本当のこととした場合」と仮定したところをみると、この話自体が嘘、という可能性の方が十分にあり得るのだから。

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