【友人C】

第128話

【友人C】


 私にはサラリーマンになった知り合いがいる。敢えて、友人とは言わない。そして、スーパーマンになった、みたいなノリで言ってはいるが、そんな大それた者でも、物でもない。ただの、サラリーマンだ。某電気機器メーカーの営業社員だ。


 新入社員の研修に忙しそうだった三月初頭の、忙しそうな昼間に、久しぶりに一緒に昼飯食おうよ、と奢らせる気満々で、呼び出した。断りもせず、二つ返事で奴は承諾した。

 嫌な顔を浮かべもせずに、のこのこと現れた。正直に言えば、すぐに駆けつけてくれたのだ。

 後日聞いたら、その為に、午後は有休を取ったらしい。頭を下げて、上司から嫌味を言われ、急遽取ったらしい。バカだろこいつ。最悪だろ、私。


 奴は中々に、こじゃれた本場ハンバーガー店へ連れてってくれた。

 店員がやたらフレンドリーなので、「よくここへ来るのかい?常連なのかい?こんな高そうな店でしょっちゅう食事できるなんて、いい御身分だよ」と嫌味たらたらと、私は奴を蔑んだ。

「ううん、今日は二回目だよ。前にお前がモスよりも美味しいハンバーガーが食べたいって、駄々捏ねてたから、最近色々と探してたんだ」彼は、はにかんで答えた。

「そんなこと言ったっけ?」覚えがない。というよりは、適当なことを普段から言いすぎていて、言っていないことでも、言っていたように思えるから困る。言ったのか分からない時は、疑って掛かるのが得策だ。

「覚えてないの?」彼は心底驚いたように眉を上げて、目を見開いた。その後すぐに口は笑った。

「ごめん・・・」きっと彼は本当に美味しいハンバーガーのお店を探していたのだろう。それを思うと、こいつ、バカじゃね?と思うのだが、これから奢ってもらう立場なので、本心は隠しておく。

 それを見透かしたかのように、「思ってない癖に」と軽い口調で私の頭を彼は撫でた。冗談で言ったのだろうが、ちょっと焦ったりした私。


 ハンバーガーは、本当に美味しかった。本場アメリカのやつみたいにでっかくて、ナイフとフォークを使って食べた。ハンバーガーにアボガド入れるなんて、天才だ!と私は感激した。しかし、先ほどから彼が私を睨んでくるので、少々食べずらかった。

「なんで睨むの?」不服を申し立てた。

「に、睨んでないよ」彼は子どもみたいに、取り繕った。冷や汗が出ていてもおかしくない、表情だった。それがおかしくって、私は不服を申し入れたことを忘れていた。また食べることに専念する。

 本当に、うっめぇ~な、こいつーこいつー!!と心の中ではしゃいでいた。


 しばらくしてまた、彼からの鋭い視線が。皿と向き合っている私でも感じられるほど鋭い。むしろ人のつむじは、高感覚センサーなのではないのか?と疑いたくなるほどだ。

「だから、なんで睨むの?」今度は私も眼光を鋭くした。眩しくって、眩しいぞこらぁ!と目を細めながら太陽を睨むような仕草だ。

「ご、ごめん。でも睨んでたわけじゃ・・・。あまりに美味しそうに頬張ってたから、なんかそれ見てたら、面白くって」彼は肩を竦めて、苦笑した。

 私が何か言おうと、急いで口の中のハンバーガーを呑み込もうとしていたら、先に彼が口にした。

「デザート食べる?ここのチョコレートパフェ、めっちゃ美味いよ」

「いただきます!」あれ?さっき何を言おうと思ってたんだっけ?と全てがどうでも良くなった。

 チョコパフェうめぇ~!!


 三千円分御馳走になった。さすが社会人!太っ腹だぜ!

 また今度、奢ってもらおっと!


 単刀直入に「会いたい」、なんて口が裂けても言えないから、飯奢ってもらうことを理由にしてる、なんて死んでも口にできない。

 まぁ、言わなくてもバカ兄貴なら見抜いてそうだけどね。

 大人だよ、兄貴は。

 素敵だよ、兄貴は。

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