【友人B】

第127話

【友人B】


 私の友人には劇団員がいる。(この友人Bの場合も、私が勝手に独りよがりに友人だ、と思い込んでいるだけかもしれないが、そう思い込むことが、私にとって最も納得できる解釈なのだから、仕方がない)


 劇団員、といっても、有名所の劇団には所属していない。

 自らが立ち上げた劇団で、定期的に演劇の公演を開いている。それまでは、バイトでお金を貯めて、生活しているようだ。しかし、舞台に立つ彼女を見ると、なんとも溌溂とし、身体から「生きるとはこういうことをいうのだ」とセリフのような雰囲気を醸し出している。何とも楽しげではないか。


 それだけじゃない、たまに顔を見る程度の動機で、彼女のバイト先へ行ってみると、そこでも、何とも楽しげに働いていた。

 ついでに安くご飯を食べさせてもらおうと思い、声をかけたさらについでに、聞いてみた。


「その笑顔も演技なの?」

 すると彼女は「演技なんてそんな高等なこと、あたしできないよ。不器用だもの」と言う。

 じゃあなんで演劇なんてやってるのだ?と鼻で笑っていたら、どうやら私は口を閉じるのを忘れていたらしく、言葉が駄々漏れしていた。

 彼女は、変かなぁ?とお盆を胸に抱きかかえながら、可愛らしく目線を上に向け、少し考えてから「多分、自分を偽らずに出せるからかな?」と意味のわからないことを言う。君のやりたいことは演じることでしょ?と怪訝な顔を私はする。

 もしかして、聞き間違えたのだろうか?と思い直し、「はい?」と聞こえないふりをすると、「演技ですって言い訳できるじゃない?ホントは私、心の中ではすっごいガサツで、幼いんだぁ。だから、そういう役をやっている時だけは、素の自分を出せるの」と彼女は口元をすぼめて恥ずかしそうに補足してくれた。

 その仕草がなんとも幼い。いや、もともと彼女は幼いのだ。それを彼女は自分で気が付いていないらしい。劇をやっていない自分は、幼くはない、大人っぽい、とでも思っているのだろうか?笑ってしまうぜ。


 ていうか、私は既に、笑っていた。

「なんで笑うのぉ」と困った顔で小さく地団太を踏んだ彼女は、アニメのキャラクタのようだった。そういう可愛らしさが許されるのは、二次元までだぜ、と教えてやりたかったが、あまりにも可愛らしかったので、三次元でも許されるかもしれないな、と考えを改めた。

 どうやら、どんなものにも含まれる、「例外」というやつらしい。

 いや、そんなことよりも、いつまでも話し込んでていいのだろうか?君は今、バイト中だろ?と教えてあげようとした正にその時、時すでに遅し。彼女の背後には、熊の様な店長が。


「なにやってんの?」あらいやだ店長、ドスの利いたお声ですこと。

「あっ店長!こちら、あたしの知り合い」おい!知り合いって・・・どないやねん!いや、それよりも、何をのんきに紹介してんだこの娘は、と心配と予想外の精神的ショックを胸に抱いた私をよそに、店長は発言する。

「おう、リサちゃん(仮名)のお知り合いか、ならしょうがねぇ、ちょっと待ってな」

 店長、去る。

 数分後、現る。

「サービスだ、遠慮はいらねぇよ。リサちゃん(仮名)も休憩入りな、今は客少ないし、あれはやっとくから」

「いいんですか?」と彼女は嬉しそうな顔だ。少しは遠慮しろよ。てか、本当にいいのですか店長?この娘のこともだけれど、この量はサービスなんて言葉で片づけて良い量じゃないよ?むしろ、残せないじゃん、私今、ダイエットちゅ・・・いや、なんでもない。

「おう、おう、お友達は大切に、な。次に店長である俺を大切にしてくれりゃ、文句はないからよ」がはははは、という効果音が似合いそうな口調だ。

「それは無理ですよ~」リサちゃん(仮名)!そこは嘘でも分かりました、ありがとうございます、だろ!

てか、さっきの演劇の話はなんだったんだ。こいつ、日常から素を出しすぎだろう。もっと己を偽れよ、と叫びだしたい衝動に駆られた。なぜか、酔った彼女に、もみあげを、刈られた。


 なぜだリサちゃん(仮名)・・・?

 まぁ可愛いから許すけれど!

 まぁ可愛いと許されるんだけれど!

 その若さと可愛らしさが、いつまでも続くと思ってんなよ!

 可愛らしが失せた人間には私、かんなり厳しいからね!

 世の中が私に厳しいように・・・・


 そんなこんなで、私には今、邪魔な髪を持ちあげると、じょりじょりになったもみあげが。

 でも、なかなか似合うじゃない!!

 そう思い込むことにする。

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