【「最近のこと」~CASE6:友人Aとの約束~】

第122話

【「最近のこと」~CASE6:友人Aとの約束~】


 ここ最近いったい何をやっていたのだ、などという質問はとても非生産的で無意味かつ無駄な質問であると私は思っている。何かをやっていたからこそ今こうして貴様の前に立っているのだ、と屁理屈を言い返す気にすらならないほどの、無意義な問いである。陳腐でもなく愚問ですらなくそれは、浅薄であり浅慮であり、己の狭量さを露わにさせるというだけの、自虐でしかない、と私はそう思うのである。

 なぜ唐突にこんな自分ルールの様な至極私的で小規模な限定した話をしたかと言えば、つい数時間前に、その言葉を私に向かって進言し、自分がいかに不肖であるかを猛々しく披露した者がいたからである。

 その名も、友人A。

 てか名前じゃねぇー! あだ名ですらねぇー!

 といったツッコミはここでは控えさせてもらう。

 彼はこのブログにおいては友人Aであり、友人A以外の何物でもなく何者でもない。ここでの彼の名前は、『友人A』なのであるからして、私は別に、ボケたわけでも、暴言を吐いたわけでもないのだから。(彼と表記した以上、友人Aが、男性であることは認めよう)

 さて、奇しくも私はここ数日間、珍しくブログを更新しなかった。そもそも今までだって、私が毎日記事を書いていたわけではないのだ。しかし、私が「彼等」の記事を『毎日更新していた』ことは、事実である。

 繰り返しになるが、私の友人たちが書いた記事を更新していたのは、確かに私であり、私が書いた記事も不定期的に更新していた。どれが私の書いた記事で、どれが友人たちの書いた記事かは、一見すれば大概が区別できないことであろう。つまり、誰がどの記事を書いたのかは、判らないのである。そもそも管理人である私ですら、誰がどの記事であるのかを判断し切れずに、更新するに至っているのが現状である。

 そして、ここで問題なのが、基本的に私は、勝手に記事を更新することを許可してはいない。私は友人たちに、下書きとして書くことまでしか許可していないのだ。しかし、例外的に無断で更新している者がいる。後に出てくる知人Eである。彼には下書きすら許可した覚えはないのだが、なぜか彼は傍若無人とまでは行かないまでも、我が物顔で、私のブログに記事を更新するのだった。(その都度私は彼の記事を削除している。例外的に『恥じ晒し』的な意味合いで残している記事も幾つか存在していることは否めない)

 ここで話を戻し、まとめに入るが、――つまり、私以外の者が書いた記事は、毎日更新することに支障をきたさない程度には、キープされているのだ。私のすることは、彼らの記事を更新することだけ、という如何にも管理人らしい管理だけである。にも拘らず私は、記事を更新しなかった。別に彼等の記事が決して不愉快な文面だったわけでも、不適切な内容だったわけでもなかったのに。


 それはなぜか?

 ここでその理由を明記し、説明することはそう難しくはない。どちらかと言えば簡単である。

 ただ一言。

「面倒くさかった」

 これだけである。これだけであるが、そう思うに至る過程には、それこそ小説並の出来事と顛末があったことを、ここで強く、強く指摘しておきたい。

 単なる怠惰な感情からの、「面倒くさい」ではないのだ。


 はてさて、私に起きた身の上話をここで書記することも不可能ではないが、それは私のプライベートを曝け出すことに等しく、言い換えれば、私の一番弱い恥辱にまみれた醜態を晒すことに等しいが故に、私は敢えてそのことには触れずに、友人Aとの会話のみに言及することにする。


 ここで少し、友人Aについての「おさらい」かつ「彼の最近の動向」を記しておこう。

 彼はダンサーである。

 ダンスのジャンルは:B-BOYING(俗に言うブレイクダンスである)。

 身分は多分……学生。フリーターの可能性もあるのだが、ここで私が断定できることは、彼がまだ就職していないということだけである。彼が躍りの練習をする場所が、駅前と大学のホールであることから、学生の可能性が一番高いのである。社会人が駅前という公共の場で躍るには、「警察に補導」という恥ずかしいリスクが付き纏い、かつ大学を無断使用という悪戯のような不法侵入では、余りに割が合わない。曲りなりにも社会人となれば、会社の名を背負った責任ある人間である。こんな小便臭いヤンキーの様な真似はしないことだろう。社会人の知人Cを見る限り、そして友人Aの生活習慣を見る限り私は、友人Aをそのように分析している。友人Aの金の羽振りの良さからして、相応の収入があることは、常づね私は疑問に思ってはいたが、別段私が損をするわけでもなく、私に害があるわけでもないので、放っておいている。

 ここまで言うと、「貴様は友人の社会的身分も知らないのか?」と叱咤されそうであるが、私は基本的に自分以外には興味が無い。友人たちのことで私が知っていることは全て、彼らから聴き出したことではなく、彼らが勝手に話したことだ。唯一の例外は、全くの偶然に出会った彼、友人Aが何者であるのか、という私が彼へ口にした、「君はダンサーなのか?」という職務質問のみである。ややもすれば、ナンパの様な状況になっていたかもしれないのだが、私にその気が全くなかったことを私はここで強く宣言する。(ナンパという言い方で、かつ友人Aが男という事実から、私が女である、という推測はあまりに短絡的である。男が男をナンパすることだって十分ありうる現象であるし、自然なことである。そして、このブログ内で、私についての性別および年齢に関しては、一切不明ということで通そうと思う。ただし、読み手の方が、勝手に私というキャラクタを想像し、そのキャラクタに性別と年齢を与えることを、とやかく言うつもりも、制約を付けようなんて気も毛頭ない、ということをここでは更に指摘しておこう。想像することだけは、私たちに許された、唯一の自由なのだから。であるからして、私のキャラは、各々で補正して頂きたい)


 閑話休題。

 私は久々に外食をする為、多少早い夕食ではあるが、街へと足を運んだ。私が外食などというエンゲル係数を高くさせてしまいそうな愚行、即ち、高貴で潤沢な出費をするわけがなく、言わずもがな、奢りである。こんな私に奢ってくれるという何とも酔狂で心優しい人間が私の周囲に数えられるくらいにはいるのだから、この世の中、本当に中々どうして捨てたものではない。そして今日はその中の誰が、なけなしのお金をはたいて不肖私に夕食をご馳走して下さるのかと言うと、これまた言うまでもなく今日の主役、友人Aである。

「よ、元気?」自分で指定しといた時刻にも拘らず遅刻した私に、友人Aは何ともさわやかに挨拶をくれた。

「元気だから私はここにいる」そんなことも分からないのか? と私は挨拶代わりにいつもの憎たらしい口をきく。

「そうだな、元気そうでなによりだ」彼は照れくさそうに言うと、被っていたキャップのつばを擦った。

 彼と合うのは約二カ月ぶりだった。私とて、なんとなく気まずいというか、小恥ずかしいというか、この僅かに逢っていなかった期間で思いのほかよそよそしさを抱くまでに、お互いがお互いに心のバリアを構築していたようだ。それが解けるまで、そして以前のように心が溶け合うまで、少し時間がかかりそうだなぁ、と私は気が重かった。だがそれ以上に腹は軽い。それもそのはずである、朝から何も食していないのだから、腹の中はからっぽもからっぽ、すっからかんなのだ。なぜそんなになるまで食事を摂っていなかったのかと言うと、簡単なことだ、財布の中身もすっからかんだったからである。

 となれば、ここは是が非でも、一刻一秒でも早くご馳走にありつきたい、いやむしろ、ありつかなくてはならない。私は友人Aへ向けて言い放つ。

「おい、ぼけっとしてんな、私は腹減ってんだぞ。それも『腹ペコ』なんてそんな可愛らしい呼称の状態じゃない、腹が減り過ぎて逆に胃液で腹が一杯なくらいなんだ。この状態を私は敢えてこう呼んでいる、腹が胃液で一杯、略して『ストイッパイ』」

 友人Aは返事に逡巡したのち、「ストマックと『胃液が一杯』をかけてるの?」と仕方なさそうに頬を緩ます。

「あ、わかってくれた?」私は満足気に歩調を弾ませ、説明口調で、「それと私の辛抱強さもかけてみたんだけど。ほら、ストイックって言うじゃん」と付け足した。

「へぇ、なるほど。うまいねぇ」感心したように相槌を打ってくれる彼。

「だろー?」気分が良く私は破顔する。がしかし、はっとして、「ってそうじゃない!」と声を荒げる。「こんなしょうもない不毛な会話なんかどうでもいいの! さっさと飯!」

「うん、じゃ行こっか」


 彼の横に付き、私は歩きながら、「こっから遠いのか?」と彼へ問う。

「それほどじゃないよ。そうだなぁ、駅の方行くから少し歩くかも」

「だったら初めから駅前集合で良かったじゃん」私は不満を溢す。

「いや、ちょっとこの間あそこでモメゴトがあってね、それに僕も巻き込まれて、あんまり近寄りたくないんだよね。いや、僕一人だったなら全然大丈夫なんだけど、今日は僕一人じゃないだろ? 何もないとは思うけど、一応ね」

「なに、喧嘩?」

「まぁ、似たようなものかな。でも、喧嘩と呼べるほど清々しいものじゃない。気にしないで、良くあることなんだ」

「言われんでも心配なんてしないし」

「僕は、気にするなって言ったんだよ、あれなに、心配してくれちゃうの?」

「お前は今からお金の心配をしたほうがいいぞ。今の私は機嫌が悪くて一々値段を吟味して食すことを一切する気が無いから。もう今日はお前の懐具合なんて絶対心配なんかしないし、一切の遠慮はしない」

「ちょっとは頼むよ。僕だって生活に余裕があるわけじゃないんだから」

「うっさい。ほら、いくど」

 こんな憎まれ口を叩けるようになれば、もう気まずい雰囲気も他人行儀な会話もなくなるのだ。すぐにまた私たちは、気の置けない仲へと変遷する。そう、私たちは友人なのだから、遠慮なんていらないのだ!

 親しき仲にも礼儀あり。けれど礼儀よりも大切にしなければならないことがあるのもまた事実なのである。


 友人Aの後を付いて行って着いたお店は、エスニックな雰囲気のステーキ店だった。店内はどこか密林を思わせる装飾が施されていて、壁には、けばけばしい化粧の施された仮面が並び、こちらに挨拶するように静止していた。どことなく、店内に人がいなくとも賑わっているように錯覚してしまうような店内で、居酒屋とレストランを合わせた感じがした。

 外国人と思しきボーイさんに案内されて、奥の壁際の席に通された。私は、とにかく後ろに人が立たれることを極端に嫌う、そんな幼稚な神経質さを持っている。だから、バスに乗る時も極力最後尾に座るし、地下鉄や電車に乗る時も、必ず窓際に背を向けて立つのだ。

 そんな幼稚なこだわりを持つ私であるから、この案内された席には程良く満足する。赤黄色のライトで照らされた薄暗い感じの店内も、そこそこの落ち着きを私に与えていた。

「ここ、良く来るのか?」私はメニューを眺めて思案気味に真面目な顔をしている友人Aへと声をかける。

「え、ああ。うん。たまにね」被っていたキャップを外して、彼は答える。

「こんな所にしょっちゅう来られるなんて、いい御身分だな」私は相も変わらず憎まれ口を叩く。

「いやだから、たまにって言ったじゃん」彼は弁解する様に言って苦笑した。

「それにしても、誰とこんな所にくるんだ? 仮に二人っきりでこんな場所にきたら、それこそデートみたいだな」

「今も二人だろ」飄々と彼は言う。一切の照れが見られないほどの言いっぷりだった。

「いや、私は例外だろ。気持ち悪いこと言うなや」本当に気持ち悪い、と私は顔を顰め、再度メニューに視線を落とす。

「気持ち悪いって……酷いな」口元を吊るして彼は、「自分から話を振っといてそれはない。頂けないなぁ」と目尻を下げた。

「いいんだよ。お前が頂かないんだったら、私がお前の分まで頂くからさ」

「飯の話じゃないんだけど」彼は不承不承に指摘する。

「知ってるよ」

「そうなんだよな、君はいつまでたっても意地悪だ」

「それも知ってる」

「なら実は僕が、君のその暴言に酷く傷ついてることは?」

「それは初耳だ。むしろ私がいつ暴言を吐いた? 耳鼻科いって一回診てもらった方がいいんじゃないのか? むしろ明日にでも精神科へ行くべきだ。私が暴言を吐いて自分が傷ついている、なんてそんな被害妄想は明らかに異常だ。統合失調症とか精神分裂症の可能性もあるから、早めに医者にかかるべきだよ」

「……僕はいま、酷く傷ついた」

「まだそんなことを……。だからホント、病院行った方がいいって」

「それが暴言でなくって一体なんなのだらう」

「人の心配を暴言呼ばわりとは……ヤバイな、これは重症だ」攻撃開始である。私は彼の口を鎮圧しにかかる。

「ああその通りだ。僕の精神は瀕死の重傷だ」

「よし、そのままくたばれ。悔いの残らないように、私がお前の全財産をここで使い切ってやるから」

「悔いが残らないが、食い意地が付いてきそうで嫌だな」間髪をいれずに切り返す彼。なかなかやるねぇ。

 私は更に追撃する。「食い意地も、腹が満たされれば自ずと消えてくれるさ」

「腹が満たされても満たされないのが欲というものだ」

「大丈夫、私ほど無欲な存在は他にいない」

「君が無欲ならば、この世に強欲という言葉は必要なくなるよ」

「ああ言えばこういう」酷くぶっきら棒に私は言う。

「そういえば、Are you?」彼は陽気に応える。

「意味わからん」

「君がいかんし、僕は遺憾」

「オヤジギャグじゃん、寒いからやめて」にやける顔をひきつりながらも抑えつつ私は毒づく。

 けれど私の揶揄など意に介せず彼は、「熱くなった君の頭を冷やしているのさ」と淡々したもの言いで答えた。

 ぐ……くそう。私は内心で舌打ちする。

 中々どうして彼は口が達者だ。なんとか一杯喰わせたかったのだが、どうも上手く切り返されてしまう。腕を上げてやがる。もしくは、私の切れがイマイチなのかもしれない。まぁ、今日は奢ってもらうゆえ、奴にもいい思いをさせてやろう、と私は友人Aをからかい困らせることを諦めた。今日のところは、であるが。


 食事が運ばれてきて、飲み物のお代りを注文してから、友人Aはそれまで話していた、最近読んだ小説、漫画、観たアニメなどの話を切り上げて、「最近どうしてた?」と話題を変えた。どことなく、今までとは雰囲気の変わった口調だ。

「どうにかはしてたよ」私はあしらう様に答える。

「でも、なんかあったんじゃないの? メールも返してくれなかったし、友人Bさんも連絡つかないって心配してたよ」

「心配するのは勝手だけど、その心配を理由に私に愚痴るのはやめて」

「あのさ、責めてるわけじゃないんだよ?」けれど彼の口調は少なからず、怒気を帯びていた。

「言った所でもう終わったことだから、仮に私のことを心配してくれているのなら、ぶり返さないでほしい。解決したからさ」

「やっぱりなんかあったんだね……」睨むように彼は私を見据える。

「そう言ったつもりだけど」

「どうして困った時に僕らに相談の一つもくれないかなぁ」

「なんかその日本語へんだぞ」

「話をはぐらかすんじゃない。結構いま僕、真面目に話しているんだから」

「お前が不真面目な時なんてあった為しがない。少しは下ネタぐらい言ってみろってんだ」

「下ネタで笑えるのは中学生までだ」友人Aは毅然とした口調で言う。穏やかではなかった。

「子どもの心を無くすのが大人になる条件だと思い込むのは結構だが、子どもの心を無くした人間は得てしてつまらない人間だぞ」私は少し不機嫌になり、それを意識していながらも、抑えきれず、棘のある物言いになってしまった。

「時と場合で子どもの心を使い分けることが大人の条件だ、だろ? 分かっているよ。だけど、下ネタを言えることが子どもではないだろう。むしろ子どもは無垢であるはずだから、下ネタは言えないよ」彼は真面目に私の主張へ答える。熱のこもった議論になると、それはもう、敵対し合うということに他ならない。それを自覚してはいるのに、そして危惧しているのにも拘らず、私は波だった精神に逆らえず、さらに反論を口にした。「それは大人が子どもに抱く歪んだ幻想だよ。子どもたちに大人の夢を強制するなんて私は反対だ」

「ああうん、それもそうだな」と彼は意識して声を穏やかにし、「……いやだからさ、話をはぐらかすなよ。危うく乗せられるところだった」と急に冷静に戻った。彼の方がそういった自制心を持っている。そのことに、いつも私は救われた心地がする。私も彼へ伝わらない程度に深く溜息を吐き、それと共に熱くなった苛立ちを体外へ排出する。

「ばれてた?」とおどけた口調で私は言って、「っていうか十分のってたじゃん。ノリノリだったじゃん」とからかうように指摘する。

「そうかなぁ」と彼は頭をかく。この仕草が出れば、もう大丈夫。いつもの彼だ。

 彼が平常に戻ったのを確認したと同時に、私も落ち着きを取り戻す。穏やかで、心地の良い気持ちになった。

 更年期障害か私は、と突っ込みを入れたくもなる。別に更年期障害が悪いわけではないが、まだ更年期と呼ばれる年齢ではないし、そもそも私が女性であると確定しているわけでもないのだからして、「更年期障害か私は」という突っ込みはこの場合、適切ではない。

「ごめん」といつになく素直になった自分を可愛らしく思いながら、「今日は話せないけど、気持ちの整理が付いたら話すから」と私は口にする。「これからも、できる限り相談する。だから、その時は迷惑だと思わないで、私の話」きいてね、と言葉は続かなかった。言いながら段々と恥ずかしくなったからだ。何なのだと言うのか、なぜ私がこんな乙女のような言葉を吐かなくてはならないのか。むかっ腹が立ってくる。と共に、柄にもない台詞で、寒気がした。きっと身体が拒否反応を起こしたのだろう。気持ち悪くさえある。

 しかし、そんな私の内心など知る由もない友人Aは、「あたりまえだろ」と力強く言い、「本当だからね。次は絶対言ってよ、裏切っちゃ駄目だよ」と捲し立てるように言葉を続けた。彼が男でなければなぁ、と思うような台詞だ。妹ふうの幼馴染にでも言って頂きたい台詞である。そんなことを考えながらも私は、「うん……多分」と気圧されて、冗談を口にするのも忘れてしまった。

「多分……ねぇ」彼はやれやれ、と苦笑して、「まぁいいさ。嫌でも次は、無理やりにでも押しかけてやるから」と忠告とも脅しともとれる台詞を吐いた。

「これるもんなら来てみろよ」私は口元を吊るし、無意識のうちで丸めていた紙ナプキンを、えい、と投げつけた。友人Aと食事をすると、私は決まって彼へストローの包装紙や、紙ナプキンを彼目掛けて飛ばすのだ。これはもはや恒例行事ですらある。

 微動だにしない友人Aの顔に、それはぶつかり、コテンとテーブルの上に落ちる。彼はいつも、甘んじてそれを受けるのだった。

 だが今日の彼は、吊るした口元から悪戯な歯を覗かせ、丸まった紙ナプキンを黙って手に取り、デコピンの要領で私へと返した。

 さすがブレイクダンサー。指の力が半端ではなかったようだ。エアガンのように跳んできたそれを、私は防ぐこともできず、顔面で捕えた。

 痛かった。

 そうか、顔にぶつかれば、ナプキンのような柔らかい紙であっても痛いのか。

 それを彼はいつも、一言も発さずに、堪えていたのだ。

 そして今日。彼はそのことを、言葉ではなく、実践で私に対して教えてくれた。これはつまり、言って分からないのなら、分からせる為に、実力行使も止むを得ないぞ、ということの意思表示なのだろうか?

 らしくもなく、私は不安になる。


 友人Aの本気は恐い。本当に怖い。なにをしでかすか分からないことが、究極的に怖い。

 全てをなげうってでも、目的を遂げようとする頑固さが、彼にはある。たとえば、ガムを買うことを目的と定めれば、彼は万引きだって、殺人だって辞さない。手段を選ばない。罪の大小に関係なく、彼は目的遂行を最優先とする。

 それは一方で、無責任、無謀、猪突猛進、当たって砕けろの出たとこ勝負。それらと変わらない愚かな行為でもあるのだけれど、何ごとをも顧みず、なに者にも作用されないその頑なさは、その一途な信念は、ある種異常で、恐怖を抱くことがあるにせよ、私には、とても羨ましく、とても尊敬しうる彼の性質なのである。やはり私は、そんな彼に、余計な苦労を背負わせたくはないし、できることなら、心労もさせたくない。

 だが、彼と友好関係を築いてしまった以上、そして、干渉しあう以上、きっと私が拒んだとしても、彼は自ら私の問題へ介入してくるだろうし、勝手に心配を抱くのだろう。そして私もまた彼が困っていたならば、無償で、惜しみなく力を注ぐのだろう。いや、私の場合、日頃から得ている彼からの恩恵を、ただ返すに過ぎない、当たり前の行為だ。私の場合、無償ではないのだ。日頃から彼からもらっている食事や娯楽への対価。それなのだから。払いきれるものではないにしろ、彼への恩義は、返せるものならば、返したい。

 そうでないと、彼を思いっきりからかい、罵倒する際に、多少なりとも遠慮が生じてしまうのだから。

さてと。紙ナプキンの弾の当たったおでこを擦りながら私は、ラストオーダーを何にしようか、と思案する。

 思いっきり値段の高い品にしてやろう、とほくそ笑んでから、けれどやっぱり一番おいしそうなスイーツを選んだ。貧乏舌の私が選ぶ美味しそうなスイーツは、とても安上がりなものだったことは、この際、致し方ない、と納得を胸に。

 注文を終えた私は、スイーツが運ばれてくる間に彼へ、小さく囁いた。

「実はさ……これ書いているのは知人Eであって、私ではないんだ」



 脚本:俺(知人E:構成)

 作者:俺(知人E:執筆)

 総監督:友人B(管理人の友人:主に推敲)

 友情出演:友人A(内容提供)

※この物語はノンフィクションです。

 若干の演出と、若干の誇張を加えられておりますが、概ね事実です。

 知人Eこと俺の文才――(ではなく)駄文により、実際よりもダウンしたストーリーとなっていますこと、ご了承ください。

(駄文だけにダウン……くふふ)

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