【「最近のこと」~CASE5:私 ver,友人A~】

第121話

【「最近のこと」~CASE5:私 ver,友人A~】


 私の場合、10%の嘘と18%の誤りと72%の脚色が施されております。

 ご了承下さいませ。


***

 私のマンションに友人Aが遊びに来た。と言っても呼んだのは私だ。

 奴がダンスの練習を終えた時刻を見計らって、テキストメッセージを送った。


『今からウチに来い、終電に乗って急いで来い。遅れたら死刑だから!』


 返信はすぐに来た。


『了解

でも、最後のセリフはお前が使っていい代物じゃない

少なくとも僕の前では使うな

二度とだ』


 と、なぜだかキレられた。

 急な誘いに腹を立てるのは分かるが、それとは関係ないところでキレられた。なにが気に障ったのかは定かではないが、憶測を立てれば、どうせ私のメッセージに漫画かアニメのセリフに似た文章が含まれていたのだろう。

 これだからオタクは・・・・・・とむかっ腹が立ったが、今日のところは抑えよう。用があるのは私だからな。


 奴は予定通りに終電に乗って、これまた予定通りの時刻に私の住処へと着いた。予定外だったことは、奴が駅前のスーパーからアイスを買ってきてくれたことだが、嬉しい予定外なので、特に言うことはないし、予定外であるが故に、私がお礼を言うこともない。

 奴から、着いたよ、の合図である電話がかかってきた。玄関の鍵を開けて部屋へ招き入れると、奴は唐突に、脈絡も無しに発言した。

「こどもがいた」

「はい?」意味がわかりません。

「めっちゃかわいかった」奴は、途中で買ってきたのであろうアイスをレジ袋からテーブルに取り出しつつ、ソファへ腰を沈めた。

「なにが?」当然の疑問を奴へぶつける。その間に私も、テーブルを挟んで奴と向き合うようにベッドへ腰かけた。

「だからこどもが」

 このロリコンめが、と言い出しそうになるのを抑えて、「どこにいたの?」と平常を装い尋ねる。

「外に。ていうかこのマンションの前にある神社んところ」

 私の住むマンションの向かいには小さな神社がある。私の勝手な推測であるが、元々はこのマンションの位置に神社はあったのだが、このマンションを建設するに当たって移動したようだ。きっと神社を潰すには罰当たりな気がしたのか、その神社の規模を小さくしつつも、新たにマンションから近い場所へ、代わりの祠を建てたのだろう。

 ていうか子ども?神社の前に?

「え、いつみたの?」声が無意識にちいちゃくなった。

「だから今、ここに来る途中で」

「親は?まさか、子ども一人きりだったなんて言わないよね?」

「いんや。親の姿はなかったよ」

「何歳くらいの子?」

「え~分かんないよ。一歳くらいじゃないかな」

 何言ってんだこいつは。時刻は午前一時ちょい過ぎ。こんな夜更けにそんな幼い子どもがいるわけないだろ!少しは常識と言うものを考えろ、常識を。

 夜中の神社に赤ん坊。

 あぁ、想像しただけで怖いよ。というか思わずその感想が口に出てしまった。

「怖っ」

「ん、なにが?」

 ん、なにが?じゃねぇー!すっとボケんのも大概にしろよ! と怒鳴りたくなったが、大きな声を出すと尚更怖くなるのでとどめた。もしかしたら奴は、この急な呼びだしに怒って、私をからかっているだけなのかもしれない。しかし、そんな酔狂なことをするような奴ではないし、そもそもそんな陳腐な理由で悪戯心に支配され、突き動かされるような人間じゃないんだよな、こいつは。

「いやいや想像してみてよ、夜中に神社で子どもが一人っきりだよ、どう考えても怖いでしょ、変でしょ」 と、とりあえず、奴の見た状況が異様だったことの同意を求めてみた。

「なんで?怖くないでしょ。あ、でも、怪我して血だらけとかだったら怖いかも」

 その感覚は絶対おかしいですって。血だらけじゃなくたって怖いですって。

「大体さ、警察とかに連絡したの?まさか放ってきたわけじゃないよね?」そうだ、本物の子ども、という可能性もある。奴に至ってはそのことを信じてやまないようなのだが。しかし私はどうしてもそのこと以外の可能性を考えてしまう。幽霊とかそういった私の力では太刀打ちできそうもない存在の可能性だ。そうだとすると、警察に通報してもどうにもならないか、と冷静になってきた頭で考える。

「そのまさかだけど…まずかったかなぁ。でも警察に届けるほどのことじゃないと思うんだけどなぁ」

「マズイもなにも、人間として失格でしょその考えは」だって、夜中に一歳くらいの子どもが一人でうろついているのを見て見ぬふりですよ?

「えーそんなにまずいかなぁ?」

「まずいもまずい、激マズだって。死んだら地獄行き確定なみの不味さだよ」

「この間食わされた肉じゃがとどっちが不味い?君の作ったやつ」

「あーえっとそれはだな、とりあえず、不味さを比べようとしているその例えが不味いと思うよ。ていうか、若干トラウマだから触れてくれるな」

「ごめんごめん。でもさ、牛とか馬の赤ん坊は生まれてすぐに立って歩くし、一歳なんて言ったら自力で旅に出ちゃうぐらいだよ?夜中に道にいるくらい別に何てこと無いと思うんだけど」

「うっわ信じらんない」どんなスーパーベビーだよ。こいつの頭、蛆が沸いてんじゃなかろうか、と本気で疑ってしまった。「もういい!あたしが保護する!!」私は頭に来て、急いで外へ駆けだそうとする。が、アイスが溶けていることに気が付き、奴のいるテーブルの前まで戻る。

 奴を睨んで、ぶんどるようにしてテーブルからアイスを奪い、冷凍庫へ入れた。

 その時の奴の顔が、どうして僕が怒られるんだ、みたいな顔をしていたのが、一層私の怒りを増幅させた。

 プンプンな私が玄関で靴を履いていた時、後ろから奴が囁くように声をかけてきた。

「でもここってさ、ペット禁止じゃなかった?」

 おやおや、なんかおかしいぞ。

 そう思って私は踵を返して奴の前に再び立ち、訪ねる。

「子どもって・・・人間の?」

 すると奴は笑いながら、

「こんな夜更けに子どもが一人でいたら怖いでしょ。僕が言ってたのは、猫のこどもだよ。にゃんこ」

 脱力。と共に頭に登っていた血が一気に拡散した。

 まどろっこしいわアホ。

 子猫と言いなさい、子猫と。

 あまりに滑稽な勘違い過ぎて、なんで奴を呼んだのかという根本的なことをすっかり忘れてしまっていた。


 その後、結局私はその仔猫を保護しに外へ出向くこともなく、大事な用事を忘れたままで、奴といつもの様に朝までグダグダと下賤な世間話をして時間を浪費した。

 その後、奴は始発で帰って行った。

 ああ、どうしてくれよう、用事があったのに・・・・・・。

 仕方がないので、次は私が奴の所へ出向いてやろう。

 その代わりと言っては何だが、メシ、奢ってくれ。

***


 というね、いつまで経っても我儘な私なのですよ

 嫌な奴だね、本当

 ごめんね

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