【「最近のこと」~CASE4:知人E~】

第120話

【「最近のこと」~CASE4:知人E~】


 俺が帰宅すると、見計らったようにインターホンが鳴った。

 案の定、ドアの外に立っていたのはあいつだった。

「あ゛ぁ~酔ったぁ~」

 ドアを開けると、さも自分の部屋が如く、目の前のこいつは気怠そうにテトテトと室内へと入ってきた。


「酒飲んできたの?」俺は心配を声にする。

「いんや」

「じゃ何に酔ったの?車酔い?まさかタクシーで来たんじゃ、ってそれは無いか」金がない人間からは程遠い乗り物だからな、と俺が自己解決しているこの間もこいつは、「酔ったぁ~」と怠そうな声を出していた。

「もしかしてバスに酔ったの?」と俺は続けて聞いた。

「いや、いつも通りに電車できた。駅からは歩き」

「じゃ何で酔ったんだよ」エアコンのリモコンを探しながら俺は話を続ける。

「そりゃーあれだよ」と、さも、当然知ってますよね?のように奴は答える。

 だが、残念ながら俺は知らん。てかリモコンどこいった。

 その最中もずっと、「あー気持ち悪るぃ~、ダルぃ~、酔った~」と蝉のようにぶつぶつと奴は喚き続けている。

「だから何に酔ったの?」といい加減まどろっこしくなり、強い口調になってしまった。

 え? と俺の予想外の口調に一瞬戸惑いの声を上げてから奴は、

「だから・・・ほらっ、あれだよあれ、あれに酔ったんだ」

 ね、分かるでしょ? と俺に諭すように話す。今日の会話の中で、初めて真面目な喋り方をした。

 しかし、先ほども言ったように、俺は知らん。大体、こういう場合に、「あれだよね」なんて言葉を使うのは、考えをまとめる為の時間稼ぎだと相場は決まっている。要するにこいつ、適当に「酔った、ダルイ」と言ってただけなのだ、と俺は理解しつつ、何に酔ったつもりにするのだろうか、という興味本位で、「だから何?」とさらに追求した。

「えーっと・・・・・・」奴は部屋を見渡した。この部屋から酔いそうなものを見繕う気だろうか?

 唐突に、はっと奴の横顔が明るくなる。奴の頭上に電球が浮かんだように見えた。

 奴はぐるんっと勢いよく顔を俺に向け、一言。

「あ、地球?」


 随分とスケールのデカい乗り物酔いだな、おい。

 俺は呆れた。

 つか疑問系かよ、自信を持てよ、自分のことだろ。お前に同意を求められたところで俺は知らんがな。地球酔いなんて聞いたことございません、と否定しかできん。

 それにしてもまぁ、なんとも返答に困るボケだ。

 そうだね、宇宙船地球号だもんね、とそのボケに被せて話を合わせて欲しかったのだろうか? 俺はそう考え、フォローも兼ねて「宇宙船地球号だもんね」と言ってあげた。

 だのに、こいつときたら、「は、何それ?」と俺を鼻で笑いやがった。いや、本格的に笑い始めた。「宇宙船地球号だって~」とさも俺がクサいセリフを言ったかのように。

 多少はイラっとしたが、まぁ機嫌が直ったようで良かった、と割り切り、「宇宙船地球号」の説明はしなかった。

 それからアクセント程度に「実際暑くてダルかっただけでしょ?」と朗らかにツッコミを入れるも、「分かってんなら早く飲み物でも出してよ」と奴はソファーにゴロンと寝転がり、リモコンでエアコンを点けた。


 リモコンお前が持ってたんかい!! この日一番の苛立ちを覚えた。


 あいつのせいで苛立ちが溜まる一方な最近だったよ、まったく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます