【猫さん猫さん】

第112話

【猫さん猫さん】


 聞いていますか、猫さん?

「……」

 ねぇねぇ猫さんってばー。

「……」

 猫さーん。ねこさぁん……。

「……っ」


「おいおい何やってんだよ」

 あ、犬さんこんにちは。今日も一段と暑臭いですねぇ。

「何その『暑臭い』って!? せめてさ、せめて『暑苦しい』にとどめようよ」

 すみません。そうですよね、あれですもんね、真実は時として残酷なものですからね。

「なにが!? どの辺が真実!? 誤解を招く言い方は感心しねぇぞ」

 ああ、こりゃまたすみません。犬さん、気にしてらっしゃるのですものね……。

「やめて、もうやめて、なにその同情率120%越えの憐みの視線は! 別に俺は臭くないからね!」

 犬さん、こんな話を知っていますか……?

「どうして行き成りシリアス口調!?」


 とある時代のとある国。小さな村がありました。その村には夜になると、化物が現れるのです。村の住人たちはとても怖がって、怯えながら夜を過ごしていました。そこで、皆のことが大好きだった少年は家から出て、昼夜問わず、村を見回ることにしたのです。ところがその日から、昼間だというのに村人が誰一人出てこなくなりました。はて、これは不可解だなぁ? と首を捻る少年。もしかして皆に何か大変なことが起こったのかもしれない、もしかしたら、家の中で助けを求めているのかもしれない、そう思った少年は居ても立っても居られなくなり、片端から家のドアをぶち壊して、村人の安否を確認しました。皆は無事でした。家族で寄り添い震えながらも、無事でした。少年はほっと胸を撫で下ろします。と、一発の銃声が響きました。もう一発、銃声が響きます。二発目は、祝砲を上げるような、そんな歓喜の混ざった銃声でした。少年は倒れました。倒れながらも、村人が喜びに満ちた表情で家々から飛び出してくるのを嬉しそうに、赤く染まりながら見届けていましたとさ。


「……で、そんな後味わりぃ話を聞かせて何が言いたいんだよ」

 自覚が無いって、怖いですよね。

「もういいよ、俺は臭い、そういうことでいいからもうやめて!!」

 ううん。自覚が無いってことは、むしろある意味、幸せなことかもしれませんね。

「急にフォローに回らないで! 挫けそうになる!!」


 で、犬さん何の用ですか?

「やっと気が済んだのな。俺か? 俺はお前が何だか困ってそうだったからちょっと気になって声をかけてみただけだ」

 くっさ。

「ちょっと待って、リアルに傷つくから不意打ちは止めて!」

 うっざ。

「なに、何なの? 毎度毎度さぁ、そんなに俺のことが嫌いなの? むしろお前って、好きな奴には冷たくあたっちゃう子なの? どうなの? そうなの?」

 猫さんが、一向に答えてくれないよぉ。私、猫さんに無視されてしまって、今凄く悲しいです。

「俺のことを差し置いて!? お前、無視の意味ちゃんとわかってる?」

 はい?

「今さっきお前が俺にしたのが無視だ!」

 虫けら如きが騒がしいですねぇ。

「その虫じゃねぇ!」

 ちょっと犬さん、ダニ臭いですよ?

「確かに駆除し切れてはいないが、臭くはねぇよ!!」

 猫さーん。ねぇてばぁ、無視しないで下さいよ猫さーん。私悲しいですよぉ……。

「俺はもっと悲しいよ!!」

 ねぇってば猫さーん。

「……とことん無視かよ。まぁいいよ。てかお前さ、考えてもみろよ。猫に話しかけたって喋るわけがないじゃん」

 え?!

「お前は人で、猫は猫だろ。喋れるわけがねぇじゃん」

 確かに!

「まったくお前はおちゃめだなぁ」

 へへへ、お恥ずかしい限りで。

「ほんと馬鹿だよなぁお前はさ」

 うん、猫が喋るわけがないものねぇ……っておい!

 犬さんだって、犬じゃん!

「……あ」


「君たちさ、ちょっと静かにしてくれない?」

 ああ猫さん、やっと反応してくれましたね!

「あ、君さ、ちょっとばかし息を二時間ぐらい止めていてくれないかな?」

 合点承知でさー!って二時間!? あの、猫さん、それでは私、死んでしまいますが?

「駄目?」

 が、頑張ります……。


「ったく、ようやるよ。俺は帰る。じゃあな、死なねぇようにな」

 (まだ三十秒……かぁ。私が死んだら猫さん、泣いてくれるかなぁ)

「あ、ちょっと犬くん。二時間後にまた来てくれないかな?」

「珍しいな、猫お前が俺に頼み事なんてよ」

「うん。ここに粗大ゴミが一つ出来上がっている頃だと思うから、その処理を頼みたいのですよ」

 (猫さんそれはあんまりだ!)

「……猫お前、相変わらず、ドSなのな」

 (酷いや! けれど猫さん、それがいい!)

「恍惚とした表情しやがって……勝手に死んでろ」

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